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コロナ禍で“一番安全なセックス相手は自分” 女性のセクシャル・ウエルネスで成長するフェムテック産業 海外ビューティ通信ニューヨーク編

 世界に目を向けると日本とは異なる美容トレンドが生まれている。そこで連載「海外ビューティ通信」では、パリとニューヨーク、ソウル、ベルリンの4都市に住む美容通に最新ビューティ事情をリポートしてもらう。(本文中の円換算レート:1ドル=104円)

ロックダウンでNY市がセックストイの使用を推奨 売り上げは30%増

 ニューヨーク市保健局が昨年3月に発表した「安全な性交渉とセックスとCOVID-19」というガイダンス文書は、「あなたにとって最も安全なセックスパートナー」として、マスターベーションとセックストイの使用を奨励している。また電話や性的テキスト、ウェブチャットなどのプラットフォームが「体液を交換しないで、社交にも性的にもコネクトできる」と勧められている。

 市がこうしたガイダンスを出すのはニューヨークらしいが、実際セックストイのオンライン売り上げは30%以上伸びたといわれる。ニュースリリースの配信会社ビジネスワイヤ(BUSINESS WIRE)によれば、2020~24年のセックストイ産業は、年平均成長率6%の成長が見込まれている。現代ではセクシャル・ウエルネスも、ウエルビーイングに欠かせない要素だ。

 さてここではフェムテック、すなわち女性の健康に関わるテクノロジー産業にフォーカスしたい。フェムテック産業の市場規模は、19年にはグローバルで8億2000万ドル(約852億円)だったが、30年末までには30億ドル(約3120億円)規模に成長すると見込まれており、期間中の年間平均成長率は12.65%に上る。フェムテック分野でパーセンテージが大きいのは妊娠に関わる分野だが、今注目されるのは、女性のためのセクシャル・ウエルネス・プロダクトだ。

ロボティクスを活用したプレジャープロダクト 共同経営者はトップモデル

 まず革新的なプレジャーテックブランドとして紹介したいのが、ローラ・ハドック・ディカルロ(Lora Haddock DiCarlo)創設者が17年に立ち上げた「ローラ ディカルロ(LORA DICARLO)」だ。製品はオレゴン大学のロボティクス&エンジニアリング研究室の協力のもと開発された。ハンドフリーのパーソナルマッサージャー製品“オセ(Ose)”が、19年に電子機器見本市コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)のロボティクス・ドローン部門でイノベーション・アワードを受賞して一躍話題を集めた。

 ところがその後、CESは「製品があまりにも猥褻」として賞を取り下げ、大きな論争を巻き起こした。性的な快楽の追求における男女間の不平等に対する指摘、あるいは性的快楽の追求は猥褻ではなく健全といった批判がCESに寄せられ、受賞に輝いた。

 ディカルロ創始者は、「性にまつわる恥ずかしさや汚いイメージが消え去り、ジェンダーの平等とエンパワーメントが促される世界を想像している」と語る。そのコンセプトに賛同したのが、モデルであり女優のカーラ・デルヴィーニュ(Cara Delevingne)だ。20年11月に共同経営者に就任し、クリエイティブ・アドバイザーとしてチームを組んだ。

 アメリカ経済専門メディア「ファストカンパニー(Fast Company)」のインタビューでカーラは、「長年考えていたことだが、タッグを組むのにふさわしい相手を見つけることに時間を要した。私はとても英国的な、性的に抑圧された環境で育った。あなたがあなた自身と築く関係は、世界で最も大切なものだ。自分を楽しませるだけではなく、自分自身を愛し、探求することだ」と語っている。

 同社の製品は人間の繊細な動きを模倣したマイクロロボティクス(小型ロボット)の技術を採用。価格は代表的な“オセ2(Ose2)”が290ドル(約3万円)、吸引トイの“バチ(Baci)”は160ドル(約1万6000円)。

ダコタ・ジョンソンが携わるファッショナブルなセクシャル・ウエルネス・ブランド

 同じくセレブリティによる参与で注目のブランドが、女優のダコタ・ジョンソン(Dakota Johnson)が共同創始者とクリエイティブ・ディレクターを務める「モード(MAUDE)」だ。“モダンなセクシャル・ウエルネス・カンパニー”を提唱する同社は、「時代遅れの産業をアップデートして、全ての人により良い親密さを作り上げる」というメッセージを掲げている。

