ファッション

ベルサイユ宮殿でファンタジーを見せた「ディオール」や新生「ジバンシィ」の初ショー パリコレ対談Vol.3

 2021-22年秋冬シーズンのパリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)が3月10日までオンライン上で開催されました。ここでは7日と8日に発表された中から厳選した6ブランドをご紹介。長年ウィメンズコレクションを取材する向千鶴「WWDジャパン」編集長とベルリン在住の藪野淳ヨーロッパ通信員が対談形式でリポートします。

アフターコロナを前向きに見据える「ジル サンダー」

藪野:ウィメンズでは初のパリコレ公式スケジュールでの発表となる「ジル サンダー(JIL SANDER)」は、1月に発表されたメンズ同様の世界観の映像でした。あえて粗い画質やボケを取り入れたノスタルジックな映像は、素材の質感やデザインを細かく見せるというよりも雰囲気重視。その背景には先シーズンにインタビューした時に聞いた「アイテムの持つエモーションを伝えたい」というルーシー&ルーク・メイヤーの思いがありそうです。

向:「アイテムの持つエモーションを伝えたい」とは、実に2人らしく、同時に日本では共感を得やすい言葉ですね。万物に魂や宿るという思想が日本には根付いているから。神仏につながる特別なモノではなく、日常生活で使用する物に対してもそうですよね。ファッション業界の人はサンプルを“あの子”と言ったりするし(笑)。「ジル サンダー」の素材選びや繊細なパターンなど一つ一つにその考えが反映されていると思う。そしてこの物としての服に真摯に向き合うデザイナーの態度は今季の全体傾向のひとつですね。

薮野:コレクションはというと、21年春夏シーズンはソフトな素材や体に寄り添いつつ締め付けないデザインのデイウエアを意識していました。一方、今シーズンはニットのボディースーツやウエストをニットで切り替えたドレス、ゆったりとしたブラウスでそういった流れを引き継ぎつつ、コンパクトウールやレザーのジャケットとコートや縦のラインを強調するシルエットも多かったですね。「意外性のある要素を組み合わせたレイヤード」というのが、キーワードの一つになっているようです。

向:今季のリリースにあった「変わるためには前向きさが必要」や「服で遊ぶこと。服を組み替えることの楽しさ」という言葉も印象的。アフターコロナの日常やファッションを照らすポジティブな言葉です。全身に使う幾何学柄や鮮やかな色使い、大振りのアクセサリーなどいつも以上に大胆な要素が多いのはそういう思いから来ているようですね。蝶々のプリントは復活の象徴だそう。

藪野:そうですね。もうファッション・ウイーク終盤ですが、今季はポジティブな気持ちでコレクション制作に取り組み、ファッションの楽しさや喜びを伝えたいと考えているデザイナーが本当に多いです。ヨーロッパではまだロックダウンや外出制限中の国が多いですが、デザイナーたちは前向きにその先を見据えています。そういう思いで作られたコレクションや映像を見ていると、ドレスアップしたり、友達とご飯に行ったりしたいな〜という気持ちが高まります!

まるでファンタジー映画な「トム ブラウン」

藪野:「トム ブラウン(THOM BROWNE)」は、バンクーバーオリンピックのアルペンスキー女子滑降で金メダルを獲得した元プロ選手のリンゼイ・ボン(Lindsey Vonn)を主役に迎えた銀世界でのファンタジー感あふれるショートフィルムを見せてくれました。ところどころ、「オズの魔法使い」を想起させる要素が入っていましたね。

向:すごく好きでした。トムのユーモアと、アスリートのち密さや大胆さが掛け合わさって見たことがない世界観を描いていました。この「見たことがない、しかも身に着けることができる新しい世界観」ってファッションデザイナーが世の中に提供できる最高のギフトだと思う。最初にリンゼイと登場する謎のキャラクターの動きに始まりオチの一言まで毎秒が面白い。ティザー動画では「トム ブラウン」を着たアスリートが実際にスキージャンプをして空を飛んでいました。プリーツスカートが風になびく姿はコロナで鬱屈する心を開放してくれましたよ。ショー開催以上にお金がかかってそうです。

