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「オールドネイビー」分社化は吉と出るか凶と出るか 鈴木敏仁のUSリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が現地のファッション&ビューティの最新ニュースを解説する連載の第2回目は、米ギャップからの分社化が発表された「オールドネイビー」の戦略を掘り下げる。そもそもなぜ分社化の道を選んだのか。

 ロサンゼルスのわが家の近隣にローカルコミュニティーにしては若干大きめのショッピングセンターがある。スーパーマーケットとドラッグストアが核なのだが、さらにもう一区画分のスペースがあって、衣料やビューティといった専門店チェーンやディスカウントチェーンが複数入居している。そのうちの一つが数年前に破綻して退店した後がしばらく空きスペースになっていた。このご時世だからテナントも見つかりづらいのだろうと推測していたのだが、数週間前から工事が始まり、サインが立てかけられて分かったのは「オールドネイビー(OLD NAVY)」の新規出店なのである。

 米ギャップ(GAP)は9月上旬、これから「オールドネイビー」で800店舗を新規出店すると発表した。そのほとんどは通常プロトタイプよりも小さく衣料リテーラーが少ない商圏を狙っていくとも説明していた。わが家の近くの出店予定地は、なるほどその通りの立地だった。ただ、細かい話は省略するが私が住む商圏で衣料は難しいと考えていて、クエスチョンマークが頭をよぎった。ひょっとすると出店戦略ありきで決めたのではないか――などとうがったことも考えてしまった。

「ギャップ」とは異なる戦略と戦術

 米ギャップが「オールドネイビー」のスピンオフ(分社化)を発表したのは2月のことである。

 「オールドネイビー」のスタートは1994年にさかのぼるので、すでに25年を経た中堅フォーマットだ。当時、小売業大手のターゲット(TARGET)の親会社だったデイトンハドソン(DAYTON HUDSON)が、「ギャップ」の廉価版のようなブランドを開発した。ギャップは対抗するために倉庫スタイルの店舗デザインで売る「ギャップ・ウェアハウス(GAP WAREHOUSE)」という実験店舗を作った。これを発展させたのが「オールドネイビー」である。ギャップを大企業へと成長させた中興の祖、ミラード・ドレクスラー(Millard Drexle)がパリのバーで見た看板に印象を受けて命名したことはよく知られている。

 その後の成長については省略するが、2018年度末の時点で売上高は約79億ドル(約8056億円)で、同社の連結総売上高165億8000万ドル(約1兆7574億円)の48%を占めるに至っている。「オールドネイビー」の成長と「ギャップ」の縮小を年々続けてきた結果だ。「ギャップ」単体の売上高は公表されておらず、「バナナ・リパブリック(BANANA REPUBLIC)」といった他のフォーマットと合算した数字しか発表されていない。「ギャップ」と「オールドネイビー」の単体同士を比較すると、「オールドネイビー」の方がすでに売上高は多いかもしれない。

 端的に多角化目的で作った事業が本体よりも大きくなってきたので分離するということなのだが、こういう場合の最大の動機は機関投資家による圧力である。事業ごとの成績が混在して株価に反映されるので、これをすっきりさせないと投資効果が低くなるからだ。最悪の場合でも好調事業を分離しておけばケガも小さくてすむのである。

 経営陣は、双方の戦略がまったく異なるからだと説明する。モールへの出店戦略を柱にしてきた「ギャップ」に対し、モール外に出店するのが「オールドネイビー」。前者がECに注力しリアル店舗はこれからも縮小傾向となるのに対して、冒頭で書いたように後者はリアル出店を主軸に据えている。また前者の中価格帯に対して、後者は低価格帯であり、価格戦略も異なっている。

 どうやら組織文化も異なるようだ。こういった違いを背景として、分離した方が戦略・戦術的にプラスになると判断したとしている。

出店拡大で生じるジレンマ

 ただし、ことはそう簡単ではないだろう。もともと双方は売り上げを食い合う関係にあるのだが、これからマーチャンダイジング(MD)をきっちり分けるのは容易ではないし、なによりお客の認識はそう簡単に変わらない。わが家の近隣にも出店するように、これからあちこちに「オールドネイビー」がさらに増える。そうすると「ギャップ」で買う動機はますます低くなってしまうことだろう。こういうケースでは低価格帯フォーマットの方が強いのだ。

 また両社が共有していた機能を分離することによる相互マイナス効果(アナジー)が発生する。「オールドネイビー」は1億5000万~1億7500万ドル(約159億〜約185億円)、「ギャップ」は2億2500万~2億5000万ドル(約238億〜265億円)、加えて7億ドル(約742億円)の分離費用がかかると説明されている。これは過去の分離案件でもトップクラスのマイナス効果だとするアナリストがいる。

 また18年度決算までの3年間、「オールドネイビー」の既存店成長率は、16年が1%増、17年が6%増、18年が3%増とプラス傾向が続いていた。ところが分離を発表した直後から、今年の第1四半期が1%減、第2四半期が5%減と、突然マイナスへと落ち込み始めている。これが長期傾向なのか突発的なマイナスなのかは不明だが、「オールドネイビー」自体も強気の出店戦略とは裏腹に業績が良いとは決していえない。スピンオフの実施は来年だ。吉と出るのか凶と出るのかーー経営陣のお手並み拝見といったところである。

鈴木敏仁(すずき・としひと):東京都北区生まれ、早大法学部卒、西武百貨店を経て渡米、在米年数は30年以上。業界メディアへの執筆、流通企業やメーカーによる米国視察の企画、セミナー講演が主要業務。年間のべ店舗訪問数は600店舗超、製配販にわたる幅広い業界知識と現場の事実に基づいた分析による情報提供がモットー