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無印良品の「第二創業」 問われる実行力と求心力 小島健輔リポート

 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。「無印良品」を運営する良品計画は、9月1日付で新社長に就任する堂前宣夫氏のもと、新しい中期経営計画を発表した。その中身を詳しく分析してみよう。

 7月21日に良品計画が発表した中期経営計画は、出店や売り上げの拡大はともかく、100年後のより良い未来の実現へ、自然や地域と共生する心豊かな「公益人本主義経営」を掲げて「第二創業」をうたうエシカル理想主義的な「企業理念」が注目される。企業活動と自然や地域社会とのエシカルな調和が問われる中、崇高な理想と現実の数値目標は両立できるのだろうか。

中期経営計画の数値目標は達成可能か

 中期計画では2021年8月期見通しの連結売上高(営業収益)4876億円を24年8月期末に7000億円と43.6%、営業利益492億円を750億円に52.4%伸ばすと掲げている。国内売り上げを5割増としているのに対し、海外売り上げは3割強増と抑制されており、赤字が拡大している欧米とインドは不採算店を閉鎖して事業の再構築を図る一方、国内と中国大陸に集中して拡大を図る。

 21年8月期は第3四半期までで国内事業が売り上げの65.7%(前年同期比+3.3ポイント)、営業利益の67.4%(同+17.4ポイント)を占める一方、海外事業は売り上げの34.3%(同−3.3ポイント)、営業利益の31.9%(同−15.9ポイント)に留まり、東アジア事業(中国、台湾、香港、韓国、タイ)こそ売り上げの27.7%(同+0.6ポイント)、営業利益の50.6%(同−47.0ポイント)を稼いでも、売り上げの3.4%(同−3.3ポイント)を占めるに過ぎない欧米事業が東アジア事業営業利益の14.3%を食い潰して足を引っ張っていたから、当然の判断と思われる。

 コロナ前の20年2月期を見ても、良品計画個別(国内事業)より連結はソーシング子会社を含んで粗利益率こそ11.7ポイント高いものの、販管費率は7.5ポイントも高く、中でも人件費率は2.6ポイント、借地借家料は1.1ポイント高く、経常利益率も当期純利益率も4.2ポイント低かったから、海外事業の再構築は不可避の課題だった。

 コロナ以前で在庫過多が表面化する前の19年2月期までの3期間の売上増加率は33.2%、コロナ直前の20年2月期から今21年8月期見通しの売上伸び率も11.1%増だから、そのペースが続くと見れば計画との差は320億円ほどしかない。出店立地の生活圏シフトと商品改革、コロナ収束後の反動消費を考えれば、無理に背伸びした数字ではない。営業利益も19年2月期までの3期間で29.9%伸びていたし、20年2月期から今21年8月期見通しの伸び率も35.2%と高いから、計画値に無理はない(良品計画は20年8月期を6カ月の変則として決算期を変更している)。

 21年8月期は第3四半期まで(20年9月〜21年5月)で国内売り上げの50.1%を生活雑貨、15.8%(18年9月〜19年5月では8.8%)を食品が占め、衣料・雑貨は31.8%(同36.4%)まで減っているから、コロナ禍もあって品ぞろえの生活圏シフトが進んでいる。良品計画は分野別の販売効率は開示していないが、GMS(総合量販店)の食品部門は衣料・雑貨部門の4倍強の販売効率だから、生活圏シフトしても食料品比率が高まれば販売効率は落ちない。

 後述する出店政策で生活圏シフトが加速しても販売効率は落ちず、計画売り上げの達成に無理はないように見える。大型商業施設に比べると家賃水準も半減するから、販売効率が大きく落ちなければ販管費率が低下して営業利益を押し上げる。営業利益率の0.62ポイントアップはむしろ控えめな目標ではないか。

