
「生まれるべきものが生まれ、広がるべきものが広がり、残るべきものが残る世界の実現」をビジョンに掲げるマクアケによる、“アタラシイものや体験の応援購入サービス”の「マクアケ」には、伝統技術を現代的なアイテムに活用したプロジェクトが数多い。この連載では、全国各地の匠の技に注目。実行者の思いとともに、匠の技をどう活用し、どう訴求しているのかを考える。目指すは、47都道府県の匠の技の探訪だ。第4回は、石川県を訪れた。
今回の技術は…
“一生モノのナイフ”を作り出す野鍛冶の技術
石川県能登町のふくべ鍛冶は、包丁や農具、漁具など、暮らしに必要な道具の開発や製造を手掛ける野鍛冶です。1908年の創業から100年以上にわたり、能登町の農業や漁業に関わる人々の生活を支えてきました。
道具を長く使えるよう、“修理”の文化を受け継いでいるのも同社の特徴です。年間数万件以上の修理を手掛ける現在も、奥能登の集落をワゴンカーで回る“移動鍛冶”を行い、住民一人一人と向き合いながら「困った」を「良かった」に変えています。一方、農業が機械化したり、大量生産した格安刃物が流通したりと、野鍛冶を取り巻く環境は決して安定しているとは言えません。
同社は2024年、これまで培ってきた技術力をもとに、サバイバルナイフ“タフ”を開発しました。「切る」「断つ」「削る」など包丁の一般的な機能に加えて、スターター着火(キャンプなどに適した燃料を必要としない着火方法)が可能。使用する材料にもこだわり、手入れをしながら経年変化を楽しめる“一生モノのナイフ”に仕上げています。
“タフ”は、「マキリ」のサバイバルナイフとも言えます。「マキリ」とは、日本海沿岸の漁師に親しまれている万能包丁のことで、海と山の両方に接している能登半島では、内陸部でも使われているのが特徴です。もともと「『マキリ』のサバイバルナイフが欲しい」という声は多く挙がっていましたが、24年1月1日に発生した能登半島地震が本格的な開発のきっかけになりました。同社は、「野鍛冶職人たちの『包丁を作りたい。野鍛冶文化を未来につなげたい』という一言に心を動かされた」と振り返ります。
“タフ”は、長年磨いてきた職人の技術に、日本刀を作る技術を掛け合わせています。鋼となる安来鋼青紙2号(以下、青紙2号)を地金のステンレスで挟み込んだ「本三枚造り」(3種類の鋼で日本刀を構成すること)を採用することで、鋭い切れ味と耐久性を実現しました。鋼の青紙2号は焼き入れで硬度が増し、切れ味が上がるという性質がある一方、熱処理の温度が高すぎると脆くなったり、低すぎると切れ味が弱くなったりしてしまいます。温度管理に細心の注意を払い試行錯誤を繰り返すことで、最適な塩梅を見つけることができました。
「マクアケ」でのプロジェクトでは、復興を願う人からの応援購入に加え、キャンプ好きからも反響を集めています。「ふくべ鍛冶」は、「時代の変化とともに野鍛治の数が少なくなってきたからこそ、その重要性を伝えていきたい」と語ります。今後は、海外向けのクラウドファンディングも活用しつつ、各国の生活習慣に合わせたモノ作りにも挑戦していきたいとのことです。
切れ味と耐久性を実現する4つのポイント
1.鍛造技術

堅牢さを重視し、地金を挟む「本三枚造り」を採用。800度に熱して何度も鍛造することで、金属分子が細かくなるため欠けにくくなり、不純物を出すため錆びにくくなります。切れ味を左右する刃金(刃物の刃先に用いる金属)にもこだわっています。
2.研磨

一つ一つ職人の手で削っています。切り刃や腹は、あえてハマグリ刃(ハマグリのような丸みを帯びた刃先)にすることで薪を割れるほどの強度を実現。わざとヘコませることで、刃離れも良くしています。
3.焼き入れ・焼き戻し

鋼の青紙2号は、焼き入れで硬度が増し、切れ味が向上する性質を持っています。一方、250度に下げる焼き戻しを行うことで、粘りや強靭性を向上。鋭さとしなやかなさを持ち合わせた包丁に仕上げています。
4.研ぎ

腹から刃元にかけては厚めに研いで硬度の耐久性を、刃先は薄めに研いで鋭い切れ味を実現し、万能に使える包丁に仕上げました。包丁を研いで小さくなるまで、ずっと切れ味が持続する点もポイントです。
石川発!
応援購入が高額なプロジェクト3選
“アタラシイものや体験の応援購入サービス”の「マクアケ」で大きな反響が寄せられた石川県発のプロジェクトを3つ紹介する。
PICK UP 1 : 応援購入総額1715万円

箸やお椀を一から設計し、ごはんを美味しくする食器ARAS
食器ブランド「ARAS」が開発した和食器のシリーズ。同ブランドは、料理をおいしく味わうための素材や形状について研究しており、今回も「においや口当たりで料理の邪魔をしない食器」という商品コンセプトのもと、樹脂とガラス素材を混ぜ合わせた最新素材を採用した。
PICK UP 2 : 応援購入総額1320万円

「HHKB」×伝統工芸「輪島塗」の融合!
石川県かほく市のPFUが手掛ける“ハッピー ハッキング キーボード(HHKB)”と、輪島塗を生業とする大徹八井漆器工房のコラボ。能登半島地震で被災した同工房を支援するため、「リ:ジャパンプロジェクト」として、18年ぶりの協業が実現した。
PICK UP 3 : 応援購入総額1009万円

機能性に優れた3WAYトートバッグ
化学素材メーカー・小松マテーレの高機能ナイロン生地“コンブ®”を活用したトートバッグ。「ナチュラルでドライな風合い」や「硬度からくる自立性」「驚くほどの軽量さと強さ」が特長。25年2月には、最新プロジェクトを開始する予定。