
本当の宝物は金銀財宝ではなく、豊かな自然だった――。そんな内容の寓話があるような気がするのですが、思い出せません。
昨年9月の北館に続き、3月21日に南館が開業した「グラングリーン大阪」の評価がうなぎ上りです。大阪駅北側の大規模再開発で生まれたこの複合施設には、商業、オフィス、ホテルなどの都市機能が集まります。でも最も人気を集めるのは甲子園球場よりも広い「うめきた公園」です。超一等地の芝生広場の周辺にはさまざまな木々が植えられ、安らぎを与えてくれます。春を迎えた公園では、芝生の上で大勢の人がお弁当を食べたり、寝そべったりしています。水盤では子供たちが水遊びをしています。
東京に置き換えれば、新宿駅や渋谷駅の目の前に東京ドームよりも広い緑地が突然できたようなもの。インパクトが想像できるでしょう。
この場所は貨物列車の停車場でした。再開発するにあたり、広い公園を作るアイデアは画期的でした。関西一の繁華街である大阪・梅田には商業施設やオフィスが入る立派なビルはすでにたくさんある。ファッションストアや飲食店も十分過ぎるほどある。
では、梅田に足りないものは何か。緑と空です。
JR、私鉄、地下鉄が何本も乗り入れ、古くから百貨店や地下街が発達した梅田は、人が屋内を回遊する街です。人通りの中心は地上ではなく、屋内や地下街。御堂筋のように歩くのが気持ちいい並木道、中之島のような水辺の空間もない。空の広さを感じられる開放感のある場所が欠けていました。
開発・運営は三菱地所を代表とするグラングリーン大阪開発事業者JV9社。不動産業ですから賃料が収益源になります。そのため高層ビルを多く建て、床を作り、たくさんの店舗やオフィスを誘致するのが常識的な手法です。広い公園は稼ぎになりません。大都市の再開発が高層ビルだらけになる理由です。
でもグラングリーン大阪は不動産業の常識を選ばなかった。かといって損をしているわけではない。三菱地所の神林祐一グラングリーン大阪室長は「緑豊かな公園を作ったことで不動産の価値が劇的に上がった。都市開発の新たなモデルを示せた」と胸を張ります。
特にオフィス誘致が計画以上に順調で、単に駅前というだけでなく、広い公園を庭のように使える環境が従業員のウェルビーイングを重視する企業に支持されました。南館に出店したファッション企業も目の前に広がる公園に魅力を感じています。「ナイキ(NIKE)」はランニングやヨガのイベントを芝生広場で、「ロンハーマン(RON HERMAN)」はナイトシアターを大屋根広場でそれぞれ企画します。
建てることではなく、建てないことで土地の価値を高める。グラングリーン大阪は、都市開発の逆説の物語になるかもしれません。
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