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「エストネーション」で年間1億5000万円を売るスペシャリストにその極意を聞く

 エストネーション(ESTNATION)六本木店には年間1億5000万円を売る販売員がいる。6月29日号の「WWDジャパン」の販売員特集で掲載しきれなかった青木栄治さんのインタビューを紹介する。

 青木さんを「WWDジャパン」で取り上げるのは今回が2回目。1回目はエストネーションで初めてシニアセールススペシャリストというポジションができた2013年で、年間1億円以上を売る販売員として紹介した。そして19年、シニアセールススペシャリストとしてのトータル売り上げが10億円を突破した。4~5年にわたって希望していた海外コレクションの買い付けにも、15年から年2~4回同行するようになる。店頭の販売員が買い付けにも同行するのは、「エストネーション」としては異例のことだ。近年の売り上げ平均は1億5000万円で、多い年は1億8000万円を売る。客単価は17万円で、一度に320万円を売ったこともあるという。

 前職を含めると販売員歴は20数年になる。「企画やPR、MD、マネジングなども経験してきましたが、自分に向いているのは販売員だと気付きました」と、穏やかな口調で青木さんは言う。初対面でも構えさせない不思議な安心感があり、丁寧な話し口調にもユーモアを交える。あらゆる分野の引き出しの多さが光るが、嫌味がない。

 顧客は約80人。そのうち密な関係を築くのは25人で、企業の社長やタレントなどが名を連ねる。近年は紹介も増えている。シーズンの始まりには各顧客向けにコーディネートを組む。顧客は予約制のプライベートルームへとやって来る。「時間が限られている方が多く、その時間内で接客を組み立てます」。顧客に向けた商品がコーディネートされている。


 顧客の希望に添うのはもちろんだが、「未経験の新しい扉をノックします。こちらの提案を信用して買っていただける関係性があります。これからはやる商品も必ず提案します。購入いただいた商品がその後いい結果を生み出す打率の高さがあるかもしれない(笑)」と話す。ポイントは、「正しい情報を的確に伝えること」。ブランドやデザイナーの背景はもちろん、取材中の雑談でも、ブランドのマニアックな人事情報までを把握していることに驚かされた。「情報をアップデートしていないとお客さまに伝えられない」。情報を得るのは業界紙からインスタグラムまで幅広い。加えて、「買い付けに同行するようになり、1年先を見ることができるようになり、それが生きていると感じます」。顧客の求めるものとエストネーションとしての提案を合致させるセレクトがディレクター陣からも好評だが、もちろん、特定の顧客向けにも買い付ける。青木さんの顧客向けの買い付け予算は5000万円で「100%に近い消化率」だという。

 顧客のクローゼットを把握しているのも強みだ。時には顧客のクローゼットを“仕分け”して二次流通に乗せ、その売り上げはポイント化、もしくは現金で顧客に還元している。このサービスは現在試行期間中だというが、今後はさらに広げていく予定だ。

コロナ前とコロナ後の変化

 「『コロナよりも餅を詰まらせて亡くなる人が多い』とおっしゃって足を運んでくださる顧客さまもいます。こちらも細心の注意を払いながら接客しています」と話す。

 「コロナ禍でクローゼットを整理する方が増えています。街を歩いていても服が捨てられている光景を何度も目にしたし、顧客さまのクローゼットの整理のお手伝いも増えて、あらためてお客さまの分母を増やす必要があると感じました」。

 店を再開してからの入店者数はコロナ前の約6割にとどまるものの、「リアル接客の醍醐味は、意外性のある提案。コロナで客足が少ない分だけ、ゆっくり提案できるとも思っています」。パンデミックで気付いたのは、「いいサービスをするためにはストレスフリーであることが大切だということ。接客の見直しのいいタイミングだった」。以前は、仕事用の携帯に連絡が入ると休みの日でも店まで駆け付けた。「人の洋服を選ぶことが好きで遊び感覚でした。でも時間をしっかりと分けることも必要だと気付きました」。

 青木さんが長年販売員を続けるモチベーションに“販売員の地位向上”がある。エストネーションでも、買い付けにも行く販売員として若手のモチベーションアップにもつながっている。「販売のスペシャリストを目指して入社する人も増えた」と笑顔を見せる。ただ販売するのではなく、その経験やデータを有効活用した企画や事業開発にも取り組んでいる。前述した買い取りサービスもその一つだ。「販売するだけではなくその後のサービスがあるかないかも責任の一つだと考えています。サステナビリティはファッション業界全体の課題になっていますが、いち販売員としてできることから取り組んでいます」。

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