ファッション

「ジル サンダー」のデザイナー夫婦が語るデジタルとリアルそれぞれの良さ

 「ジル サンダー(JIL SANDER)」は9月中旬に開かれた2021年春夏ミラノ・ファッション・ウイークには参加せず、10月8日に映像を通してウィメンズ・コレクションを発表した。映像は、暗闇にスポットライトで作られたランウエイを歩くモデルの姿をさまざまなアングルから捉えたもの。スローモーションやディテールのアップも取り入れ、同ブランドに欠かせない素材の質感やシルエットの美しさの表現を試みた。ルーシー・メイヤー(Lucie Meier)とルーク・メイヤー(Luke Meier)=クリエイティブ・ディレクターは、なぜこの手法を選んだのか?ミラノにいる2人に今シーズンのクリエイションの背景やこれからのファッション業界に対する考えを聞いた。 

WWD:リアルなショーではなく、モデルが歩く姿を多角的に捉えた映像という方法を選んだ理由は?

ルーシー・メイヤー(以下、ルーシー):今はゲストを招いたリアルなショーを開くのにふさわしいときではないと考えていたので、服の動きやショーの雰囲気を体験できるような映像を作ることにしました。暗闇の中に光が差す演出やチェリストのケルシー・ルー(Kelsey Lu)による音楽を交えて、親密なムードを生み出したかったんです。

ルーク・メイヤー(以下、ルーク):ショーで最も重要なのは、各アイテムの持つエモーションを感じてもらうこと。ただ、今はたとえリアルなショーを開いたとしても皆が会場に来られるわけではありません。コレクションを直に見てもらえなくてもエモーションを伝えられるような映像を作るプロセスは興味深く、楽しいものでした。

WWD:ルック写真も一般的なランウエイ写真とは異なり、動きや雰囲気を重視したものでした。これもエモーションを伝えるということを意図したものですか?

ルーク:実際のショーではないのにランウエイ写真のように撮るのは違うと感じたので、映像の世界観とマッチするものが良いと思いました。

ルーシー:そうですね。映像と写真が呼応するものになっています。

WWD:新型コロナウイルスのパンデミック収束後にはショーを再開させたい?

ルーク:私たちはショーが大好きですし、その制作過程をとても楽しんでいます。これからのショー開催には大きな責任が伴いますが、ふさわしいときが来たら、また開きたいと考えています。それと同時に、実際にショーに来られない人も体験できるような映像などのメディアにも取り組んでいくことも大切だと考えています。もちろん全ての人を会場に招待したいけれど、物理的にそれはできないですから。

WWD:より多くの人に届けられるというのはデジタルの優位性の一つです。それ以外にデジタルとリアルそれぞれの良さをどのように考えていますか?

ルーク:デジタルは、自分の好きなタイミングで発表できるという点や、世界中の人々に渡航を強いる必要がないという点でも興味深いですね。そしてより多くのことをコントロールできるので、完璧に作り上げることができます。その一方で、リアルなショーのような “魔法がかった瞬間”は生まれません。ショーではスタイリングやキャスティングから照明、音楽まで全てがうまくいくように最善を尽くしますが、いつだって予想外の変更が生じます。それが現実世界での体験に“魔法”をかけるのです。これはデジタルではどうしても再現できないことであり、リアルショーならではの魅力。なので、将来的には両方を合わせることがベストだと考えています。

WWD:常に素材への強いこだわりを感じますが、21年春夏コレクションでこだわった点は?

ルーシー:今シーズンはデイウエアを意識して、いつもよりも柔らかく軽やかな素材を使いました。そしてデザイン自体も構築的ではなく、より体に寄り添いつつも締め付けないもの。例えば、オーガンジーのテーラーリングのようなアイテムです。そして、レイヤードによって異なる色の強さを表現しています。バッグもいつもは立体的なものが多いですが、今シーズンはソフトで体やシルエットの一部になるような触り心地の良いものを提案しています。

WWD:今は皆、ファッションにも“優しさ”や“心地よさ”を求めています。今季の提案はそういったことを考慮したからでしょうか?

ルーク:私たちは無意識のうちに自分たちのいる環境からの影響を受けているので、そういった部分もあるかもしれません。このような深刻な状況下で、より柔らかく軽やかで心地よいものに囲まれたいというのは自然ですよね。それがパンデミックから直接的な影響だったかは分からないけれど、潜在的な反応とは言えるでしょう。今の時代にふさわしいものが何かを感じ取るのも、私たちの仕事ですから。

WWD:ロックダウンは、クリエイションにどのような影響をもたらしましたか?

ルーク:全ての必要なものにアクセスできる恵まれた環境だったのでロックダウン自体は問題ありませんでしたが、自分たちの仕事やどのように地球に貢献できるかなどを考え、ファッション業界が大きく変わらないといけないという思いは強まりました。私たちのアイデアは、長く着られるようにクオリティーを極め、シーズンごとに新しいものを買わなくていいように使い捨てられないアイテムを作るということ。これは就任当初から取り組んでいることですが、その方向性が間違っていないということを確信しました。

WWD:長く着られるものを提案するというのは、持続可能なファッションの一つの形だと思います。他にブランドとして、取り組んでいることは?

ルーク:私たちが用いている全ての素材は、サステナビリティの基準を達成したサプライヤーから仕入れていて、選択肢があるときはよりサステナブルなものを選ぶようにしています。原料の栽培や素材の再利用から染色まで基準にはさまざまな項目があり、100%を達成するのは難しいですが、できる限り高めていくために挑戦を続けているところです。これは、もはや選択肢ではなく、皆が取り組むべきこと。私たちのアプローチが業界の変化に貢献できればうれしいですね。

JUN YABUNO:1986年大阪生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションを卒業後、「WWDジャパン」の編集記者として、ヨーロッパのファッション・ウィークの取材をはじめ、デザイナーズブランドやバッグ、インポーター、新人発掘などの分野を担当。2017年9月ベルリンに拠点を移し、フリーランスでファッションとライフスタイル関連の記事執筆や翻訳を手掛ける。「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーも務める。20年2月からWWDジャパン欧州通信員

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