「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」がルイーズ・トロッター(Louise Trotter)新クリエイティブ・ディレクターによる2026年春夏コレクションを発表した。「シャネル(CHANEL)」に移籍したマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)の後任を務めるルイーズは、マチューが確立したメゾンコードを継承しつつも、少年・少女のようにピュアな探究心とアート的な志向を圧巻のクラフツマンシップで表現する方向性から舵を切り、リアルでソフト、比較的シンプルで開放感に溢れるコレクションへとシフトした。
現職に就任した1月以降、ルイーズはイタリアのベネチアとヴェネト州、「ボッテガ・ヴェネタ」の故郷に赴き、「その土地の雰囲気、ムラーノという小さな島の色彩とガラス工芸の伝統、そして、まさに工房のような『ボッテガ・ヴェネタ』の存在を肌で感じ取った」という。そこから「ボッテガ・ヴェネタ」にとって最大のアイコン、レザーの編み込みの“イントレチャート”の真髄は、「2つの異なるストライプが織り合わさることでより強くなること。2つで、より強い全体を形作ること」と捉え、工房の職人たちとタッグを組み、ムラーノの色彩と、“イントレチャート”の真髄の表現を試みた。
知的でクリーンなルイーズと
「イニシャルだけで十分」なブランドの融合
序盤はルイーズらしくスポーティな感覚とラグジュアリーなムードを融合させながら、ブラック&ホワイトを基調に、静かに、リアルに、シルエットやボリュームに最新の注意を払う形で始まった。ピュアホワイトのシャツやハンサムなコート、そしてたっぷりクッションを取ったパンツなどの普遍的なアイテムは、「ミラノスタイルのクラシシズム」。コートのラペルやトグル、ローウエストのベルトにレザーや“イントレチャート”を忍ばせつつも、全体的には静かに、穏やかに進んでいく。「ジョゼフ(JOSEPH)」や「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」などで経験を積むことでクリーンで知的な表現を磨いてきた自身と、「自分のイニシャルだけで十分(When your own initials are enough)」というキャッチフレーズを掲げてミニマルの価値を説いてきた「ボッテガ・ヴェネタ」が、まるで“イントレチャート”のように織り重なり始めたことを伝える。どの時代のよりも細くてしなやかなレザーを編み込んで作ったのだろう“イントレチャート”のトレンチコートやケープの中には、厚さわずか2mmというリボンをボンディングしたナッパレザーを10万mも使用し、50人の職人が交代しながら手作業で、延べ4000時間を費やしたものもあるという。マチューのコレクションのように「畏怖」という意識さえ抱くほどの威圧感はないが、ルイーズが語る「まさに工房」というブランドのアイデンティティのシンボルとなった。
フィルクッペやレザーと編み込んだフェザーを用いて、フリンジのように軽やかに揺れる動きを見せた中盤に入ると、コレクションは色彩、そして質感のバリエーションが一気に豊かになる。招待客を魅了したのは、リサイクルしたグラスファイバーにムラーノガラスのような澄み切った色を加え、まるで繊維のように操ったスカートやブルゾン。そのトップスをルイーズは「セーター」と呼んだ。色とりどりのムラーノ・ガラス・ファイバーは、内側から発光しているかのようにも見えるし、マチューも追い求めた幻想的な動物の毛並みのようにも感じる。「グラスファイバーは、毛皮のような感触で、ガラスのように動く。『ボッテガ・ヴェネタ』では、職人とクリエイター(自分)が、共に解決策を見つけていく。グラスファイバーは、イタリアで私が感じる、淡いドルチェ・ヴィータ(甘い生活)の雰囲気」とルイーズ。ガラスを用いたアイテムと合わせるのは、洗いをかけたシルクを重ね、今後期待されるセンシュアル(官能的)なムードを醸し出したペンシルスカートや、肩にパッドを入れたグレーのクルーネックニット。ごくごくシンプルなアイテムを選んでいる。工芸とファッション、ガラスと繊維、マキシマリズムとミニマリズム、何より職人とルイーズが、ここでも“イントレチャート”のように織り合わさり、2つでより強いステートメントを生み出した。これこそが、ルイーズの言う“イントレチャート”の真髄なのだ。
一方、アクセサリーでは「カルバン・クライン」のほか、「ギャップ(GAP)」や「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」でも経験を積むなど在米歴が長かったルイーズらしく、アメリカ・ニューヨークのダイナミズムに思いを馳せている。1980年の映画「アメリカン・ジゴロ」で「ボッテガ・ヴェネタ」のクラッチバッグを持って登場したローレン・ハットン(Lauren Hutton)に思いを馳せ、アップスケールして再提案。多くはマチューはもちろん、ダニエル・リー(Daniel Lee)そしてトーマス・マイヤー(Tomas Maier)ら、歴代のデザイナーによる名作を現代的に少しずつモディファイしているようだ。
マチューのように「Wow!」な驚きは少ないかもしれない。ルイーズの「ボッテガ・ヴェネタ」は、アートや工芸の世界に突入しかけていたマチューのコレクションに比べれば、あくまで洋服でリアルだ。ただ、そこに込めたクラフツマンシップや、職人をリスペクトする気持ちになんら変化はない。ルイーズは、「クラフトマンシップこそが、革新の源」と言う。マチューも繰り返した言葉だ。
そこにルイーズは、「職人技が結集したクリエイションは、それを作る人々と、それを身につける人々が大切。『ボッテガ・ヴェネタ』は、手と心が一つになる場所」と続けた。職人とルイーズ、ブランドと消費者、そして手と心が“イントレチャート”のように重なり合い、今までより強いファッションとブランドが生まれていく予感がする。