ファッション

果たしてデジタルでもファッション・ウイークは必要か?

 すでに「グッチ(GUCCI)」や「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」「セリーヌ(CELINE)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」「ジャックムス(JACQUEMUS)」といった人気ブランドがファッション・ウイークを離れ、独自のスケジュールでのコレクション発表に切り替えているが、その流れは加速しそうだ。大きな要因は、デジタルでの発表になったことで、決められた時間に出席しなければならないという絶対的な必要性がある程度なくなったこと。来たる2021-22年秋冬ウィメンズ・ファッション・ウイークも大半はデジタルになる予定で、4大都市の公式スケジュールに分断が生じている。

 2月14〜17日に開催されるニューヨーク(NY)コレでは、「ジェイソン ウー(JASON WU)」と「レベッカ ミンコフ(REBECCA MINKOFF)」は少数のゲストを招いたリアルなショーやプレゼンテーションを行うが、それ以外はデジタルでコレクションを披露予定。また、2月19〜23日のロンドンコレは英国ファッション協議会(British Fashion Council)と英国政府との協議の結果、全ブランドが無観客のライブストリーミングもしくは事前収録映像で発表することになった。2月24日〜3月1日に開かれるミラノコレではジャーナリストやバイヤーなど少数の業界人を会場に招くことは可能だが、「プラダ(PRADA)」や「フェンディ(FENDI)」「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」などショースケジュールのほぼ全ブランドがデジタルを選択。最終日の「ヴァレンティノ(VALENTINO)」は、まだ会場にゲストを迎えるか未定だという。そして、3月1〜9日のパリコレに関してはまだ詳細が明らかになっていないものの、他都市と同様の形式になる可能性が高いだろう。

ファッション・ウイークに固執しないブランドが増加

 そんな中、今シーズンはファッション・ウイークに固執しないブランドがさらに増えている。発表の時期や場所に関係なくアメリカを拠点とするデザイナーを包括するために公式カレンダーを「アメリカン・コレクションズ・カレンダー」に改称したNYは、ファッショ・ウイーク期間の前後での発表が目立つ。「コザブロウ(KOZABURO)」や「プラバル グルン(PRABAL GURUNG)」「コーチ1941(COACH 1941)」「オスカー デラ レンタ(OSCAR DE LA RENTA)」などが期間外の発表を決定。「マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)」「ラルフ ローレン(RALPH LAUREN)」「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」「トリー バーチ(TORY BURCH)」などもスケジュールには含まれず、後日の発表を予定する。

 また、「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」は、1月のオートクチュール・ファッション・ウイークでの“アーティザナル”コレクションの発表と3月のパリコレでの男女共通の“コーエド(Co-Ed)”コレクションの発表をそれぞれ延期し、今回に限り公式スケジュールから離れた。さらに、「ヴェルサーチェ(VERSACE)」もミラノコレには参加せず、期間終了後の3月5日にデジタルでメンズ&ウィメンズ・コレクションをお披露目する。これは技術的な理由だというが、ドナテラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)は「デジタルの利点の一つは、自分がふさわしいと思う時に観客とつながれるということ」とも話している。

 デジタルになると、ファッション・ウイークにおける開催都市の意味合いは薄れ、ブランドは時期だけでなく発表形式や場所もより自由に選択することが可能になる。実際、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」はオンラインゲームを通して、「グッチ」は7日間毎日ショートフィルムを公開して、最新コレクションを発表。また、「セリーヌ オム(CELINE HOMME)」は、モナコのサーキットやフランス・ロワール地方の古城を舞台にした壮大なショー映像でコレクションを披露している。

 知名度のあるブランドにとってファッション・ウイークを離れることがマイナスになるわけではないことはデータからも明らかだ。ソーシャルメディア分析プラットフォームのリッスンファーストによると、2020年で最も多くYouTubeの視聴数を記録したランウエイショーのライブ配信は、パリコレが終了してから約2カ月後の12月15日にアップロードされた「サンローラン」21年春夏コレクションのショーだったという。リサ・グラント・ダミコ(Lisa Grant Damico)=リッスンファースト アカウント管理ディレクターは「『サンローラン』はソーシャルメディア上に1600万のファンやフォロワーを抱えており、ファッション・ウィークのような増幅を必要とせずに、新しいコレクションに関してソーシャルメディア上でオーディエンスにリーチすることができる」と分析。「ファッション・ウイークに参加することで最も恩恵を受けているのは、ソーシャルメディアのフォロワーを構築していない小規模なブランドであり、リアルなファッション・ウィークがないために苦労している」と続ける。

 ちなみにデジタルが主軸となった21年春夏パリコレ(20年9月28日〜10月6日開催)でハッシュタグ「#PFW」を用いたツイートは1万8192件となり、全てがリアルで開催された20年春夏パリコレ(19年9月23日〜10月1日開催)から87%減少したという。デジタル・ファッション・ウイークがリアル同様の反響をもたらせるわけではないものの、「ソーシャルメディアの観点では、確立されたブランドが伝統的なファッション・ウイークのスケジュールに固執することのメリットはほとんどない」とグラント・ダミコは結論づけている。

パリ&ミラノコレ主催者の考えは?

 一方、パリコレを主催するフランスオートクチュール・プレタポルテ連合会(Federation de la Haute Couture et de la Mode)のラルフ・トレダノ(Ralph Toledano)会長は、公式カレンダーの必要性を強調。カレンダーに則ることは、ショーがデジタルであろうとリアルであろうと、業界に共通のリズムをもたらすだけでなく、参加ブランドやデザイナーにコミュニケーションと商業化のシナジーをもたらすと説明する。「日程が決められていることで、デザイナーは与えられた時間にコレクションを披露しなければいけない。そうしなければ、クリエイティブチームは常により良いものを目指すのでコレクションは完成しないだろう」。

 また、ミラノコレを主催するイタリア・ファッション協会(Camera Nazionale della Moda Italiana)のカルロ・カパサ(Carlo Capasa)会長は、「ファッション・ウイークは、デジタルであろうとリアルであろうと、私たちのシステムに活力を与える集合的なエネルギーを生み出している」とコメント。「もしも皆がそれぞれの道を歩んでしまったら、すぐに対比や挑戦から生まれる魔法を失ってしまうだろう。若手や新しいブランドは市場へのアクセスがさらに減るリスクがあり、新たなものが脚光を浴びる機会は減り、ファッションへの関心は時間の経過とともに低下していくだろう。その関心とは、ある空間もしくは少なくとも決められた時間枠の中に同居するクリエイティブなエネルギーの結集によって増幅されるものだ」と話す。

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