ファッション

「サンローラン」がパリコレ不参加 CEOとデザイナーが今後の方向性を語る

 「サンローラン(SAINT LAURENT)」が、2021年春夏シーズンのパリ・ファッション・ウイークでランウエイショー形式の発表を行わないことを明らかにした。新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るう中、同ブランドは2020年に予定していた全てのショーをキャンセルし、コレクションスケジュールの見直しも示唆している。

 フランチェスカ・ベレッティーニ(Francesca Bellettini)社長兼最高経営責任者(CEO)とアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)=クリエイティブ・ディレクターが、今後のコレクションや広告キャンペーン、そしてロックダウン下における創造性の保ち方などについて語った。

WWD:今年のファッションショーを中止にした理由は?各国で今後ロックダウンが解除されていくことを想定すれば、全体と足並みをそろえた段階的なアプローチも可能だったと思うが?

ヴァカレロ:ファッション業界の流れに逆らっているのではない。受け身ではなくポジティブでいたいだけだ。もう何年も前から何かを変える必要があることはわかっていた。今がその時だ。全てが変わってしまったこの状況で、数年前に決められたスケジュールに合わせる理由が見当たらない。締め切りがあるからといってコレクションを急いで仕上げるなんてことはしたくない。今季は私の準備が整い次第コレクションを発表したい。

新型コロナウイルスのパンデミックにより、突如として私たちの習慣や行動、他者との関わり方が大きく変わり、穏やかな日常が一変した。

今年のコレクションスケジュールの見直しは、私たちの時間や生活の大切さを再確認したいという気持ちの表れだ。服を着ることよりも生活をすることに重点を置く。ペースダウンして今を生きてみると、組織にとらわれていた弱みの部分が明らかになる。ショーやショールーム、注文といった全体的なシステムのスケジュールは、ファッションそのものには関係ないことだ。

ベレッティーニCEO:今はどうするのが正解なのか誰にもわからない状況だ。今後の創作活動に不安があるという事実も無視されている。創造性を主とする私たちのブランドには、もともと大胆な決断力がある。このような状況で私たちの創造性が独断的な現在のスケジュールに左右されることがあってはならない。コレクションはアンソニーが適切だと感じる時に、それに見合う場所で独自の形式で自由に表現されるべきであって、ほかのことはその後の話だ。

今回の決断にあたって、お互いの意向をしっかり確認することが重要だった。世界各地で今回の危機への対策が行われているが、ただ静観するだけのアプローチでは成功しないだろう。最初からしっかりとしたコミュニケーションを図り、力強く明快な決断や規制を行うべきだ。

WWD:あなたの戦略と新しいスケジュールについて教えてほしい。例えば、メンズとウィメンズは合同なのか別々になるのか。

ヴァカレロ:メンズショーはすでに私たちのスケジュールに組み込まれている。業界のスケジュールとは関係ない。ただショーをするためだけのショーではなく、より個人的なものとして制作した。必要なのはショーではなく感情だ。私はいつもメンズとウィメンズのショーでその感情を作り上げようとしている。

今回のことは、今年起きた非常事態に対応する形で決断した。コレクション発表の戦略を変更しようと思っているわけではない。メンズとウィメンズは別々に発表して、それぞれでコレクションの世界観を伝えるつもりだ。何かを個人的に創造することが、今まで以上に重要だと思う。

ベレッティーニCEO:コレクション発表にまつわる戦略は、ファッションショーだけでなくショールームや店のことにまで及ぶ。今回決定したアプローチ法によって顧客との距離が縮められる。私たちはより長く続く体験や商品を提供したいと考えている。

過去4年ですでにコレクションの店頭販売期間を延長しているし、この戦略を拡大して実生活のニーズを反映するタイミングで目新しいアイテムを導入し、それに合わせたキャンペーンも計画している。

人びとがまた以前のような頻度で旅行するまでにはもうしばらくかかるだろうから、この密接型のアプローチ法でクライアントとの距離を縮め、卸売に対しても同じように働きかけていきたい。

WWD:将来のコレクション発表の頻度はどうなる?これまでと同様にシーズン毎のアプローチになるのか、もしくはシーズンに大きくとらわれない形のデザインやマーケティングを考えているのか?

