
1年前に火が付いたベーシックアイテムの再解釈が、さらに広がっている。今季のポイントは、シルエットやボリュームの大胆なアレンジと、シフォンなどのシアーな素材やカットアウトで作り出す軽やかさ。ありふれた日常着にデザインの力で新たな魅力をもたらす提案が目を引く。パリコレデビューを果たした「ピーター ドゥ(PETER DO)」は得意のテーラードジャケットを胸下でクロップしたり、裏地のような生地と切り替えたり。「クレージュ(CLAYGE)」はポロシャツやTシャツをアシンメトリーなボディースーツに変え、「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」はワイヤー入りの素材やスナップボタンを使ってカジュアルウエアにひねりを加えている。(この記事は「WWDJAPAN」2023年10月16日号からの抜粋です)
「ロエベ(LOEWE)」
デイウエアを刷新する
斬新なプロポーション
要素を削ぎ落としてシルエットに焦点を当てるという、6月に発表したメンズに通じるアイデアを取り入れた。デイウエアをベースにしたデザインの中でカギとなるのは、コルセットを内蔵した超ハイウエストのパンツ。コンパクトなシャツやクロップド丈のチャンキーセーターを合わせ、下半身を極端に引き伸ばしたような新しいプロポーションバランスを探求する。ほかにも、編み地を拡大したニットケープや巨大な針で前を留めたショートパンツなど、違和感のあるアイテムが満載。それを“突飛”で終わらせないモノ作りのレベルと上質な素材使いが光る。
「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」
メンズワードローブの要素を
自由自在に再解釈
「伝統の概念について再考し、新たなエネルギーを吹き込む」というアイデアで、メンズのワードローブを自由に再解釈した。ベースはパイピングジャケットからタキシードまでのテーラリング、ストライプシャツ、スポーツウエア、ワークウエアなど。そこにパールやスパンコールのフェミニンな装飾をちりばめたり、そのオーセンティックな素材や柄を抽出して全く別のアイテムに仕立てたり。例えば、シャツ地はブラトップになり、ラグビー・ストライプはパンツやドレスに。独特の色使いでさまざまな要素のミックススタイルに調和を生む。
「エルメス(HERMES)」
フランス共和国親衛隊官舎を春の野草や花で彩り時間旅行へいざなった。エンジ“ルージュ”、グレージュ“エトゥープ”、ホワイト、濃紺“ノワール”などレザーの色を順にフォーカスしつつ、新しいスーツスタイルを見せる。ポイントは健康的に肌を露出するタンクやブラトップ。そこにしなやかなレザーやシルクのテーラードを合わせる。ボタンの留め方でベーシックアイテムのセットアップがドレスに変わる “モジュール”もキーワード。
「ディオール(DIOR)」
今季のキーアイテムは、シャツ。ポプリン生地をワンショルダーデザインで仕立てたトップスやドレス、メンズライクなウィングカラーデザインなどが登場した。そこに合わせるのは、プリーツやフリルで仕上げたミモレ丈のフレアスカートや“バー”ジャケット、そしてメンズのワードローブを想起させるボクシーなテーラリングや無骨なアウターなど。裾のほつれや焦げといった加工は、着想源となった反骨的でタフな女性のイメージにつながる。
「サカイ(SACAI)」
見慣れた服を彫刻的シルエットに
「シンプルになればなるほど、私たちは完全になる」という彫刻家オーギュスト・ロダン(Auguste Rodin)の言葉を出発点に、見慣れた服から削ぎ落とされた彫刻のようなシェイプを生み出すことに挑んだ。ジャケットやシャツ、フェアアイルセーターは、円形のパターンを用いることで大きくふくらんで弧を描き、かっちりしたテーラードのドレスはスラッシュで抜け感を演出。一方、スリップをドッキングしたコートは、胸元を深く開けて着崩す。シアー素材による軽やかな動きもポイント。ハイブリッドは控えめに、シルエットの探求で洗練されたエレガンスを表現した。
「ザ・ロウ(THE ROW)」
裏表のないラグジュアリー
好調な「ザ・ロウ」が期待を裏切らない、上質でリラックス感のあるコレクションを見せた。上質素材のオーバーサイズのTシャツやパーカはそのままカジュアルに、もしくはスパンコール刺しゅうのオーガンジードレスやオーストリッチのバッグを合わせてエレガントにと、さまざまなシーンで活躍する。 “シーツを巻き付けた”風ドレスなどが高級ホテルで過ごす時間を連想させる。バッグはアイコン“マルゴー”のクラッチが登場。適度な緊張感のある“オフ”と気取らない“オン”が両立している、裏表のないラグジュアリーが新しい。
「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」
メンズとウィメンズの合同“コーエド”ショーを発表した。普遍的なアイテムもジョン・ガリアーノ(John Galliano)の手にかかるとドラマチックに変容する。物語は20世紀英国の港町で、主役は貧しい貴族の子息と資本家の娘。高貴なスーツや白シャツは破れて服の構造が露出し、 ドレスはテープでつぎはぎしたようだ。スーツケースの中でぺちゃんこになったのか、しわがついた服もある。男女とも挑むように歩き、切羽詰まった愛のドラマを見るよう。
「ジバンシィ(GIVENCHY)」
ロゴやハードな加工などストリートの要素は抑え、エレガンスにフォーカスした。軸となるのは、広い肩のラインが印象的なテーラリングと、透け感とドレープが特徴のドレスやトップス。パンツは一切なく、前だけが長くなったタイトスカートが素材や色を変えて度々登場する。花や庭園を愛した創業者とガーデニングにハマっているマシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)をつなぐフラワーモチーフを、刺しゅうやハンドペイントなどであしらった。
ベーシックアイテムを新鮮に見せるデザインの力
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