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新聞を発行した「ロエベ」、映像でも余韻を感じさせる「ヨウジ ヤマモト」 パリコレ対談Vol.2

 2021-22年秋冬シーズンのパリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)が3月10日までオンライン上で開催中です。ここでは4〜6日に発表された中から厳選した9ブランドをご紹介。過去8年間パリコレやミラノコレを取材してきたベルリン在住の藪野淳ヨーロッパ通信員と、ウィメンズ・コレクションを担当する大杉真心「WWDジャパン」記者が対談形式でリポートします。

「ビューティフル ピープル」で冨永愛が熱演!鏡に映るもう一人の姿

大杉:「ビューティフル ピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)」は2021年秋コレクションで発表した新たなパターンテクニック「ダブルエンド(double-end)」を発展させたコレクションでした。「ダブルエンド」は単なる2ウエイではなく、上下をひっくり返すことで新しい形の服になるアイデアです。動画では、日本を代表するモデルの冨永愛さんを起用していましたね!鏡のような演出で、鏡面に映った姿と同じ服を着ていても、別の着方をしているという表現でした。愛さんが鏡の向こうの自分に笑いかけたり、にらみ合ったりする演技が強く、別人格がいるようでドラマチック。引き込まれました。

藪野:パンツも上下逆にできるのには驚きでした。ちなみに「ビューティフル ピープル」の後に披露された「ヴィクトリア/トマス(VICTORIA/TOMAS)」も先シーズンからコンセプトを変えていて、今季も全てのウエアがリバーシブル仕様のコレクション。実際のところ、リバーシブルや2ウエイってどちらかの着方の方が好みだったり素敵だったりして、結局1パターンでしか着ないということも多いですよね。両方を高い完成度に持っていくのはなかなかチャレンジングですが、こういう“一着で二度おいしい“的な提案は増えてくるんですかね?

大杉:そう言えば、ミラノで発表した「エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 MAISON MARGIELA)」も、インサイドアウト(裏返し)、アップサイドダウン(逆さま)など、リバーシブルで2パターンの着こなしができる提案をしていました。「ビューティフル ピープル」は3月15日に東京でファッションショーを開催予定で、その内容は今回のパリコレ動画の続編となるそうなので、来週の発表も楽しみです!

風が吹き荒れる海辺を舞台にした「リック・オウエンス」

藪野:「リック・オウエンス(RICK OWENS)」はライブショーの配信でしたが、今回も舞台はパリではなくイタリア・ベネチアの南にあるリド島です。かつてはカジノだったという歴史ある建物をバックに開催した21年春夏シーズンに対し、今季のランウエイはビーチにあるコンクリートの桟橋。冬の海と曇り空という背景が、どこか物悲しい雰囲気を漂わせます。

大杉:風が吹き荒れる海辺で、冬の厳しい寒さが伝わってきました。バックステージも映し出され、リック本人もモデルへ着せ付けをしていましたね。今季のファッション・ウイークも終盤ですが、モデル全員がマスクを着用していた唯一のショーだったと思います。ただ普通のマスクではなく、黒やグレーで首元まで垂れ下がるロング丈で、ファッションとして提案されていたのがよかったです。

藪野:コレクションは1月に披露されたメンズ・コレクションと同じく「ゲッセマネ(Gethsemane)」という題名で、これはキリストが磔の前夜に祈りを捧げた庭のことだそう。メンズに通じる地面を引きずるほど長いコートやパワーショルダーのボンバージャケット、袖が取り外せるダウンジャケットなどが登場しました。ウィメンズではほぼ全てのモデルがレザーのボディースーツを着用。マーメイドラインのロングドレスも印象的でしたね。

「ロエベ」は新聞でコレクション発表

大杉:「ロエベ(LOEWE)」は前シーズン、ファッションショーが開催できない代わりに壁紙をプレス関係者に送って原寸大のルックを見せるという試みをしていましたが、今回は新聞を作っちゃいましたね!“【特報】ロエベ ファッションショーを中止”という見出しが入った“ロエベ新聞”は、朝日新聞の折り込みで都内一部の定期購読者に配布されました。フランスでは「ル・フィガロ(Le Figaro)」 、イギリスでは「タイムズ(The Times)」、アメリカでは「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」と取り組んだそう。クリエイティブ・ディレクターのジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)の発想には驚かされます。

藪野:ジョナサンは毎朝、新聞を読むのが好きだそう。新聞を使った理由については、「多くの観客にショーを届けるためにメディアを手段として使うことを考えた。自分たちがやろうとしていることに対して、より多くの人に興味を持ってもらえるように広く配信したかった」と話していました。ちゃんと発行される国の言語に翻訳もされているというところから彼の本気度が伺えます。コレクションは視覚的に訴える鮮やかな色と幾何学なモチーフが印象的でしたが、ジョナサンはカラーセラピーについて考え、気持ちを明るくしてくれる色を取り入れたとのこと。ここ数シーズン顕著なドラマチックなボリュームやドレープの使い方も見られる一方で、1920年代の乗馬用ジャケットなどからヒントを得たという縦長シルエットのテーラリングやドレスのようにまとうレザーコートなどもあり、充実したラインアップで着飾ることの楽しさを伝えているように感じました。「ロエベ」と言えばレザーグッズも重要ですが、その辺りはどうでしょう?

