ファッション

「フェラガモ」の命運握る29歳デザイナーが語る 伝統を前進させる覚悟

PROFILE: マクシミリアン・デイヴィス/「フェラガモ」クリエイティブ・ディレクター

マクシミリアン・デイヴィス/「フェラガモ」クリエイティブ・ディレクター
PROFILE: 英国マンチェスター生まれ。ジャマイカとトリニダード・トバゴにルーツをもつ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、2020年に自身のブランド「マクシミリアン」を設立。若手支援プログラムの「ファッションイースト」に選ばれ、デビューシーズンからロンドン・ファッション・ウイークでコレクションを発表してきた。22年3月から現職

マクシミリアン・デイヴィス(Maximilian Davis)が「フェラガモ(FERRAGAMO)」のクリエイティブ・ディレクターに就任して約2年がたった。2022年3月に若干26歳で大役に抜擢された彼は、同年9月にデビューショーを開き、新たな章の幕開けを印象付けるミニマルで若々しいコレクションを披露。以来、豊富なアーカイブと向き合いながら自身のモダンな感性を生かし、1927年創業の老舗ブランドを未来へと推し進めている。そんなデイヴィス=クリエイティブ・ディレクターに、日本のメディアで初めての独占インタビューを実施。創業者や伝統への敬意から、デザインに対する考え方までを聞いた。

必要だったのは、新たな始まりだと感じさせること

WWD:就任当時は相当なプレッシャーがあったのでは?

マクシミリアン・デイヴィス「フェラガモ」クリエイティブ・ディレクター(以下、デイヴィス):もちろん、初めての挑戦だったから。でも、マルコ・ゴベッティ(Marco Gobbetti)CEOは「ジバンシィ(GIVENCHY)」時代にも当時25歳だったリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)を抜擢して成功に導いた実績がある人物。そんな彼が自分を選んでくれたことが自信につながった。マルコはとても協力的な人で素晴らしい指導者。私たちは目標やゴールが何なのか、いかにブランドを立て直して発展させるかについて何度も話し合った。クリエイティブ・ディレクターにとって、CEOとの関係性はとても重要。(ファッション業界内では)悪夢のような話もよく聞くから、とてもありがたく感じている。

WWD:就任から2年がたったが、今の気持ちは?

デイヴィス:居心地はいいと感じているけれど、私は常に自分がこれまでやってきた以上のことができると信じている。自分の仕事が“これで終わった”と満足することはない。いつだって学び、成長したいし、発展させたり変化させたりしていきたいことがある。

WWD:振り返ると、22年9月に発表したデビューコレクションで、ミニマルかつモダンなスタイルを軸に新しい「フェラガモ」像を明確に打ち出したのが印象的だった。新たなブランドイメージを確立する上で重視したことは?

デイヴィス:フレッシュであること。新たな始まりだと感じさせることが必要だった。自分が加わる前の「フェラガモ」は、いくつかの異なる方向性があり、少し分かりづらかったと思う。だからデビューコレクションはブランドにとっての新しいキャンバスを用意するため、ミニマルなシルエットにフォーカスした。特に、赤いジャケットドレスのルックが新生「フェラガモ」のシルエットを象徴していて、プロポーションやデザインを変えながらも毎シーズン打ち出している。そして、2シーズン目からは、ディテールや素材、プリント、テクスチャーにおける進化に取り組んでいる。

WWD:あなたが考える「フェラガモ」のDNAやコアバリューとは?

デイヴィス:何より創業者のサルヴァトーレ・フェラガモは革新的な人。彼はお菓子の包み紙のようなセロハンやワインのコルク、ラフィアといった身の回りにある素材を使って、靴を作っていた。そんなイノベーションの精神は今でもとても重要であり、ブランドの核となるDNAだと思う。そして、それに関連するもう一つの大切な部分は、クラフトへの向き合い方だ。昨日ちょうど、1万5000足のシューズをアーカイブとして持っているブランドが他にどれだけあるか?ということをチームと話したところだけど、それこそが「フェラガモ」の伝統やクラフツマンシップを物語っている。そして、受け継がれるイタリアの職人技と素材は「フェラガモ」の原点であり、ずっと業界をリードする特別な価値になっている。

WWD:では、今もよくアーカイブも訪れている?

デイヴィス:コレクション制作を始める時は、訪れるべきだと考えている。サルヴァトーレとファミリーがこれまで築き上げてきたものに敬意を払いたいからね。だから、アーカイブを見に行ったり、30年以上「フェラガモ」で働いている人たちに話を聞いたりして、当時のコレクションはどうだったか、どんな方向性だったかということを知るんだ。そういったコレクションの出発点になる豊かなアーカイブや知識を持った人がいることはありがたく、それが「フェラガモ」というブランドをユニークな存在にしていると思う。実際、毎シーズン、アーカイブを調べて、新しいアイデアや素材、アプローチを見つけることは、とても楽しい。

“家族”のためにデザインするというアプローチ

WWD:「フェラガモ」には、100年近い歴史がある。クリエイティブ・ディレクターとして、伝統あるブランドを“現代的”に表現するために、新たに持ち込んだ価値は?

