「WWDJAPAN」には美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。(この記事はWWDJAPAN2022年10月24日号からの抜粋です)
5年以内にGDPで日本は韓国に抜かれるという。いやすでに平均給与では年間で50万円も負けている。まさか経済でも……と、少なからずショックを受けた人もいるはずだ。それもエンタメの世界で今や韓国は最も重要な国。Kポップでも韓国映画でも世界を席巻した上に、あの「イカゲーム」がTVドラマでも世界一となった。米国TV界“最高の栄誉”エミー賞を非英語作品初にして最優秀男優賞など6冠も獲得。勢いがあるとはいえ、あまりにもあっけなく世界的快挙を成し遂げている。
説明するまでもなく、韓国は常に全身全霊をささげ、極めて仕事が早い人が多く、自分の失敗も相手の失敗も許さない過酷な競争社会であることを私たちは知っている。ただそうなる要因はもう一つ、以前から韓国では有識者のこうした主張が目についた。それは、「経済よりも文化を誇れる方が、むしろ国が強くなる」という提言。つまり昨今、その通りにことが進んでいるということになる。
ポップスや映画の世界だけではない。じつはクラシック音楽でも韓国人の活躍がつとに目立ってきていた。ドイツの音楽大学の声楽科では入学志願者160人中120人までが韓国人という驚くべき数字も。アジアでは何といっても日本人が目立った分野なのに、若者が留学をしたがらない傾向も手伝って、完全に韓国の牙城となっている。もちろんビューティでも韓国発オルチャンメイクが日本でトレンドとなるような流れはもはや止められない。
そもそも文化度も美意識も、日本人はとりわけ優れていると私たちは自負していたはず。そしてもちろん日本の文化の素晴らしさは世界が認めるところ。でも個々の新しい挑戦には乏しいのかもしれない。知らない間に、アジアでも2番手3番手になっている現実があるのだ。文化にお金をかけないのは、政治の問題も大いにあって、コロナ禍でもアーティストの支援は国によって判断が大きく異なることが話題になり、そういう意味で日本政府のサポートは貧しいものだった。でもそういう事実が明らかになった今こそ、文化に関わり美に関わる人間一人一人が、日本の文化を研ぎすませたいという思いを新たにすべきときなのかもしれない。
なのに今、マスコミのクリエイターを目指す人の数が減っている。メディアの数が減り需要が減ったこともあるけれど、カメラマン、ヘアメイク、スタイリスト、グラフィックデザイナーといった人たちのギャランティーは20年前と変わっていないといわれる。いやむしろ減っているとも。いかに平均給与が上がらない国であってもクリエイターの地位やモチベーションを上げるようなことからはじめるべきなのだろう。10年ほど前まで、中国がこぞって日本の雑誌の中国版を作っていた時代があったが、当時とは状況がもう違う。日本のクリエイターは今一度プライドと自信を持ち直し、日本のクリエイティブのクオリティーを上げていく意識を持つべきではないか。デザインが国の印象を作るのは紛れもない事実。洗練された国かどうか、憧れられる国かどうか、それは結局のところ美意識が決める気がする。1つの目安にすぎないが、オリンピックの開会式が素晴らしければ見直される、何かそういう単純な仕組みがある気がしてならないのだ。だから日本が作るものの芸術的価値を上げる。それは一人一人の意識にかかっているのだ。日本は美しい。日本が作るものは圧倒的に美しい。そういう時代を取り戻せないだろうか。