大杉:弊紙が全国百貨店を対象に行った取材によると「ロエベ」は今、日本でとても好調です。映画「となりのトトロ」とのコラボレーションも話題になりましたし、SNSで露出が多く、幅広い世代から支持を得ています。動画の中でジョナサンが「新しいアイコンとしてタイムレスで、ジュエリーのようなバックを目指した」と話していたショルダーバッグの“ゴーヤ(GOYA)”バッグに一目惚れ。個人的にも欲しいと思っています。

藪野:価格が気になるところですね。また、ブランドを代表する定番バッグ”アマソナ(AMAZONA)”も久々にコレクションでフューチャーされていました。オリジナルの南京錠付きデザインですが、より上質なレザーや進歩した技術力を駆使して、より洗練されたアイテムに仕上げたとのことです。形状は横長の長方形に加え、新たに正方形に近いものが登場。カラフルなレザーとアナグラムのジャカード生地で提案されています。

「イッセイ ミヤケ」の“静かだけど堂々としている服”

藪野:「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」のテーマは、“As the Way It Comes to Be -生まれたままで-“。是枝裕和監督の映画作品「そして父になる」や「海街diary」で撮影監督を務めた瀧本幹也さんがディレクションした映像を通して、コレクションを発表しました。無機質なビルと自然の中で、有機的なフォルムと色が際立っていましたね。特にしなやかな曲線を描くプリーツが目を引きました。大杉さんは、東京で実際のアイテムも見てきたんですよね?

大杉:はい。普段、展示会を行っているホールが上映室になっていて、編集長の向と私の2人で事前に映像を拝聴するという贅沢な機会をいただきました。その後、デザイナーの近藤悟史さんに説明を受けながら、実際のアイテムに袖を通してきました。今季は自然の普遍的な美しさに着目して、「静かだけど堂々としている服を作りたかった」という近藤さんの言葉が印象に残りました。特殊な素材加工を強みとする「イッセイ ミヤケ」には珍しく、無染色のウールやオーガニックコットンのそのままの色と風合いを生かしたウエアシリーズもありました。ウールコートは柔らかく、軽くて、細部まで近藤さんのこだわりが詰まっています。詳しいレポートも書いたので是非合わせて読んでいただけたら嬉しいです。

「ニナ リッチ」の不思議な無観客ショー

大杉:「ニナ リッチ(NINA RICCI)」は青い椅子を並べたランウエイをモデルが歩く、無観客ショーの映像でした。ルシェミー・ボッタ―(Rushemy Botter)とリジー・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh)のデュオによる「ニナ リッチ」は透明感があって、近未来的な印象です。ジャケットのセットアップとスポーツウエアのようなパーカのレイヤードや、膝上丈のコートと千鳥格子のカラータイツの組み合せたスタイリングは、軽やかでフレッシュ。多数のモデルが被っていたクラウンの高い帽子もカラフルで目を引きました。藪野さんはZoom上で取材もしましたが、ルシェミーとリジーはどのようなことを話していましたか?

藪野:僕が取材したのは映像の公開前で「先シーズンよりもランウエイショーに近い形にしたけれど、普通とは違うクリエイティブな映像を目指した」とリジーが話していたのですが、実際に見て納得しました。確かに普通のショーのように始まりますが、スーパースローモーションや逆再生、合成を取り入れることで不思議な映像になっていましたね。コレクションはというと、2人は「クチュールメゾンとしてのヘリテージを大切にしながらも日常の中で着られるものを作りたい」という思いを持っていて、今季から価格帯を見直してより手の届きやすいブランドを目指すようです。コレクションも「アイテムの型数を絞ってより色と形にフォーカスした」と言います。デザインは、得意とするテーラリングにユーティリティーやスポーツウエアの要素、そしてクチュール由来の形状をミックス。細長いシルエットのスーツは、1940年代のアーカイブから着想を得たもので、ガーメントダイのナイロンやウールを使ったワークジャケットや取り外しできるスカーフ付きのダッフルコートは後ろが少しふくらんだコクーンシェイプが特徴になっています。遊び心のあるアクセサリーも彼らの魅力ですが、イヤリングはメゾンを代表する香水“レールデュタン(L’AIR DU TEMPS)”の瓶の蓋からヒントを得た鳥のデザイン。そして大杉さんが気になった帽子は、ファーストコレクションで披露したハットを作る時に使った木型の形を再現したそうですよ。

動きの余韻を感じさせる「ヨウジ ヤマモト」

藪野:「ヨウジ ヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」は、昨年9月のパリコレで見たリアルショーの中でも特に心に残っているブランドなのですが、やっぱりリアルで見たいな〜と思いました。というのも、「ヨウジ ヤマモト」のショーにはモデルが歩いた後に余韻が漂うような独特な雰囲気があるから。今回の映像では、モデルがゆっくりと歩く動画に、白黒の動画や写真を重ねるように織り交ぜることで、そんな余韻の表現を試みているようにも感じました。