 計画達成の前提は(1)既存店売り上げの年率2%アップ、(2)店舗数を980店から1300店へ、(3)平均店舗面積を250坪から300坪へ、(4)EC比率を10%から15%へ――以上の4点だ。(1)は生活必需カテゴリー/アイテムへの集中と競争優位価格への切り下げで確実にクリアできる。(3)も(4)もできないわけがないが、肝心の(2)は年商20億円超級食品スーパー隣接出店作戦の成否にかかるし、そのペースが遅れれば(3)も遅れてしまう。

  (4)EC比率を10%から15%へという目標は連結ベースであり、国内直営事業ベースでは20年8月期段階(15.2%)で達成済みだから、「生活圏に土着するコミュニティストア」となってローカルOMO※1.を実現すれば国内EC売り上げが伸び、連結ベースでも15%に到達するのは容易と思われる。実際、中期計画では人口60万商圏ごとにフルライン・フルサービスの2000坪級「生活全部店」(年商25億円、坪当り125万円)を核に、食品スーパー隣接の600坪級「生活必需店」(年商10億円、坪当り167万円)を6店舗、その他にも小型の駅前店やコンビニ拠点、宅配サービスなどで合計90億円の売り上げを構想しているから、地域単位のOMOテザリング※1.物流体制を想定しているのだろう。

※1.OMOとテザリング…ECで注文したり取り寄せて店舗で受け取ったり試したり、近隣の店舗在庫を引き当てて店舗で渡したり店舗から宅配出荷し、顧客利便と在庫効率を高め物流費を抑制するOMO(ネットと店舗の融合)戦略がC&C(Click&Collect)。C&Cと連携してエリア内店舗間で在庫を融通・補給するのがテザリング

生活圏食品スーパー隣接出店は客数の壁を超えられるか

 ここで引っかかるのが2000坪級「生活全部店」の売り上げを25億円(坪125万円)と見ながら、より生活立地で客数の限られる600坪級「生活必需店」の売り上げを10億円(坪167万円)と販売効率を34%も高く見積もっていることだ。

 全国スーパーマーケット協会の20年度年次統計から、駅ビルや商店街、クローズドSC(モール型、箱型)内を除く生活圏の年商20億円超級食品スーパーは、全国2万2632店中せいぜい3000店弱と推察されるが、年商20億円以上を売り上げるには平均客単価を2300円と見ても平均して毎日2400人弱の客数が必要で、全床面積の3割を占めるバックヤードを別にして400〜600坪級の売場と200台近い駐車場を備えねばならない。

 そんな年商20億円超級食品スーパーに隣接して600坪のスペースがあり、駐車場のキャパシティにも余裕があり(食品スーパーだけに比べ回転率が低下する)、「無印良品」を好む意識高い系世代の比率が高く、食品スーパー側も相乗効果を期待し、経済的条件も合う物件となると、全国で600あるかどうか。3年で300店という出店ペースには無理があるのではないか。

 食品スーパーに隣接して「無印良品」が600坪で10億円を売り上げるには、平均月坪13.9万円、1日平均275万円を売る必要があるが、問題は客数だ。食品スーパーは目的来店だから買い上げ率は100%に近いが、2400人の来店客のうち何人が「無印良品」で購入してくれるだろうか。客単価を3500円と見て786人(食品スーパー来店客の32.9%)、4000円と見ても688人(同28.8%)とハードルは思いのほか高い。大型SCやパワーセンターでは毎日万単位の来店客があるが、生活圏の食品スーパーでは併設のドラッグストアなどを合わせても週末で3000〜4000人程度が上限だろう。

 それだけ多数の買い上げ客があったとしても、ゆっくり丁寧な今の「無印良品」に多数のレジ客をスピーディーに処理する能力があるとも思えず、セルフ精算やセルフスキャン、スマートカートなど、「温かみのあるコミュニティセンター」という志とは裏腹なデジタル効率化も避けては通れなくなるだろう。

 加えて、食品スーパーの営業時間は12時間程度と長い。長時間の売り場保守に加えて品出しやフェイシング管理のマテハン体系、レジ精算などよほどシステム化されていないと人時効率も苦しくなる。隣接する食品スーパーと営業時間を合わせないと割り切れば、さらに客数が足らなくなる。客数から見れば600坪で10億円というのはパワーセンター的高集客立地に限られたもので、食品スーパー併設モデルの現実は300〜350坪で半分の5億円と見るべきだろう。ならば、「無理がない」と見た数値目標の達成は多少遅れることになるのではないか。

