ファッション

28歳の“雑草系起業家”野田貴司が目指す「アパレルDX革命」

 現在28歳で、「ステラヴィアナ(STELLA VIANA)」「リーンモーメント(LEANN MOMENT)」など6つのD2Cブランドを運営するグッドバイブスオンリー(GOOD VIBES ONLY以下、GVO)の野田貴司CEOを、一言で表すなら“雑草系起業家”だ。

 野球進学した九州産業大学を2年生のときに中退して単身で上京したものの、最初の2カ月はネットカフェ暮らしと路上生活を交互に繰り返すような有様だった。体力を生かし運送やパチンコ屋のアルバイトを経て、ようやく家賃5万円のアパートを借りた後はホームページの制作を個人で請け負うようになった。いろいろな企業に出入りするようになっていた4年前、ある関西の事業家と知り合いになり、紹介されたのが「エイミーイストワール(EIMY ISTOIRE)」を準備中の藤井亮輔(現ドットワンCEO)氏だった。藤井氏は全くのアパレル未経験だった野田をなぜか気に入り、新ブランドの立ち上げメンバーに加えた。藤井氏とともに宮地洋州(現ワンセックCEO)氏の率いる3ミニッツに合流した野田は、2人の下で寝食を忘れて仕事に打ち込んだ。それから1年半後に会社を辞めるまで、文字通り毎日会社に寝泊まりして働いたので、賃貸していたアパートを解約するほどだったという。「アパレル未経験でまともな職歴もない僕を藤井さんが誘ってくれたのは、単にガッツと体力がありそうだったから(笑)。でも、D2Cブランドの先駆者である『エイミーイストワール』で“20時間365日”くらいの勢いで死ぬ気で働いて得たことは、本当に多かった。1年半と短い期間だったけど服をどう作ってどう売るか、インスタグラムをどう使うかといったことから、インフルエンサーとの接し方や話し方まで、ファッションビジネスに関わるありとあらゆることを学ばせてもらった」という。

 野田は知人が18年4月に創業していたGVOの株式を引き取り、19年9月にCEOに就任。6ブランド合計の直近の月商は、3000万円を超えるまでになった。8月にはシードラウンドで丸井グループのディーツーシーアンドカンパニー(D2C&CO.)から5000万円、その他エンジェル投資家の出資などで合計1億円を調達。その大半を、革新的なアパレルの3DグラフィックCADシステムとライブコマースプラットフォームに投じる。

 GVOの強みは、インスタグラムを駆使した需要予測のノウハウだ。GVOはディレクターを務めるインフルエンサーや元販売員の投稿に対するいいねや保存数、リーチ数などを基に販売数を決めている。「例えばあるブランドの場合は保存数に対して28.3%が発注枚数。つまり保存数が100あれば28着を発注する。このほかにも10項目ほどのKPIを設定して、発注枚数を決めている。僕らはインスタに先に商品を投稿して、そのリアクションを見てから発注するから当然、売れ残ることはほとんどないし、在庫の回転率も高い」。GVOの在庫日数はおおよそ50日間ほどで、これはしまむらとほぼ同水準だ。「しかもインスタの情報発信をベースにしているのでウェブ広告費をほとんど使っておらず、損益分岐点がかなり低い。GVOの場合は1ブランドあたり月商400万円が損益分岐点になっている」。

 GVOは、アパレルビジネスのデジタル・トランスフォーメーション(DX)革命を掲げる。自社ブランドで蓄積してきたSNSのノウハウに加え、3Dグラフィックを駆使したバーチャルサンプルによるネット販売を、外部にも提供を始めた。その第一弾が、インフルエンサーのAMIAYAがプロデュースする「ジュエティ(JOUETIE)」との協業だ。ロングスリーブTシャツやオーバーサイズのパーカなど4アイテムを、3Dグラフィックで制作したバーチャルサンプルを通販サイトに掲載し、販売する。「3Dグラフィックを使えば、AMIAYAの1枚の写真を使って全部のアイテムを着せ替えることだってできる。実際に『ジュエティ』で販売した4アイテムはAMIAYAからマネキンの着用画像まですべてを3Dグラフィックで制作した。この仕組みを使えばインスタで先に画像を公開し、人気のあるものだけを作るということも可能」という。

 ただ現在、どんな高性能のアパレルCADソフトウエアでも、3Dグラフィックで制作したデータを2次元のパターンデータに落とし込むことはできない。GVOもインスタグラムのインサイトから必要な発注枚数を推測できても、シームレスに生産現場とつなぐことはできていない。だが野田はそこに大きな商機があると感じている。「実はアパレルCAD会社のKLO、東証マザーズ上場のテック開発ベンチャーのサンアスタリスクと組んで、この部分の開発を進めている。世界中の優れたCAD会社が取り組んでいてもまだ実現できていないほど難しいことはわかっている。ただ、だからこそ挑戦したい」と意気込む。

 来年4月には出資を受けた丸井と組んで、新宿マルイに新たなライブコマース売り場の開設を計画する。先行して販売員1000人を採用しライブコマース型のECモールを開設、30坪ほどの新宿マルイの売り場には端末と試着サンプルを配し、これまでにないライブコマース売り場をスタートさせる計画だ。

 野田CEOは今、来年3月をめどにシリーズAラウンドの資金調達のため、投資家たちを訪ね歩いている。すでにいくつもの自社ブランドを持ち、安定した収益構造を持つGVOは大風呂敷を広げがちな他のスタートアップとは一線を画す。つい数年前までアパレルの知識も経験もなく、それどころかまともな職歴すらなかった28歳の野田CEOが、アパレル業界の経験豊富なベテランこそが直感する、“2次元と3次元を融合した完全なアパレル3DCAD”を軸にしたアパレルDX革命、という大本命の答えに行き着いたのは、現場で泥臭く仕事をしてきたからだ。雑草発アパレルDX革命のゆくえに注目したい。

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