大杉:そうですね。映像でもドレープが美しいカーテンのかかった会場と、少しさみしい女性の歌声の演出がエモーションに訴えかけてきて、ブランドの世界観が感じられました。大きな安全ピンがボタンになったロングジャケット、紐やチェーンを大胆に垂らしたロングドレスなどは、今の不安定な世の中や、脆さを表しているようで、世の中の心境とリンクしているように思います。ラストには「リミフゥ(LIMI FEU)」のコレクションも登場しましたね。

3都市をつないだ「エルメス」のパフォーマンス

藪野:「エルメス(HERMES)」は、「Triptych(三部作)」と題して、ニューヨーク、パリ、上海の世界3都市をつないだ壮大なコレクション発表でした。最初の舞台はニューヨークで、振付師のマドリーヌ・オランダー(Madeline Hollander)演出によるウォーキングとダンスを組み合わせたような生き生きとしたパフォーマンスを7人の女性ダンサーが披露。そこからパリでのランウエイショーへと移り、上海での振付師グ・ジャニ(Gu Jiani)監修による中国の伝統舞踊の動きを取り入れた女性ダンサー5人のパフォーマンスで締めくくられるというものでした。全体を通して、女性の力強さが表現されているように感じましたね。

大杉:オンタイムで映像を見ていたのですが、ちょうど音声SNS「クラブハウス」で「マルタン・マルジェラとパリで仕事をしてきたカナコさんに当時の話をお聞きする」というトークルームが立ち上がって、副音声にして聴いていました。パリでスタイリストとして活動されている日本人女性のカナコ・コガさんは、マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)がウィメンズ・アーティスティック・ディレクター時代の「エルメス」のデザインチームに所属されていた方。現「エルメス」のウィメンズのアーティスティック・ディレクターを務めるナデージュ・ヴァンヘ・シビュルスキー(Nadege Vanhee-Cybulski)は当時、マルタンの元で「メゾン マルタン マルジェラ(MAISON MARTIN MARGIELA)」が「女性のためのワードローブ」を提案する“4”ラインのデザインを担当していたという話をしていました。今回のコレクションを見ていると、ナデージュは師匠であるマルタンのデザインを継承しているのが分かります。マルタンがかつて「エルメス」でデザインしたレザーストラップをコートの留め具に施したり、ブランケットのようなコートがあったり、腕には二重巻きの時計ストラップ “ドゥブルトゥール(Double Tour)”を付けたアップルウオッチ(Apple Watch)の新作もありました。とてもマニアックですが(笑)、そんな発見も面白いですよね。

藪野:なるほど。「クラブハウス」ではそんな貴重な裏話が聞けることもあるんですね。コレクションでは、多くのモデルがデニムやレザー、ギャバジン、ダブルフェイスカシミアのハリのあるコートやジャケットの下に、セカンドスキンのような透け感のあるハイネックニットを着用。ミディ丈のプリーツドレスやポルカドット柄のドレスもハイネックで、首元とウエストにスモッキングが施されているのが印象的でした。ショーに先駆けて公開されたドキュメンタリーの中で、ナデージュは「今回のコレクションは出かけたい、この服を着たいという気持ちを掻き立てることが重要だった。技巧や動き、センシュアリティーを忘れることなく、心地良さやプロテクションを表現できる素材にこだわった」と話していましたね。

大杉:アクセサリーでは、メゾンを代表するバッグの“バーキン(BIRKIN)”が登場しました。ネイビーのカーフレザーとデニムを合わせた異素材ミックスのデザインが新鮮です。また、スマートフォンを収納できるミニバッグや、口紅を入れて首から下げられるリップスティックケースも売れそうな予感。

独自のデザインコードを再考した「ロク」

藪野:「ロク(ROKH)」は毎シーズン、デザイナーであるロク・ファン(Rok Hwang)自身の思い出が出発点になっていますが、今季はブランドの歩みを振り返ったそう。そして、「ロク」のデザインコードとは何かを再考。トレンチコートやジーンズ、テーラリング、イブニングドレスといったカテゴリーごとに分析するとともに再構築し、折衷的に組み合わせたといいます。

大杉:いつもよりギラギラした雰囲気がありましたね。薄暗いコンクリート打ちっ放しの空間を歩くモデルたちは、黒い総レースのビスチェにデニムスカートを合わせ、レオパード柄のコートの上から太ベルトでウエストマークをするなど、ボディコンスタイルです。派手なデザインでも下品にならず、洗練された雰囲気を保てているのは「ロク」の絶妙な丈感や、装飾のバランスなのだと思いました。2ピースに分かれる変形トレンチコートや、ワンショルダーのテーラードジャケットなど、ギミックを入れたアイテムは“「ロク」らしさ”を確立しています。

藪野:これまでと比べてよりセンシュアルでフェティッシュな雰囲気でしたが、「ロク」らしいを感じるコレクションに仕上げていていましたね。「WWD」NY版には、「スタイルの衝突が新鮮で刺激的だと感じた。人々は社交的なアティチュードを持ったフェミニンなものを求めている」とアフターコロナのファッションについて話していましたが、まさにそれを形にしたコレクションでした。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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