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パンクを官能的に表現した「ヴァレンティノ」、SF映画のような「フェラガモ」 ミラノコレリポート第3弾

 2021-22年秋冬シーズンのミラノ・ファッション・ウイークが3月1日、閉幕しました。ここでは5日目から最終日までに発表された中から厳選した4ブランドをご紹介。長年ウィメンズコレクションを取材する向千鶴「WWDジャパン」編集長と、大杉真心「WWDジャパン」記者が対談形式でリポートします。

90年代のSF映画から着想を得た「サルヴァトーレ フェラガモ」

大杉真心「WWDジャパン」記者(以下、大杉):「サルヴァトーレ フェラガモ(SALVATORE FERRAGAMO)」の映像はSF映画のような作り込みに驚きました!「スター・ウォーズ」のオープニングクロールのように映像が始まり、未来都市をイメージした空間をモデルが歩きます。前シーズンは映画監督のルカ・グァダニーノ(Luca Guadagnino)との協業でしたが、引き続きブランドと映画の結びつきを表現しているようです。

向千鶴「WWDジャパン」編集長(以下、向):今季は未来を描いた90年代の映画「ガタカ」「夢の果てまでも」「マトリックス」から着想を得たそう。そもそもなぜ未来かというと、「歴史や伝統ではなく未来のかけらから現代を見据えたかったから」。歴史あるブランドのかじ取りを任されているクリエイティブ・ディレクターのポール・アンドリュー(Paul Andrew)の強い意志がにじむ言葉です。

大杉:近未来的なデザインや色使いから、ポジティブなエネルギーを感じました。コバルトブルーやグリーン、メタリック、ホワイトなどが差し色になっていましたね。「サルヴァトーレ フェラガモ」はシューズを主力とするブランドですが、いわるゆパンプスはほぼ登場せず、今季はフラットシューズが豊富でした。特にスポーティーなバイカーブーツ、ネオプレンを使った“スキューバソックススニーカー”が目新しい。バッグはワントーンで、アイコンの“ガンチーニ”のマークを入れているのがポイント。ミニバッグやフォーンケース、バックパックもモダンで機能的なデザインです。

向:ミリタリーやバイクといったユニフォーム的なアイテムが多数登場しますが、これもインスピレーションとつながっていて、ポールいわく「一般的な現代のユニフォームは化石化した遺跡みたい。もっと開放されて多様性とポジティブマインドを融合したものであっていいはず」だから。素材にはサステナビリティに配慮したものをかなり多く使用しているようですね。

「ヴァレンティノ」の官能的なパンク

向:「ヴァレンティノ(VALENTINO)」はこれまでもずっと素晴らしかったけれど今回もまた本当に素晴らしかった。白と黒を基調としたミニ丈の服は、パンキッシュで洗練されていて、手仕事を生かしたクチュール的で若々しく。困難極まる今のミラノで何としても諦めないのだ、というピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)からのメッセージがビシバシと伝わってきました。コジマ(COSIMA)のライブの歌声がエモーショナルなこともあり、ちょっと泣きそうでしたよ。

大杉:私も感動しました。会場はミラノの歴史的な劇場であるピッコロ・テアトロ・ディ・ミラーノ。コロナ禍で閉鎖されている劇場であえて、ショーを開くことが「ヴァレンティノ」の“パンク精神”の表現なのだそう。アート文化の豊かなイタリアで、アーティストやパフォーマーたちの芸術活動が制限されている影響は大きいですよね。

向:アイテムはカジュアルに見えても細部は実に手が込んでいます。シンプルなメッシュのタートルネックのように見えるものが、実はチュールの上に生地を撚り合わせて菱形にしたものであるとかね。そういう細部が力強さにつながっています。

大杉:ファーストルックからミニ丈のスモーキングのような印象でとても官能的でした。ウィメンズはマイクロミニ、メンズは足首が出る丈にパンツがカットされていました。メッシュトップスやスリット入りのニットをレイヤードするスタイリングも「ヴァレンティノ」流のエレガントなパンクの表現でした。

