
個人の経験に基づく話ですが、アメリカで起こったことは5年くらいすると日本でも、隣の業界で起こっていることは翌年にはこの業界でも起こる、と思っています。その意味でアメリカを知ること、隣の業界を知ることはとっても重要。だから米「WWD」の情報も盛り込みつつ、ファッションとビューティというそれぞれにとっての隣の業界の情報を一緒に扱う「WWDJAPAN」は、良いメディアだと思うのです(笑)。下で紹介する鈴木さんのUSリポートは、毎回興味深く読みつつ、「同じようなことは、日本でも起こるかな?どうかな?」と想像しています。
「アメリカで起こったことは5年くらいすると日本でも、隣の業界で起こっていることは翌年にはこの業界でも起こる」の具体例を紹介しましょう。花王の「オーブ(AUBE)」終了のニュースです。
詳しくはビューティチームが総力を挙げてまとめた上の記事を読んでいただければと思いますが、アメリカのドラッグストアでは、コロナ前から大企業によるメガブランドの苦境が鮮明でした。若年層の興味や関心がスキンケアに移行したこと、消費者の価値観が多様化したこと、その中でD2Cブランドが勢いを増したことなどが主因となり、私がニューヨークにいた頃(20年くらい前ですがw)には一世を風靡していた感がある「カバーガール」や「リンメル」がまずは失速。次第に、当時まだ日本では勢いがあった「メイベリン ニューヨーク(MAYBELLINE NEW YORK)」も停滞し、22年6月には長らく苦戦していた「レブロン(REVLON)」が日本の民事再生法にあたる連邦破産法11条の適用を申請して、破たんしました。
つまりドラッグストアにおけるカラーメイクの失速は、アメリカでは5年前くらいから顕著だったのです。そして今、同様の現象は日本でも起こっています。やはり消費者の価値観が多様化して、D2Cブランドや韓国勢が台頭。気づけば資生堂の「マキアージュ(MAQUILLAGE)」やコーセーの「エスプリーク(ESPRIQUE)」はカラーコスメだけでなくベースメイクも柱にしようとしています。カラーコスメで季節感をアピールする必要性が薄れたのか、それとも未だコロナ前の水準には至らないからなのか、終了する「オーブ」を含め、「マキアージュ」や「エスプリーク」のTVCMを見かける機会が少なくなったのは、こんな事情があるのでしょう。そう考えると、「オーブ」と同じく花王・カネボウが手がける「ケイト(KATE)」のスゴさが光ります。いまだにカラーコスメ第一主義ながら、マス市場で圧倒的な存在感を放っていますから。
「隣の業界で起こっていることは翌年にはこの業界でも起こる」については、まさにドラッグストアでは化粧品の隣で売っているだろう、1本1500円前後のプレミアムシャンプー&コンディショナー業界の趨勢が参考になります。この業界では、「ボタニスト(BOTANIST)」(I-ne)のヒットで、プレミアムヘアケアに商機を見いだしたベンチャー企業が追随。「アンドハニー(&HONEY)」(ヴィークレア)、「エイトザタラソ(8 THE THALASSO)」(ステラシード)、「ウルリス(ULULIS)」(H2O)、「ヨル(YOLU)」(I-ne)などがヒットを飛ばす一方で、大手各社は「続々と登場する新興メーカーのやり方に解釈が追いつかなかった」。化粧品同様にヘアケアでも構造改革を進める花王・カネボウは、昨年3月には「アジエンス」(03年誕生)、12月には「サラ」(1982年誕生)を終了しました。そして今、「オーブ」なのです。
どうです?冒頭の「アメリカで起こったことは5年くらいすると日本でも、隣の業界で起こっていることは翌年にはこの業界でも起こる」について、納得いただけたでしょうか?この手の事例は、ファッション業界におけるクワイエット・ラグジュアリーのブームと、ヘア業界におけるハイトーンブームの落ち着きなど、例を挙げればキリがありません。「WWDJAPAN」のユーザーには時々、「ファッション業界に携わっているので、ビューティ業界には興味がない」という方がいらっしゃいます。でも、それで良いのでしょうか?「オーブ」終了のニュースに思いを巡らせると、やはり双方を学ぶべきとの思いが強くなります。
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