
2025-26年秋冬ミラノ・ファッション・ウイークのテーマを1つ挙げるとすれば、フェミニンの再考だ。さまざまなデザイナーが、現代の女性たちを観察し、今の時代に通ずるフェミニンの表現を模索している。その中で、最も「今」の感覚を表出させたのは、弱冠29歳のマクシミリアン・デイヴィス(Maximilian Davis)クリエイティブ・ディレクターが手掛ける「フェラガモ(FERRAGAMO)」なのではないだろうか。
デイヴィスのクリエーションに説得力があるのは、まず100年近いメゾンのヘリテージにしっかりと立脚している点にある。今季も昨シーズンに続き、メゾンの歴史に欠かせないバレエとの関係性に着目。ドイツのモダンダンサー、ピナ・バウシュ(Pina Bausch)の装いをリファレンスにクリエーションを発展させたという。
キーモチーフは花。デイヴィスは、「ピナ・バウシュの作品と愛やロマンスは密接な関係にある。愛やロマンスを物語る花は、サルヴァトーレ・フェラガモ(Salvatore Ferragamo)が多用してきたモチーフでもあり、両者をつなぐ鍵になると考えた」と語る。そして、ランウエイには情熱的な真紅の花びらを敷き詰めた。
序盤を飾るのは、ダンサーを連想させる、一切装飾のないセカンドスキンドレスや、ベージュやグレーのボディースーツ。足元に敷き詰めた花びらが演出するロマンチックなムードとは対照的で、デイヴィスが「フェラガモ」にもたらしたミニマルなエレガンスを際立たせる。
デイヴィスが新たに生んだアイコン“ハグバッグ“は、巨大化し、ベルトのように巻きつけたり、ウエアのポケットとして配したりして、ミニマルなルックに記憶に残る違和感を与える。これは、クラシックバレエが広がる世界に、自由な振り付けや束縛のない表現を持ち込んだモダンダンスの違和感と革新性と重なる。
ミニマルなインナーに羽織るオーバーサイズのテーラードジャケットやコートは、マスキュリンな佇まいながらもジャージー生地で仕立てることで、温かみのある柔らかな印象に。メゾンの職人技が引き立つしなやかなレザーのシャツやロングコートも含め、センシュアルとマスキュリン、そしてコンフォートの共存が、コレクションにモダンさを加えた。
さらに1920年代のシルエットを取り入れた、シアー素材のドレスは腰の低い位置にシアリング素材をベルトのように配し、官能性に加えてコンフォートとインパクトを両立させた。デイヴィスが数シーズンにわたって20年代のシルエットに美を見出す理由は、「女性たちが既存の規範に反発し、自分たちの快適さに重きを置いて、より自然体で気楽に装いたいと望んだ時代だったから」と話し、20年代の女性のアティチュードと現代の共通点を指摘する。
オーガンジーやレザー、サテンを用いた花びらは、パンプスやサンダルのストラップ、バッグを華やかに彩った。そしてリボンのような茎から咲き誇るポピーの花があしらわれたドレスがフィナーレを飾った。デイヴィスは、「フェラガモ」が培ってきたヘリテージを武器に、規範と自由、ロマンスとリアリティー、現代を生きる人々の人間らしい矛盾を、洗練された表現で見事に描き出した。