
「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は2026年春夏コレクションを、ルイ14世と結婚してフランス王妃となったアンヌ・ドートリッシュ(Anne d'Autriche)の夏の住居だったルーブル美術館で発表した。住居ゆえ、テーマは「アール・ドゥ・ヴィーヴル」。直訳すれば「暮らしの美学」という考え方のもと、プライベートゆえインティメイト(親密)、だからこそ自由なファッションのありようを讃えた。
「親密さを称えるなら、まず自分のために着飾ることが大事。家で着飾るのも楽しいものだ。と同時に私が伝えたかったのは、家でくつろいでいるときに感じる静けさ」とアーティスティック・ディレクターのニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)は語る。その言葉通り、時にはSFチックなムードまでハイパーミックスするニコラにしては、コレクションは静かなムードで女性らしさを讃える。ファーストルックから続くのは、オーガンジーやチュールなどを用いた下着にインスパイアされたドレスのスタイル。縫製した部分をパイピングすることでボディラインを強調したり、淡いピンクに染めていくつものドレープやプリーツを重ねたりすることで女性らしさを醸し出す。「ディオール(DIOR)」同様、ピークドラペルのチェスターコートはスエットのように柔らかな素材。今シーズンは特にボトムスを見ると、ワンマイルウエアのようにリラックスした素材使いが際立つ。
日常的な洋服を、シルエットや素材、ディテールなどでドラマティック、もしくは貴族的に仕上げているのも大きな特徴だ。例えば貫頭衣のようなドレスはダッチェスサテンで。ニットはシルバーコーティングして裾にほんのりとペプラムを仕込み、カーディガンはテディベアのように毛足が長い。シャツは、ラペルを巨大化させてシャープな鋭角に。リラックスウエアの中で一際際立つ存在に仕上げた。とはいえニコラらしい折衷主義であり、世界最大規模のブランドらしい汎用性のため、全体では一貫性より多様性を重視した印象だ。ニコラは、それぞれの暮らしを持ち、接点はあるもののすれ違う程度で視線さえ合わないほど十人十色の女性像を思い浮かべているという。視線が合わないとは、悪い意味ではない。だからこそ、自分らしくいられるという解釈をすべきだろう。
そんな彼女たちの「暮らしの美学」だからこそ、リラックスしたムードが一気通貫しつつも、スタイルはさまざまなモデルたちが登場した。ショーは、ケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)の朗読からはじまった。彼女は、「家とは私がいたい場所。でも、私はもうそこにいるのかも」とつぶやく。今シーズンは、多くのデザイナーがまるで自宅にいるかのように優しいスタイルで心の安寧をもたらそうとしている。