 商品はバスソークからボディーウオッシュ、ボディーオイル、キャンドル、マッサージキャンドル、潤滑剤、コンドーム、バイブレーターなど、女性目線で快さを生むラインアップ。インスタグラムの写真もおしゃれで、官能性をファッショナブルに打ち出す。マッサージオイル“ No.0”が35ドル(約3600円)、潤滑剤の“シャイン” が10ドル〜25 ドル(約1000~2600円)、バイブレーターが45 ドル(約4600円)と手ごろな価格設定も魅力だ。

女性が自身のオーガズムを可視化して確認できるIoTプロダクト

 20年のCESではラスト・ガジェット・スタンディング・アワードのファイナリストに、「ライオネス(LIONESS)」の“ライオネス・スマート・バイブレーター”が残って注目を集めた。リズ・クリンガー(Liz Klinger)共同創設者と、エンジニアのバックグラウンドを持つアナ・リー(Anna Lee)共同創設者が設立したフェムテック、セックステックカンパニーのブランドだ。

 クリンガー共同創設者は保守的な中西部で育ち、セックスについてはあまり口にしない環境にあったという。インティマシー製品(潤滑剤やボディーオイルなど)を販売するようになり、女性がいかにセックスについて疑問を持ちながらも答えを見つけられずにいる現状を発見した。「それは、私たちが1人ずつ違うからだ。セックスの喜びはセックスそのものより大切で、個人の生活に欠かせない」と、クリンガー共同創設者は話す。

 こうして開発したのが、スマート・バイブレーターだ。“ライオネス・バイブレーター”(199ドル=約2万円)はスマートフォンのアプリと連携し、オーガズムをグラフにして見える化、革新的なテクノロジーを搭載した。オーガズムを可視化すると、自分がどうしたらオーガズムに達しやすくなるか知ることができる。女性が自分自身をより探求できるというコンセプトが新しい。

 女性による女性のためのセクシャル・ウエルネスを打ち出すフェムテック製品には、女性の性意識を変える力がある。どの創設者も性意識に関する教育やセミナーなどにも積極的。部屋に置いていても違和感がない、女性に好まれるデザインやカラーだ。開放的に見えるアメリカとはいえ、従来のアダルトグッズは男性目線の商品が主流で、女性の購入には羞恥がつきまとった。「自分のオーガズムは、自分がコントロールする」という意識に変化しつつあるのだろう。

産後の体をエンパワーメントするテクノロジー

 フェムテックには産後の女性の体をサポートするという、見過ごされてきた分野もある。そこに注目するのが英国発フェムテックブランドの「エルヴィー(ELVIE)」だ。タニア・ボーラー(Tania Boler)創業者兼最高経営責任者(CEO)が、投資家のアレキサンダー・アシーリー(Alexander Asseily)共同創業者と13年に設立した。女性の健康のためのエキスパートであり、国連でもさまざまなプロジェクトに取り組んできた創業者が出産の際、産後の健康の問題がテクノロジーから取り残されていることを感じ開発に至った。
 
 同ブランドのプロダクトの1つ、“エルヴィー・トレーナー”(199ドル=約2万円)は、骨盤の底にある骨盤底筋群を鍛えるための器具だ。骨盤底筋には内臓を支える役目のほか膀胱を締める働きがある。ところが妊婦や出産後の女性の80%は、骨盤底筋の衰えに伴う失禁などを経験。骨盤底筋を鍛えると健康全般に効果がある他、尿失禁も解消し、性的な快感も高められる。

 “エルヴィー・トレーナー”は、膣内に装着して締めつける運動を行うことで筋肉を鍛える。アプリと連携すると進捗度合いが分かり、4週間で改善が見られるという。ウエアラブルな搾乳機“エルヴィー・パンプ”(279ドル~=約2万9000円~)は、チューブもワイヤーも必要なく、ブラジャーに入れたまま搾乳ができる画期的なテック製品だ。確かに出産を経験しなければ気付かない製品開発が光り、フェムテック分野は発展の余地があることを感じさせる。

 女性だからこそ気付く、女性の体のためのテクノロジー活用にはさまざまな可能性があるはずだ。今後のフェムテック市場の広がりに期待したい。

黒部エリ(くろべ・えり)/ライター:東京都出身。雑誌ライター、ジュニア小説家を経て1994年からニューヨーク在住。ニューヨークのトレンドやビューティ情報を女性誌などで発信している。著書に「生にゅー 生のニューヨーク通信」(文藝春秋社) ブログ「黒部エリぞうのNY通信」

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