「誠実で倫理的な商品」を適正価格でサプライできるか

 「生活を支える基本商品は顧客品質を維持したまま競合より十分、低価格にする」「開発生産に踏み込んで原価を低減する一方、戦略的に粗利益率を切り下げる」「脱プラ&リサイクル、自然環境と労働環境に配慮したESG(環境、社会、ガバナンス)な商品開発」「誠実な品質と倫理的な調達生産工程の保証」など、言葉を変え繰り返して価格競争力とエシカルな商品開発の両立をうたい、「日常の基本商品の品ぞろえは充実させる一方、余剰なSKUは絞り込み、適地調達・適地生産を完成させる」としているが、いずれも相反する要件をクリアしないと実現しない難しい課題だ。

 立地を生活圏にシフトして品ぞろえを日常生活に密着させ競合より低価格にするにも、エシカルな商品開発・調達を徹底するにも、素材と産地、工場とアイテムを絞り込んで、原料調達から物流まで完全にトレースする必要があるが、衣食住に分散する通年で8000近いアイテムでそれを実行するのは不可能に近い。だからこそ今までできなかったわけだが、本気で取り組めばできるというものでもない。

 ユニクロは合繊大手や商社などとのサプライチェーン戦略同盟で低価格・高品質を実現したが、その仕組みはESGな商品開発にも適用できる。ユニクロに比べればカテゴリーも素材も多岐にわたり、アイテム数も1ケタ多い良品計画は、その分、ロットも1ケタ小さく、各カテゴリーに張り付けられる開発要員も限られる。「開発生産部を100名体制にして生産管理を徹底する」としているが、8000近いアイテムに100名では焼け石に水を出ない。

 各カテゴリーと素材ごとに最適なパートナーサプライヤー(商社あるいはメーカー、工場や生産者チーム)を定め、DX(デジタルトランスフォーメーション)もアナログな擦り合わせも総動員してオンデマンドなサプライチェーンをひとつひとつ確立していくのが王道だと思うが、まだ直貿的な自社開発にこだわるのだろうか。連結すればソーシング子会社が抱えた在庫で倍になってしまうような自己完結サプライは非効率で無理があり、本当にエシカルな開発・調達と競争力ある品質・価格、オンデマンドなサプライを目指すならサプライチェーン同盟への抜本転換を決断すべきだ。 

 生活必需品はナショナルブランドが問屋や代理店も活用して全国ネットのVMI※2.を確立しており、大手コンビニエンスストアも製販同盟PB(プライベートブランド)で物流まで一貫したVMIを確立している。継続的に日常使いしてもらうには欠品も過剰在庫もないVMIが不可欠で、「無印良品」の生活必需アイテムは物流も含めて大手コンビニ的製販同盟PB体制を志向すべきではないか。地域に寄り添い土着する「生活必需店」は数百坪の大型店でもコンビニ的「ゼネラルストア」であるべきで、それとSPA(製造小売り)的自己完結サプライは相容れない。根本のスタンスが食い違っていては、どんなに頑張っても技を労してもゴールには届かない。そんな原点から出直すべきだと思う。

※2.VMI(Vendor Managed Inventory)…あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態

「公益人本主義経営」の意味するもの

「第二創業」をうたう中期経営計画では社会や人の役に立つ「公益人本主義経営」が掲げられ、「コーオウンド経営」まで言及していることが注目される。

 「人本主義経営」とは「株主価値」ではなく「従業員価値」で運営され、利益も従業員にシェアされる企業経営であり、究極は従業員が会社を所有する「コーオウンド経営」だ。従業員の持株が過半には届かないがガバナンスに関与できる(持株比率3%以上)「共同所有」から、過半を超えて支配株主となる「従業員所有」までさまざまなケースがあり、欧米では一般の株主支配企業より収益性も成長性も高く、従業員のロイヤルティーが高く勤続期間も長いサステナブルな経営が評価されている。