薮野:もはや映画を作る意気込みですよね。NY版「WWD」のレビューでもトムの創造性を評価し、「いつか彼の作る長編映画が見てみたい」と書かれていました。コレクションは、シグネチャーのテーラリングをベースに、クラシックなイブニングドレスやアルペンのフォークロア的装飾、ダウン、ドローコードといったスポーツウエアの要素を融合。「NAGANO」「BEIJING」「SALT LAKE CITY」「OSLO」など冬季オリンピック開催都市名のワッペンが飾られたルックもかわいかったです。

マシューの「ジバンシィ」が初のランウエイショー

藪野:お次はマシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M Williams)による「ジバンシィ(GIVENCHY)」です。昨年9月のデビューコレクションはルックブックでのお披露目だったので、今回が初のランウエイショーになりました。会場は、無観客の巨大なスタジアム。ステージ衣装からファッションのキャリアを積み、ミュージシャンとの親交が深い彼らしいチョイスです。マシューが「ジバンシィ」で描こうとしているタフでクール、そしてラグジュアリーなイメージがさらに明確になりました。

向:いや~強かったね。マシューがラグジュアリーをけん引するネクストリーダーであることは間違いないと思います。黒、白、赤。テーラード、スキニーなボトムスやドレス、ダウンジャケット。艶のあるレザー、レース、ボタンではなくファスナー。極太チェーンアクセサリーやニット帽に見るキャラクター性。ヨーロッパのブランドには必須なセクシーの要素とスポーツ&ストリートの要素を巧みに取り入れているし、バッグやアクセサリーに展開しやすいアイデアも豊富。マシューはアートディレクター的感覚が優れているよね。女性モデルのバストを見せちゃたのはナシ、とは思いましたが。

藪野:ですね。以前のミラノコレでも村上要「WWDJAPAN.com」編集長がコラムを書いていましたが、特にデジタル発表になり、限られた招待客だけでなく多くの人の目に触れたり、インターネットやSNSで拡散されたりする時代ですし、マシューは若者たちから支持されているデザイナーです。僕も若いモデルたちへの配慮が必要だと感じました。

リッチな若者たちにフォーカスした「ランバン」

藪野:「ランバン(LANVIN)」は、貴族の邸宅を改築した5つ星ホテルのシャングリ・ラ ホテル パリ(Shangri-La Hotel Paris)が舞台。リッチな若者たちが集まって、買ってきた服を着て見せ合ったり、踊ったりといった楽しげな雰囲気でした。そのままですが、使われていた曲もラッパーのイヴ(Eve)をフィーチャリングしたグウェン・ステファニー(Gwen Stefani)の「Rich Girl」でしたね。夢見る少年のような世界観の印象が強かったブルーノ・シアレッリ(Bruno Sialelli)ですが、今シーズンは大きくクリエイションをシフトしたように感じました。ウィメンズはグラマラスなドレスやコートとテーラリングが中心。一方、メンズはリラックス感のあるテーラリングとスポーツ&ストリートウエアのミックスでした。この変化を向さんはどう見られましたか?

向:アフターコロナの開放された世界を楽観的に描いたそうで、突き抜けていましたね。第1次世界大戦後の1920年代や第2次世界大戦後の40年代はファッションが一気に華やいだし、コロナ後はファビラスな世界が戻ってくるのかも。ただ、こんな風に“ガンガン消費する”価値観が2020年代に戻ってくるのかは疑問。「ランバン」は中国企業の傘下にあるし、ブランドの戦略としては中国の若い新興富裕層にフォーカスを当てているのかな。これほどバブリーなムードをリアルに体現できるのは中国くらいだと思う。創業デザイナーであるジャンヌ・ランバン(Jeanne Lanvin)と娘のマルグリットをモチーフにしたロゴが効果的でしたね。

