ファッション

ファッション・ウイーク中止で変わるコレクション発表の形 世界的イベントプロデューサーに聞く現状とこれから

 新型コロナウイルスの世界的感染拡大の影響により、6〜7月に開催予定だった2021年春夏メンズと20-21年秋冬オートクチュール・ファッション・ウイークの中止(ミラノメンズは延期)が発表された。今後2カ月以内に外出制限や渡航制限が緩和されたとしてもソーシャル・ディスタンシング(社会的距離の確保)は長期化するであろうヨーロッパの現状を考えると、物理的なイベントでコレクションを発表するのはまず不可能だろう。また、9〜10月に予定されている21年春夏ウィメンズ・ファッション・ウイークに影響を与える可能性も高い。そんな中、ショーやプレゼンテーションを手掛けるイベント会社は、現状にどう立ち向かうのか?「ディオール(DIOR)」「サンローラン(SAINT LAURENT)」「ジャックムス(JACQUEMUS)」など数多くのブランドをクライアントに抱え、年間100近くのショーやイベントを手掛けるビュロー・ベタック(BUREAU BETAK)の創業者、アレクサンドル・ドゥ・べタック(Alexandre de Betak)に電話インタビューを行った。

--この状況下において、ファッション・ウイーク自体をデジタル化する動きが見られる。ビュロー・ベタックはショーやイベントの会場デザインや空間演出など物理的な面を手掛けている印象が強いが、デジタル化の流れにはどのように取り組んでいくか?

アレクサンドル・ドゥ・べタック(以下、ドゥ・べタック):幸い、私たちはイベントの内容充実を図るため、2016年にデジタルコンテンツに特化した別会社ビュロー・フューチャー(BUREAU FUTURE)を立ち上げていた。なので、ここ数年はデジタルの取り組みも増えていて、物理的なイベントで生まれる“生”の感情をデジタルでより上手く伝えることを目指している。

--毎シーズン、メンズ・ファッション・ウイークでは「ベルルッティ(BERLUTI)」や「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」「エルメネジルド ゼニア(ERMENEGILDO ZEGNA)」、オートクチュールでは「ディオール」や「ヴィクター&ロルフ(VIKTOR & ROLF)」などのショーを手掛けている。ファッション・ウイーク自体が中止になった今、クライアントのブランドとはどのように取り組んでいる?

ドゥ・べタック:こんなことになるとは予想だにしなかった。この状況の中で取り組んでいる全クライアントへの提案は、もちろんデジタルで実現可能なことだ。6、7月だけでなく、すでに秋に向けた話し合いを始めているブランドもある。ただし、私たちが重要だと考えているのは、デジタルのアプローチであってもエモーショナルな“生”の体験であるということ。いいショーやイベントは心を動かす。これまで人の記憶に残るような実体験を数多く手掛けてきたが、その知識をデジタルにも生かしていきたい。事前にレコーディングされたものをさほど面白いとは思わないので、生のエクスクルーシブなデジタル体験を考えている。今取り組んでいるプロジェクトの中には100%デジタルもあれば、フィジカルとデジタルのハイブリッドもあるが、私たちが実現したいのはプレゼンテーションにデジタル技術を組み合わせ、デジタルでもリアルタイムに観客と関わり合えるようなものだ。

--2月のパリコレ中には、イベント制作・運営におけるサステナビリティ認証ISO 20121(イベント運営が環境、経済、社会に与える影響を測定して管理する国際規格)を取得したことを発表した。ビュロー・ベタックが定めた基本方針には資材の再利用や廃棄物のリサイクル、ビデオ会議活用による飛行機移動の削減、カーボン・オフセット100%の実現などが含まれていたが、ショーやプレゼンテーションにおけるデジタル活用はサステナブルを推進するための一つの方法と考えるか?

ドゥ・べタック:デジタルは、サステナビリティのための一つのツールだと思う。私たちが発表した行動計画に基づきサステナブルなイベント制作を実現できた時、大きな負荷として残るのは“人々の移動”だ。例えば、もし海外の観客が現地に来ることなくデジタルで限りなく近い体験をできるようになれば、イベントはよりサステナブルになるだろう。

--新型コロナ収束後の世界では、イベントの組み立て方は変わるか?

ドゥ・ベタック:世界の人々の往来が再開して、大規模なショーが行われるようになっても、これまでと同じであるはずはない。さらに言うと、過去と同じことに対する望みやエネルギー、予算もないだろう。ヨーロッパやアメリカ、アジアでイベントが開かれるとしても、以前のように観客全員が世界から集結するとは思えない。今この時は、私たちのマインドを変える。だから、これまで長年視野に入れてきた変化にいよいよ取り組むべき時だ。残念ながら、他に選択肢はない。

--一方、物理的なイベントの重要性についてはどのように考えているか?

ドゥ・ベタック:テクノロジーを生かしたデジタル化が進むのは間違いない。しかし、リアルな世界で実体験すること全てはデジタルよりも確実にもっとエモーショナルであり、そこには大きなアドバンテージがある。だから、人々はすぐにまた物理的な体験を求めるようになると考えている。いうなれば、現在の生活と同じだ。今は皆、スクリーン上でパーティーやディナーを楽しんだり、ミーティングをしたりしているが、ベストを尽くしても物理的な体験ほど心が動くことはない。私たちは、感情を生み出すために五感や感受性に触れるあらゆる要素を使っているが、まったく同じことをスクリーン上で実現するのは格段に難しい。もちろんデジタルでもクリエイティブなことはできるし、最初のうちは興味深く感じる。ただ、そのワクワク感は永遠には続かないだろう。だから、これからは常にフィジカルとデジタルのミックスが欠かせなくなると思う。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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