「マルニ(MARNI)」は2023年2月1日、最新の2023-24年秋冬コレクションを東京で披露する。フランチェスコ・リッソ(Francesco Risso)=クリエイティブ・ディレクターが、米「WWD」とのインタビューで明かしたこのニュースを、「WWDJAPAN」編集部も独自に取材。日本とのつながりや東京を選んだ理由、本拠地であるミラノを離れた“トラベルショー”の意義、ブランドの姿勢や今後の展開などについて聞いた。
「マルニ」は従来、ミラノ・ファッション・ウイーク期間中にコレクションを発表してきたが、23年春夏コレクションは9月10日に初めてニューヨークで披露した。その際、リッソ=クリエイティブ・ディレクターは、「これはトラベルショーのシリーズ初回だ」と発言。情報筋によれば、次は東京での開催が有力視されていたという。
日本は「マルニ」にとって最も重要な市場の一つで、22年は前期比30%増収の見込み。また、売り上げ全体の23%程度を占めている。同ブランドは00年に日本に進出し、19年には東京・表参道に旗艦店をオープン。現在は百貨店への出店やアウトレットも含め28の売り場を展開しているが、バルバラ・カロ(Barbara Calo)最高経営責任者によれば、2年以内に日本で2番目の旗艦店を開く予定だという。最近では、「ユニクロ(UNIQLO)」とのコラボレーションコレクション「ユニクロ アンド マルニ(UNIQLO AND MARNI)」の第1弾を5月に発売。大好評を受けて、12月に第2弾を発表した。“ヒートテック”やダウンといったユニクロの強みである商品から、バラクラバ、スカーフといった「マルニ」コラボだからこそのアイテムまで、充実したラインアップとなっている。
東京を選んだ理由とは?
こうしたビジネス面での利点のほかに、新コレクション発表の場に東京を選んだ理由について、リッソ=クリエイティブ・ディレクターはこう語る。「1年前、トラベルショーをシリーズ化して、世界中のさまざまな都市にエネルギーをもたらすことで友人たちや各地のコミュニティーに還元しようと決断した。東京は、『マルニ』を昔から温かく受け入れてくれた街。ブランドを愛し、情熱を持ってくれる人々がたくさんいるので、ショーを開催したいと切望していた。しかし、すでに行ったショーのレプリカを見せたくはない。何かもっと特別で祝祭的な、“今”のエネルギーに満ちたものを届けたいと思った」。
イタリア・サルデーニャ島生まれの同氏は、現在39歳。「アレッサンドロ・デラクア(ALESSANDRO DELL'ACQUA)」「マーロ(MALO)」「プラダ(PRADA)」などで経験を積み、「マルニ」創業デザイナーのコンスエロ・カスティリオーニ(Consuelo Castiglioni)の後任として16年にクリエイティブ・ディレクターに就任。4年間でアートを融合した独創的な世界観を表現しながら、多様性、サステナビリティなどの価値観を加えて、ブランドの新たなビジョンを打ち出してきた。
同氏と日本の縁は深く、コロナ禍以前には年に2~3回は来日していたという。「東京にある1960年代の建物を見るのが好きなこともあり、人と会ったり、リサーチをしたりするためによく訪れていた。しばらく来られずにいたが、今年11月にようやく再訪できた。とても居心地がよく、発見に満ちた旅だった」とコメント。「旅をすることでさまざまな国のカルチャーを学び、人々が何に引かれるのかを知ることができる。私は以前から“グレー(曖昧)な世界”に魅了されてきたが、日本の玉川大師では暗闇の中を歩いた。それは驚くほど美しい体験で、日本文化の一端に触れたような心地だった」と話す。
なお、ショーの会場については明かされなかったものの、それは「コレクションのクリエイティビティーと深いつながりのある場所」で、観客は2500人程度の予定。ニューヨークのショーで音楽を担当したイギリスの歌手兼プロデューサーのデヴ・ハインズ(Dev Hynes)を再び起用するほか、日本のアーティストらとのコラボレーションも行うという。
大成功を収めたニューヨークのショーは、ブルックリン・ダンボ地区の橋のたもとにある建物で開催。フロントローには、ケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)、マドンナ(Madonna)、ドージャ・キャット(Doja Cat)らの豪華な顔ぶれが着席した。このショーで、リッソ=クリエイティブ・ディレクターは「今までとは全く違うエネルギーを感じた」という。「ショーの準備やフィッティングの間には友人たちが遊びに来てくれたし、『マルニ』のタレントやクリエイティブ・コンサルタントの多くはニューヨーク在住なので、彼らと密接にコミュニケーションを取るいい機会となった。ミラノは(ファッションにとって)とてもいい街だし、『マルニ』のホームだが、ここ数年はデジタルでのショーが続いたので、ファンがいるところに出向いて行ってオーディエンスと再びつながりたいという気持ちが強くあった」と振り返った。
「人々に喜びをもたらしたい」
では、「マルニ」はしばらくミラノを離れて世界を巡るのだろうか。ニューヨークや東京などでコレクションを発表する意図については、「(2021年4月に東京で開催した)ポップアップストア「マルニフェスト(MARNIFESTO)」の軸となった哲学とも響き合うことだが、コミュニティーとの豊かで多様な対話をさらに育みたいと考えた。イタリアのブランドとしてのアイデンティティーに誇りを持ちつつも、「マルニ」がこれまでに築き上げてきた意義深く幅広いつながりを再認識して感謝するという意味合いがある」と説明。この“トラベルショー”はニューヨークと東京を含めて4回開催する予定だが、あと2回をどこで行うかは未定だという。なお、「マルニ」は24年に30周年を迎える。その節目の年には、ミラノでコレクションを発表するとのこと。
23-24年秋冬コレクションの制作に当たり、日本から何かインスピレーションを受けたことはあるかという質問には、「はっきりこれだということはないが、もしかすると無意識的にはあったかもしれない」と回答。「『マルニ』の設立当初から、そしてブランドが新たな方向に進化して発展しているときも、日本はわれわれのビジョン、美意識、そしてスピリットを深く理解してくれた。東京でのコレクションは、芯から『マルニ』らしい、ブランドの最高の姿を見せるものとなるだろう。私は現在の皮肉に満ちた世界との折り合いをつけられず葛藤しているが、このコレクションはそうした世界とは対極にある。心からの情熱を持って誠実に作られた、正直なものだ。これまでもそうだったし、これからもずっとそうあるべきだと考えている」と説いた。「時を越えても衰えることのない質の高さや、特別なものを生み出すために必要な技術や鍛錬、忍耐力を重視するようになった。皮肉や冷笑、荒々しいブルータリズムはもうたくさんだ。私の使命は服を作ることだが、人間らしい感情や表現を抑制するような製品を作りたくはない。社会で起きていることを意識しつつも、人々に喜びをもたらし、少しでも居心地のいい世界を作ることに貢献したい」。