ヴァカレロ:シーズン毎にデザインを完全に変えることはない。すべてがそれ以前のシーズンとのミックスになっている。常に同一の女性または男性が基礎となっている。ショーを見れば何が前シーズンから来ているのかがよくわかると思う。みんなを退屈させないためにも、常に数多くのデザインを発表するだろう。今まで以上に創造性を発揮するときだ。

私たちのコレクションに対するアプローチは常にシーズンレスだ。それぞれのコレクションにはタイムレスな「サンローラン」のデザインと新たなシルエットを融合しており、以前のコレクションの進化系だとも言える。

WWD:コレクションの形式については?「サンローラン」はケリング(KERING)内でもデジタルショールーム技術を特にうまく使いこなしていると聞いた。デジタルショールームとコレクション発表を融合させるのか、またはライブストリーミング配信を行うのか。現実世界に視覚情報を重複表示させる「拡張現実」型なのか、もしくは画面上でリアリティーのある視覚情報を投影する「仮想現実」型なのか。それとも映画やSNS形式を取るのか。

ベレッティーニCEO:あなたの言うデジタルショールームとは、おそらくストアでの買い物が簡単にできるアプリのことだね。コレクションの発表とそれは関連性がない。コレクション発表のイベントやその形式については、現段階では公表を控えたい。もちろん、伝えたいメッセージがある場合はそうする。

いま明らかにしておきたいのは、パンデミックの影響を考えた結果、今年のコレクション発表は公式スケジュールとは切り離し、時期も形式も独自の方法で行うのが適切だということだ。

WWD:では今回の新たなアプローチでは、VIPゲストやインフルエンサーらはどんな役割を果たすのか?

ヴァカレロ:前と同じだよ。過去4年間でゲストとは確実な関係を築いてきた。友人たちのサポート、そしてお互いが信頼し合うという、ご都合主義の関係とは相反するアプローチだ。私たちのVIPゲストは「サンローラン」のショーのためだけにファッション・ウイークを訪れていたから、こうなるとなおさら理にかなっていると言える。

WWD:ロックダウンで仕事のやり方に影響はあった?また、新しい形のコレクション発表を行う上で、あなたの創作活動のどういった面を進化させたい?近年は映画製作者と仕事をすることもあったが、映画から何か着想を得たりしたか?もしくは、チームとのやり取りがズーム(Zoom)に移行するなど、オンラインを駆使して仕事をすることで、別の意外なものが創作活動の源になったということは?

ヴァカレロ:当初はロックダウンによって多くの疑問が湧いた。議論したいことはあるのに何も存在していないみたいだった。状況は大きく変化しており、まるで何も知らないフリをしながらすぐ先の未来を以前と同じレンズを通して見ているみたいだ。

そうした考えが初めの頃に急速に生まれたことで、次回のショーやその発表方法も含めて多くのアイデアが浮かんできた。そのアイデアの中心には、時間の大切さを再認識し、自分たちの時間を再び自らでコントロールするという考えがあった。

私はこの数週間、好きな映画をじっくり見て、私の人生と共にある音楽を聴く時間を設けている。ロックダウン中の現実逃避のようになっているが、それ以上のこともある。映画や写真、音楽は素晴らしいインスピレーション源になるし、私がコラボレーションするアーティストたちはみんな私が心から称賛する人たちでもあるから。

WWD:近年のパリ・ファッション・ウイークにおいて、「サンローラン」のショーは主要な位置にあった。あなたは市の当局者とも密接に連動してきたが、今回の新たな形式においてパリのファッション業界で「サンローラン」が果たすリーダー的役割は考慮されているのか?もしそうなら、パリのブランドとしてどのように発展、推進していきたい?

ヴァカレロ:「サンローラン」のスピリットや考え方はパリジャンそのものであり、それが変わることはない。それが「サンローラン」とほかのブランドとの違いであり、私たちはパリを一都市としてもファッションの都としても重要視し続けていく。今までそうしてきたし、これからもそうしていくが、それはファッションショーに限ったことではない。自らスケジュールをコントロールすることを表明したのであって、パリを離れるとは言っていない。

ベレッティーニCEO:パリにはベルシャス通りに立派な本社がある。それに、ブランド初のアートプロジェクトでもある「サンローラン リヴ ドロワ(SAINT LAUREN RIVE DROITE)」のブティックや、イヴ・サンローラン美術館(YVES SAINT LAURENT MUSEUM)ではヴァカレロが厳選したベティ・カトルー(Betty Catroux)の展覧会も初めて開催されるなど、ブランドの世界観をパリから海外に向けて強力に発信してきた。

WWD:ベレッティーニCEOはフランスオートクチュール・プレタポルテ連合会(Federation de la Haute Couture et de la Mode以下、サンディカ)の婦人服プレタポルテ組合(Chambre Syndicale de la Mode Feminine)の会長でもある。「サンローラン」がパリ・ファッション・ウイークに不参加となることで、パリの街が持つ世界のファッション業界のリーダー的存在としての魅力に影響が出るかもしれないという懸念はあるか?今回の決定において、連合会との話し合いがあったなら教えてほしい。また、ほかのブランドにとってはどうだろうか?