デイヴィス:自分のブランドでもそうしていたように、さまざまな世代が入り混じる“家族”のような人々のためにデザインするというアプローチ。より成熟した顧客に対する感性があると同時に若々しい遊び心あふれるエネルギーもあるということは、私が「フェラガモ」のクリエイティブ・ディレクターに選ばれた理由の一つだと思う。最新のコレクションではさらにその意識を強く持っていて、家族全員に合うようなラインアップに発展できている手応えがある。そんな“あらゆる年齢層にリーチできる品ぞろえ”というのは、靴でそれを成し遂げた「フェラガモ」の原点にも通じること。自分の手掛ける「フェラガモ」ではウエアやバッグも含め、それを実現したい。また、新たに持ち込んだものではないけれど、1980〜90年代の「フェラガモ」に見られたようなセンシュアリティー(官能性)とエレガンスを取り戻し、新たなエネルギーをもたらしたいと考えている。

WWD:確かにコレクションからは、センシュアリティーやエレガンスも感じられる。特に23-24年秋冬では、ソフィア・ローレン(Sophia Loren)やマリリン・モンロー(Marilyn Monroe)といった1950年代に活躍したスターから着想を得ながらも、当時の女性性の表現は「異星人のように感じる」と語っていた。過去と比べて、現代のセンシュアリティーやエレガンスはどのように違うと感じる?

デイヴィス:現代の美しさは、もっと多様でオープンだ。50年代の人たちは、自分の体をよりグラマラスに、より官能的に見せる方法として、特定の着こなしをしていたと思う。23-24年秋冬コレクションで取り組んだのは、そこに目を向ながらも、現代風にアレンジするというアプローチ。例えば、マリリン・モンローを象徴する白いドレスのようなサークルスカートをナイロンで作り、コクーンシェイプのウインドブレーカーと合わせるといったようにね。50年代のシルエットを取り入れながらも、どんな素材なら現代的に感じられるか、今を生きる人々はどのような服装を望んでいるのかを考えたんだ。

WWD:デビュー当初に比べると、最近のコレクションはより落ち着きがあり、着やすいアイテムも増えた印象を受ける。実際に“売れる”ものを作ることをどれくらい意識しているか?クリエイティブとビジネスのバランスを取る難しさは感じるか?

デイヴィス:難しいことではなく、商業性とクリエイティビティーのそれぞれを適切な形で打ち出せばいいと考えている。常にデザインチームに確かめているのは、「自分がデザインしているものを自分自身が身に着けたいと思うか?」ということ。デザインする人自身がその製品を信じられなければ良いものは生まれない。それに、素材や構造が適切であり、着心地が良くラグジュアリーであるかを理解するためには、身に着けてみることが必要だ。ショー後から生産に入るまでにも、それぞれが実際に着用して問題点を見つけ出し、製品を改良している。もの作りに対するそういった姿勢は、商業性や実際に売れるものを理解するのにとても役立つと思う。その上で、ショーで見せるメーン・コレクションでは、クリエイティビティーを押し出すため、少しだけウエアラブルではないものを加えることもある。一方、核となるスタイルを提案するプレ・コレクションは理解してもらいやすく、ウエアラブルであること大事だと考えている。

WWD:これまでのコレクションを見ると、色の選び方が独特で印象的だ。どんなところから、そのヒントや着想を得ているのか?

デイヴィス:昔から「フェラガモ」の色使いは力強かったから、今後も受け継いでいくべき要素だと考えている。色使いに関しては、たくさんのアーカイブをリサーチしたり、美術館でいろんな絵画を見たり。それに、自分のルーツであるカリビアンの伝統によるところも大きいと思う。現地のカーニバルでは、自由の表現として、一見マッチしないような色を組み合わせる。だから、私にとってこの色彩感覚は自然なもので、心の中はとてもカラフル。自分自身は黒や紺といった落ち着いた色ばかり着ているけれどね(笑)。

シューズとバッグに対するこだわり

WWD:「フェラガモ」の代名詞であるシューズをはじめ、実用品としての側面も大きいバッグやシューズの制作は、ウエアとはまたアプローチが異なると思う。どのように取り組んでいるか?

デイヴィス:ウエアで大切にしているのは、これまでのシルエットをベースにしながら新しいものを生み出すこと。一方、バッグを制作する時には、機能性に加え、それがブランドを象徴するとともに将来的にも押し出していきたいものかどうかを考える。例えば、23-24年秋冬に初披露した“ハグ(HUG)”バッグは、シーズンごとに新たな色や素材、アレンジでアップデートしている。それはファミリーを増やしていくような感覚。ただ、コレクションを見た時に一目で「フェラガモ」の魅力と一貫性を理解してもらえるようを意識している。シューズは、ウエアと同じようにデザインにおける新しさや面白さを探求しているが、ショーピースと同じデザインでもより低いヒールやフラットを製品としては提案することで、さまざまなペルソナに合うようにしている。特にバッグやシューズは、身近なアイテムだからこそ確実にウエアラブルであり、クリエイティビティーとクラフトを感じられるものであるべきだと思う。

WWD:これからさらに強化したり、新たに取り組んだりしていきたいアイテムは?

デイヴィス:私たちは、シューズでブランドを認識してもらわなければならない。バレエシューズなど、いくつか象徴するようなアイテムはあったが、必要なのはフルラインアップをそろえてプッシュしていくこと。「フェラガモ」を訪れた時に、デイシューズも、イブニングシューズも、サンダルも買えるんだと思ってもらいたい。そして、それは何年も履くことができ、何世代にもわたって受け継がれていくもの。だからシューズは何より重要であり、今後もさらに注力していく。

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