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「エッセンシャルシフト」を急げ 小島健輔リポート

 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。先行きの見えないコロナ禍において、変革を怠れば多大なリスクになりかねない。小売業は新常態にどのように備えればよいのか。

 コロナ禍の出口が見えなくって緊急事態宣言が再発令され、よみがえりかけていた商業活動にも急ブレーキがかかり、東京オリンピックの開催も絶望的になる中、もはや「新常態」の深刻化と長期化を覚悟せざるを得ない。そんな現実の中でアパレル業や小売業に求められているのが「エッセンシャルシフト(生活必需品への入れ替え)」だ。

「底割れ」長期化で見切り退店ラッシュ

 コロナ禍が深刻化する中、2020年12月の全国百貨店売り上げは前年同月比13.7%減と15カ月連続して減少し、外国人観光客が途絶えた免税売り上げは88.6%も減少した。20年通年では百貨店売り上げは25.7%、衣料品売り上げは31.1%、中でも婦人服売り上げは32.2%、化粧品売上は39.1%、免税売り上げは80.2%も激減した。1月の初売りは前年の半分にも届かず、緊急事態宣言が再発令された7日以降は一段と客足が遠のいているから、コロナ禍が長引けば都心百貨店さえ存続が危うくなる。

 それは都心の商業施設とて同様で、緊急事態宣言の再発令で見切りをつけたテナントの大量退店が始まっている。ギンザ シックスでは臨時休業中の3テナント(飲食)に加え、昨年12月27日から今年1月20日にかけてコスメブランドやアパレルショップ、カフェやレストランなど22店が閉店した。1月26日には40店の後継テナントが公表されるというが、膨大な損失覚悟で次々と退店するテナントの跡を埋めきれるのだろうか。インバウンド狙いに偏っていた銀座の商業施設はどこも似たような状況で、東急プラザ銀座でも12月から1月にかけてアパレルや装身具、コスメから名産品や茶房まで少なからぬテナントが閉店している。

 閉店ラッシュは銀座に限らず、六本木ヒルズではけやき坂の路面店に空き区画が目立ち、東京ミッドタウン(六本木)でも12月から1月にかけてアパレル店や服飾店の閉店が続き、表参道ヒルズでも空き区画が目立ち始めている。館側は入れ替え予定と説明するが、2月から3月にかけて退店はさらに増えると見る関係者が多い。

高家賃インフレ経営の終焉

 これら都心の商業施設は(1)インバウンドやラグジュアリーへの偏り、(2)テナント採算度外視の高家賃経営、が以前より指摘されており、コロナ禍の長期化でとうとう行き詰まってきた。

 インバウンドやラグジュアリーを狙って非日常の高額商品や外国人観光客好みの華美な商品に偏っていたことに加え、ブランド化粧品を拡大していたこともコロナ禍のマスク日常化とスキンケア接客の回避に直撃された。加えてギンザ シックスでは水商売関係者好みのブランドが少なくなかったことも指摘したい。

 15年以降、インバウンドが盛り上がる中で都心では商業施設に限らず路面店の家賃も高騰が続き、「旗艦店やイメージストアなのだから家賃は売り上げの半分までに収まればよい」という無茶な論理が横行していた。実際、銀座や表参道の路面旗艦店、メディアハウス路線(館全体をメディアと見て付加価値を増幅する)を採る高級商業施設のテナント店では半分を超えていた店もあった。

 家賃負担率が3割、4割という店舗は珍しくなかったから、コロナ禍の売り上げ急減で売り上げより家賃の方が高くなる店もあり、テナント店では館の売上預かり金では家賃が賄えなくなり、資金繰りに窮するテナントも出てきた。それでもコロナが収束して東京オリンピックが開催されるまで何とか持ち堪えようと出血に耐えてきたが、コロナ感染の再拡大で緊急事態宣言が再発令され、東京オリンピックの開催も絶望的になるに及び、見切りをつけた閉店が堰を切ったように広がり始めたのではないか。

 それは東京に限らずインバウンドに潤ってきた大阪や京都なども同様で、意思決定の遅れていた店も加わって雪崩打つように退店が広がると危惧される。館もテナントも、東京オリンピックという幻影に踊ったインバウンド頼みのインフレ経営は終焉したのだ。

商業施設もオフィスビルも流動化する

 大量閉店は都心の商業施設だけではない。郊外でも商圏を広げるべく過剰なアップスケール化を追った大型施設ほど、緊急事態宣言の再発令以降、大量閉店が広がっている。

 本来、足元商圏ニーズにきめ細かく対応するのが郊外立地商業施設のあり方だが、アベノミクスの無理押しインフレ政策下で広域商圏獲得を狙って背伸びしたテナントを増やした大型施設は足元ニーズと乖離し、コロナ禍の長期化による「エッセンシャルシフト」の直撃を受けていた。それでも家賃の減免などで現状を維持してきたが、長引くコロナ禍と緊急事態宣言再発令で見切りをつけたテナントの退店ラッシュに直面し、テナント構成の「エッセンシャルシフト」を迫られている。

 それは都心の商業施設とて同様だが、テナント構成の「エッセンシャルシフト」が進めば無理に乗せていた付加価値がはげ落ち、家賃収入は激減してしまう。投資利回りも急落するから、物件が流動化する。それはリモートワークで空室率が急上昇するオフィスビルとて同様だから、不動産の流動化が急進することになる。

「エッセンシャルシフト」が不可避

 百貨店も20年は衣料品の売り上げ急落(シェアも27.0%に低下)でエッセンシャルカテゴリーたる食品が31.3%を占める最大売り上げ部門となったが、家庭用品も4.0%から4.2%とわずかながらシェアを伸ばした。衣料品も下着やナイティ、ホームウエア、アパレルも機能性カジュアルやライフスタイルウエアなどエッセンシャルアイテムにシフトせざるを得ない。その分、無理に乗せていた付加価値がはげ落ちるから、価格も流通コストも切り下げざるを得なくなる。高コストな販路や組織は切り捨て、低コストの販路と組織に乗り換える「エッセンシャルシフト」が急進して行く。

 「夢を売るビジネス」の頂点に君臨するのは芸能界だが、それさえ、ついにタレントの人員整理や本社の売却、事務所の都落ちに追い込まれ、あの電通さえ巨額赤字で本社売却に追い込まれ、CM激減に苦しむ民放も国民的批判にさらされるNHKもリストラを迫られている。零落したタレントやアーチストの窮状が伝えられる中、アパレル業界も「夢を売るビジネス」にしがみついてはいられない。

 最低限の食住衣が足りて、ようやくお洒落の出番があるのが現実で、ここまでコロナ禍が長引いて出口が見えなくなり、若年勤労者とりわけ非正規の女性勤労者が追い詰められ、生活に窮する人々が半端なく広がるに及んでは、過酷な現実を受け入れるしかない。「エッセンシャルシフト」はアパレルや小売業、飲食・サービス業、果ては商業不動産業まで、広範な業界に求められる今年最大の経営テーマとなるだろう。

小島健輔(こじま・けんすけ):慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、小島ファッションマーケティングを設立。マーケティング&マーチャンダイジングからサプライチェーン&ロジスティクスまで店舗とネットを一体にC&Cやウェブルーミングストアを提唱。著書に店舗販売とECの明日を検証した「店は生き残れるか」(商業界)、12月11日に出版した「アパレルの終焉と再生」(朝日新書)

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