夜のベルサイユ宮殿で見せる「ディオール」のファンタジー

藪野:「ディオール( DIOR)」は、20-21年秋冬や21年春夏のクチュール・コレクションの映像でも表現していたようなファンタジーの世界とファッションショーの融合を見せました。ショーの舞台は、なんとべルサイユ宮殿(Palais de Versailles)内の鏡の間。マリア・グラツィアはリアルショーのセットをアーティストのシルヴィア・ジアンブローネ(Silvia Giambrone)に依頼していたのですが、ショーが開けないことになり、そのために作られたトゲが飛び出た14枚の大きな鏡のようなオブジェを宮殿に運び込んだそうです。今シーズン、マリア・グラツィア・キウリが探求したのは、おとぎ話の世界。パフスリーブのブラウスやミニ丈のエプロンドレスなど前半のいつもよりガーリーなテイストが新鮮でした。

向:スケールの大きさが桁違いですね。京都御所にオブジェを持ち込んでショーを開くようなものですから。日中に訪れと黄金色がまばゆい鏡の間ですが、夜にショーを開いたのでしょうか、ほの暗く落ち着いた演出でしたね。そしてキーカラーは赤。月明かりが赤い服に影を落とし、また「赤ずきん」のようなフード使いもありミステリアスでした。今季のインスピレーションの一つに先日、「ディオール」のファッション&ビューティのグローバルアンバサダーに就任したBLACKPINKのJISOO(ジス)の名前が上がっていたのでその要素を探しながら見たけど、今一つ分からず。彼女のちょっと影を感じる部分かな?

藪野: うーん……そうですね。その点は僕も結局分かりませんでした。

モデルが天井を歩く!?「アンリアレイジ」

藪野:リアルショーでもいつも驚きの仕掛けや演出を用意して楽しませてくれる「アンリアレイジ(ANREALAGE)」ですが、今回はリアルでは絶対できない見せ方でしたね。セットはシンプルなファッションショーの会場なんですが、大半のモデルがランウエイではなく天井を歩いているような演出でした。

向:「アンリアレイジ」はデジタルコレクションになって輝きを増していると思う。デジタルという制約を受けたことでメッセージがシンプルかつクリアになって受け取りやすくなりました。頭が下に来るルックはリンゴの木から落ちたリンゴの柄がネック回りに散らばっているとか、重力に忠実なところが単純に面白い。ただ三半規管が弱い私は途中でちょっと“ウッ”となりました。これって写真を掲載する場合はやはい頭が下ですよね?

薮野:はい、そうです。パッと見間違いかと思われそうですが、それが正解です。でも結局、ルック写真がスマホの画面を逆にして見てしまいました(笑)。

飛行機の翼をランウエイにした「バルマン」

藪野:さて、8日のトリ「バルマン(BALMAIN)」です。先シーズンはパリでのリアルショーを行いましたが、その際はフロントローにスクリーンが並んでいて、そこに渡仏できなかったセレブや有名エディターたちがショーを見ているような映像が流れるというユニークな演出でした。今季も「バルマン(BALMAIN)」の演出は、ぶっ飛んでいます(笑)。飛行機の非常口からモデルが登場して翼の上を歩いたり、飛行機の真下をグループで闊歩したり。最後は合成ですが宇宙にまで行っちゃいました。

向:「エールフランス(AIR FRANCE)」だったね。夢を見させてくれたし、翼の上は歩けるのだ、ということを知りました(笑)。「バルマン」のお客さんはジェットセッターのセレブリティが多いだろうから、これを見て旅情をかき立てられたと思う。自家用飛行機で真似しちゃう人もいるんじゃないかな。登場した服も飛行機乗りの制服やカーゴパンツなどいつも以上にスポーティー。ハンドワークはもちろんたくさん使われているのだろうけど、その存在を主張せず、軽やかでした。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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