向:インスタのティザーが面白かったね。ミラノの街角のケーキ屋さんがブランドのロゴを配した大きなケーキをウィンドウに飾っていたり、真っ赤な花だけを売るスタンドの花屋さんが登場したり。ローマのオートクチュールの美意識がイタリアの日常生活に馴染んでいる様が見て取れました。

「MSGM」は劇場で撮影した逆再生動画

大杉:「MSGM」は逆再生動画でした!モデルたちが劇場の中を後ろ向きに歩いていきます。ボックスシートで着替え、ダンスをする姿も違和感があって面白かったです。この逆再生は、話題の映画「テネット(TENET)」の影響なのか、今季のコレクション動画でよく見る仕掛けです。コロナ禍を“巻き戻し”して、未来を再構築しようというような意味が込められていると受け取っています。「MSGM」の映像は若手映画監督のフランチェスコ・コッポラ(Francesco Coppola)が手掛け、ミラノ在住のダンサー、パフォーマー、俳優、モデルたち15人を起用していました。曲もミラノのクリエイターとともにオリジナルで制作したそうです。

向:マッシモは以前からミラノの街と人を大切にしていて、今回も“ミラノの街へのマニフェスト”という意味合いがあったそう。皆でミラノに光を取り戻すんだ、という公約ですね。制作の打ち合わせはマッシモを中心にイタリアの再始動を思う人たちがアツく盛り上がったんだろうな。

大杉:コレクションはシャープなシルエットと“ノクターナル(夜行性)”がキーワードでした。パテントやベロアのミニドレス、ファーコートはパーティー感がありますね。デザイナーのマッシモ・ジョルジェッティ(Massimo Giorgetti)は制限がかかっているミラノのクラブカルチャーに焦点を当てて、あえて夜遊び用の服を提案したかったのでしょう。「MSGM」も環境に配慮した素材を取り入れていました。

イタリア版“ロボットレストラン”のような 「ドルチェ&ガッバーナ」

向:ロ、ロボットがいたね。

大杉:はい(笑)。センターで手を振ってモデルたちを見送っていましたね。今季はロボット工学を研究するイタリア技術研究所(IIT)の協力を得て、ロボットたちがランウエイデビューを果たしました。最初に登場したのが“iCub”というロボットで、ラストに“DOLCE&GABBANA”の文字を流しながら出てきたのが“R1”というロボットだそう。

向:服作りにAIやロボットを活用したわけではないけど、一ゲストやモデルとしてロボットを迎えるある種のミーハー感、軽やかさが私はいいと思う。せっかくならロボットが見たショーの景色を配信するとか、見た内容を解析して言語にするとか事後でも連携したらおもしろそうだけどね。ロボットはさておき、90年代をテーマにしたルックはかわいかったね。

大杉:ポップでとても若々しかったですね。今季テーマは「ネクストチャプター(NEXT CHAPTER)」で、次世代に向けたファッションを未来のテクノロジーとクラフツマンシップで表現したそうです。「サルヴァトーレ フェラガモ」とはまた違った近未来感。フィナーレは東京・新宿のロボットレストランのような賑やかさがありました(笑)。ピンクやイエローのレオパードのダウンジャケット、ホットパンツなどド派手さが最高潮で見ていて気持ちよかったです。ビジューやパールを施したド派手な素材もゴージャスでしたね。

向:レインボーカラーのヘアスタイルが似合うメタリックカラーやシースルー、ジャラジャラのアクセサリー使い、肩バッド入りのボディコンシャスなどまさに90年代のエネルギーが満載で、同時に現代のK-POPスターもほうふつとさせる。堂々とした肌の露出が今っぽかったです。今日も渋谷で大胆に素足を見せた女の子集団とすれ違い、K-POPスターやニジュー(NiziU)みたいだなと思ったところ。

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