ベレッティーニCEO:私は自分が婦人服プレタポルテ組合の会長であることを光栄に思っているし、この役割をとても真剣に担っている。しかし、サンディカでの私の役割が、ヴァカレロの決定の妨げになることはない。私はイヴ・サンローランのCEOであり、ほかのブランドに対する影響力はない。ほかの多くのCEOたちも業界の連合会でリーダーを務めているが、私たち全員が自身のブランドでの責務とファッション連合でのそれを切り離して考えている。

「サンローラン」が20年のショーをファッション業界のスケジュールに即して行わないからといって、私の役割やパリ・ファッション・ウイークの重要性に影響が出たりすることはない。とてもシンプルなことだ。パリは、すべてのデザイナーがショーを開催することを熱望している世界一の都市だ。

なにも今後パリ・ファッション・ウイークに参加しないわけではない。しかし今のこの状況では変化が必要だ。連合会の結束は固く、お互いを重んじたオープンな関係を築いている。サンディカ会長のラルフ・トレダノ(Ralph Toledano)とパスカル・モラン(Pascal Morand)とは今回の決定について事前に話し合いをした。彼らは完全に理解を示してくれた。

WWD:ファッション・ウイークの未来をどう考えている?各ブランドがそれぞれ新しい方向に向かうのか、それともファッションビジネスが元通りになるまでの一時停止期間のようなものなのか。

ヴァカレロ:ビジネスが“元通り”にならないことを願うよ。それでは意味がないし、何のためにもならない。物事には変化と発展が必要だ。ほかのブランドがどうするのかについては根拠もなく推測することはできないし、したくもない。

ベレッティーニCEO:今回の異常事態は私たち全員にとって多くのことを再考するきっかけになった。ファション業界で働くすべての人たちの間で興味深い議論が生まれているし、それぞれのファッション・ウイークを動かす組織の間でも同じことが言える。

ビジネスを単純に元の状態に戻すフリをするのはおかしい気がする。しかし、変えてはならないことがひとつある。ファッションの中心には創造性があり、それはインスピレーションと夢の源であるということだ。

WWD:ケリングの財務担当責任者は、全ての傘下ブランドが大幅なコストカットを行うと話していた。予算の削減は今年度のファッションショーを行わないことに関係しているか?ほかのケリング傘下ブランドも追従するだろうか?

ベレッティーニCEO:私たちは今年のファッションショーを行わないとは言っていない。それと、今回の決定とコストカットとに関係はない。

ケリング傘下のブランドはそれぞれが独自に決断を下しているから、ほかのブランドが同様の措置を取るのかどうかはわからない。私たちにとっては正しいことだが、ほかのブランドにとっても同じだとは限らない。

WWD:ケリングの財務担当者によると、秋冬コレクションの納品が最大4週間遅れる可能性もあるという。各ブランドでコレクションの規模が縮小され、ベストセラー製品とキャリーオーバーに注力するだろうという話だった。「サンローラン」はスケジュールの遅延にどう対応するのか?単品管理の項目数をどの程度カットすると想定している?

ベレッティーニCEO:事実として、世界中の店舗がこの数週間営業を自粛している。製造拠点も操業を停止しており、コレクションの在庫にも影響が出ている。実際には、買ったものをすぐ着用するという方向性にシフトしている。特に次のプレ・コレクション制作ではそれを考慮に入れる必要がある。各ブランドがそれぞれベストな方法を取るだろう。

WWD:では、コストカットによって広告宣伝費に影響はあった?今年も宣伝活動は維持していくのか?もしくはデジタルを駆使してより大きな動きを見せるのか?秋冬キャンペーンの撮影はまだ行っていないのか、もしくはそちらでも今回の戦略と共に新たな展開が見られるのか?

ヴァカレロ:秋冬キャンペーンの撮影はすでに行っている。ショーのイメージとはリンクさせていない。いつもはキャンペーンのイメージを事前に公表しているが、今回はコレクションが店頭に並ぶ頃になるかもしれない。

もちろん、今起こっている出来事がキャンペーンのイメージにも影響するだろう。私は現実を見る人間だから、SNSで目にするようなズームを撮った写真を使用することは避けたいね。「サンローラン」としてそれ以上のものを作り上げたい。

ベレッティーニCEO:広告やプロモーションはブランドイメージの維持やポジショニングにとって極めて重要だ。今年の広告キャンペーンは通常通りに行う予定だ。おそらくキャンペーンの開始はコレクションが店舗に並ぶ頃になるだろう。使用するメディアはそれぞれのマーケットの顧客に合わせてベストなものを選びたい。

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