 従業員の参画意識も幸福度も高く、企業が稼いだ収益が適正に従業員や地域に還元される極めて理想主義的・社会主義的経営体制とされるが、東証1部に上場して2億8078万株を発行する「株式会社」という良品計画の現実とは大きな乖離がある。役員向けのストックオプションには百万株以上、海外グループ会社役職員向け株式インセンティブ報酬制度には数十万株が引き当てられても、「信託型国内従業員持株インセンティブプラン」には数万株しか引き当てられていないから、「人本主義経営」を掲げてもバーチャルな「参画意識」の域を出ない。

 株主総会の決議を経て「コーオウンド経営」を宣言したわけでも具体的な制度や株式移譲計画を公表したわけでもないから「経営理念」の域を出ないが、労働分配率を切り下げるドライな株主資本主義が横行する今日、「人本主義経営」「コーオウンド経営」を掲げた意義は大きい。

 セゾングループが崩壊して以降、支配株主が存在しない良品計画にとっては経営陣か従業員しか求心力がなく、柳井家が株式の75%以上を支配するファーストリテイリングがオーナー経営者を求心力とした「株主資本主義」に徹してアグレッシブに経営してきたのに比べると求心力の劣勢は否めない。経営陣に求心力を求めるとMBO※3.という選択もあるが、実態はLBO※4.となってファンド支配で株主資本主義が露骨になるだけで、従業員の幸福度やエシカル経営からは遠ざかる。どこまで実現できるかはともかく、良品計画が従業員に求心力を求める「人本主義経営」「コーオウンド経営」という選択を見出した意義は高く評価されるべきだろう。

※3.MBO(Management Buyout)…現経営陣による事業買収で事業のスピンアウトや事業承継で使われることが多いが、経営陣に資金がないとファンドが買収事業の資産やキャッシュフローを担保に経営陣に資金を貸し付けるLBOに近くなる

※4.LBO(Leveraged Buyout)…売却される企業の資産や将来のキャッシュフローを担保として、買収する企業が金融機関などから資金を調達する買収手法。買収資金の返済は買収された企業が担うから買収した側の負担は軽減されるが、買収された企業は前借金の利息と返済に縛られる

動かぬ株価が問う「実行力」と「求心力」

 良品計画はこれまでも時代に先駆けたソーシャルな理念を掲げて顧客の共感を広げ業績を拡大してきたが、崇高な理念と商品開発や事業運営との乖離がしばしば指摘され、必ずしも期待通りの業績を実現してきたわけではない。崇高な理念や斬新な企画と実行力との乖離は投資家の失望を買うことも多かったのか、今回の画期的とも言える「新創業理念」にも堂前宣夫新社長にも株価の反応は驚くほど鈍かった。

 中期経営計画が公表されたのは7月21日で株価に反映したのは連休明けの26日だったが、21日の終値2090円から一時2263円の高値を付けたものの終値は2179円と4.3%(89円)高に留まり、28日の終値は2117円に落ちたから、株価材料としてのインパクトは限られた。堂前専務の9月1日付での新社長就任は7月2日の取引終了後に公表されたが、週明けの7月5日の終値は2219円と7月2日の終値2318円から99円落ち、9日の終値は2060円まで落ち込んだ。ファーストリテイリングの急成長を支えた大立者の社長就任という好材料にも、投資家の触手は動かなかった。

 株価の動きを見る限り、投資家は良品計画の崇高な「新創業理念」にも大物社長人事にも反応せず、「実行力」を問う姿勢を見せたと言って良いだろう。良品計画に問われているのは「実行力」を担保する決定的な「求心力」であり、オーナー経営者でもプロフェッショナル経営者でもないとしたら、従業員が全員でけん引する「コーオウンド経営」が現実味を帯びてくる。「理念」に終わることなく一気呵成に実現すべきではないか。「無印良品」を支持する顧客も投資家も、そんな良品計画の“覚醒”を渇望しているのだと思う。

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