ファッション

敏腕ディレクターに聞く!不透明なアパレル市場に立ち向かう秋冬戦略

 新型コロナの拡大の中で、国内アパレル市場は先行き不透明感を増している。「どんな服をどれくらい作ったらいいんだろう?」。これは特に2020-21年秋冬に向けて、各社の商品企画や仕入れに関わるMD担当者の共通の悩みだろう。

 このような状況下だからこそ、市場を知り尽くしたスペシャリストからヒントを得たい。「(2020-21年)秋冬コレクションの型数を大きく減らすつもりはありません。お客さまをワクワクさせられるよう、今できる準備をする」。そう語るのは、マッシュスタイルラボ企画部副部長で、「ミラ オーウェン(MILA OWEN)」を統括する井木秀香ディレクター。コロナショック直前(19年8月~12月)まで、同ブランドの既存店売上高は前年同期比22.4%増と好調を続けた。

 丹念な市場リサーチと企画力で女性のリアルトレンドをとらえ、30~40代を中心に支持を受けてきた。見通しの立たない状況下で、井木ディレクターが描く今後の商品戦略を聞いた。

WWD:現在、リアル店舗の状況は?

井木秀香「ミラ オーウェン」ディレクター(以下、井木):4月に入り、外出自粛や館の閉鎖により、店舗の営業自体が大きく制限されています。代わりに、お客さまにはご自宅でゆっくり買い物をしていただこうと、3~4月にかけて自社の全ブランド商品が11%オフになるECのキャンペーンを実施し、非常に好評を得ています(3月12日~4月13日で自社ECの売上高は前年同期比で約2.6倍)。しばらくはECでの接客・販売に力を入れて踏ん張りたい。コロナが落ち着き、店舗の営業が再開したら、館も巻き込んだ集客の施策を仕込みたいと考えています。

WWD:20-21年秋冬のMDスケジュールはどうなる?

井木:現状では「普段通り」です。新型コロナが夏に収束に向かっていくと仮定すれば、店頭の春・夏物の動きを見て、晩夏物以降の投入を後ろ倒しにすることはありえます。

WWD:秋冬シーズンに向け、現在の事業部の動きは?

井木:20-21年秋冬のコレクションのサンプル作成を進めています。当社は平時、シーズンごと4回に分けて展示会を実施していますが、今回はデジタル配信など違う形で披露しようと方法を模索しています。ただ商品企画では難しいと感じる面もありますね。普段のように取引先と膝を突き合わせて商談を行うことができないからです。そのため、よほど努力しなければ、モノ作りの“幅”が狭くなってしまうと感じます。

WWD:商品企画では具体的にどんな変化がある?

井木:人が集まる場所へ行くのは控える人が多いと思うので、たとえばオケージョンを意識した服などは、秋冬でもボリュームを多少抑えるかもしれません。コレクション全体に関しては、慎重を期して生産を絞り、「期初で様子を見て、期中に追加生産を掛ける」という選択肢もありました。ですが、いつもどおりの型数を仕込むつもりです。「ミラ」の根っこにあるのは、徹底した市場リサーチとペルソナ像の深堀りによる、毎シーズンのコンセプトの作り込み。必要以上に(型数を)減らせば、それが十分に表現できない。これは私たちにとって、とても怖いことです。

WWD:なるほど。

井木:この状況下では「何かを変えなければ」とばかり考えがちですが、自分たちの“変わらない強み”を見つめなおすことも大事だなと。そう気付かされた出来事が3月にありました。すでにコロナの影響も色濃くなり始めたころでしたが、新商品のオーガニックコットンを使用したニットと、ロング丈でビンテージサテン風のスカートが飛ぶように売れたのです。ニットは定番としてデビューシーズン(2014年)から作り続け、シーズンごとにアップデートしてきた、個人的にも思い入れのあるアイテム。適正価格で、然るべきタイミングにいいものを届ければ、必ず喜んでいただける。ですからこのような状況下でも、モノづくりの丁寧なプロセスは絶対軸ですね。

WWD:アフターコロナの市場トレンドをどう想像する?

井木:これまでの流れでいえば、エレガントなものが求められるはず。ロング&リーン(細長い)なシルエットが気分になりそうです。それをデイリーに着られるよう、「ミラ」らしくリアルクローズに落とし込みたい。ほかにも明るめなカラーを増やすなど、ワクワクしていただける準備をして、お客さまをお迎えしたいですね。

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