ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。ファーストリテイリングが運営する「ユニクロ」の国内売上高が1兆円を超える見通しになった。日本のアパレル市場規模は8兆円台と言われており、シェアは10%台になる。プレイヤーが無数にいるアパレルでは前代未聞の数字だ。この規模に到達した背景を詳細に分析する。
9月14日の日本経済新聞は「ユニクロ売上高 国内1兆円超え」と銘打って、コロナ明け後の停滞を脱して1兆円を超えた国内ユニクロ事業の好転要因を「店舗の大型化とデータ活用によるサプライ制御」とざっくり解説していたが、一人勝ちに見えるユニクロもコロナ後の停滞から再成長へ相応に奮闘して結果を出したわけで、学ぶべきことが多い。
「1兆円超え」の現実
ファーストリテイリングの25年8月期決算発表は10月9日になるから「ユニクロ売上高 国内1兆円超え」はファーストリテイリング側からのアナウンスか、9月2日に発表された8月度売上推移速報の「直営店+Eコマース売上高の期初からの累計前年比110.0%」を前期の国内ユニクロ事業売上高9322億2700万円に適用した1兆254億5000万円から推計したものと思われるが、「1兆300億円前後」と書いているから何らかのアナウンスがあったのだろう。
「国内ユニクロ事業売上高」は、直営全店売上高(24年8月期で国内ユニクロ事業売上高の84.58%)にEC売上高(同14.69%)を併せた「国内ユニクロ商品売上高」にFC関連収入・補正費(同0.80%)を加えたもので、「直営店+Eコマース」売上高は国内ユニクロ事業売上高の99.3%前後を占めるから、それが「期初からの累計前年比110.0%」であれば「1兆300億円前後」という推計はおおむね妥当と思われる。
ならば19年8月期の「国内ユニクロ事業売上高」(8729億5700万円)を18%近く凌駕することになるが、19年8月期を超えたのは23年8月期で、コロナに直撃された20年8月期の落ち込みからの回復に3年を要している。コロナ下でもECは伸び続けたが店舗販売(直営店売上高)の回復は遅れ、前期(24年8月期)でようやく19年8月期の売上高を超えている。
それは1店当たり売上高も同様で、平均売り場面積がこの間に9.74%拡大したことも押し上げて24年8月期に9億9254万円と、ようやく19年8月期(9億6627万円)を超えているが、既存店売上高が8.1%伸びた 25年8月期は少なくとも10億7293万円と19年を11%上回って10億円の大台に乗ったと推計される。坪当たり売上は24年8月期でも314.2万円と19年8月期の336.9万円に届いていないが、25年8月期の既存店売上高8.1%増から推計すれば、平均売り場面積の拡大を割り引いて届くかどうか微妙なところだ。
国内ユニクロ事業売上高でマークすべきは「国内衣料品小売市場規模に対する占拠率」で、矢野経済研究所の集計(アパレル総小売市場規模、インナーウエア含む)をベースにすれば、19年8月期の9.52%をコロナ下の20年8月期も10.74%と上回り、21年8月期は11.07%に達している。国内ユニクロ事業売上高が前期から3.84%減少した22年8月期は10.05%と落ち込み、23年8月期も10.66%、24年8月期も10.85%と足踏んだが、25年8月期は推計11.66%(アパレル小売市場規模伸び率を24年2.8%、25年2.4%と見て)と大きく伸ばしたと推計される。
「万人のライフウェア」をうたうユニクロのインクルーシブ※1.マーケティングの本質的KPIは「国内衣料品小売市場規模に対する占拠率」であり、24年8月期と25年8月期の2期間で1.0ポイントも占拠率を伸ばしたことはコロナを経て再成長に転じた証と受け止めるべきだろう。
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