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2021年は原点回帰の再生と新創業 小島健輔リポート

 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。年明け後もコロナの感染拡大が収まらず、引き続きファッション企業は厳しい舵取りを余儀なくされる。克服するための諸条件を提案する。

 2020年は過剰供給とロスとコストの転嫁で多産多死のギャンブルビジネスと化したアパレル業界がコロナで強制終了を迫られた“清算”の年となったが、明けた2021年は焦土からの再生と新常態下の創業が競われることになる。アパレルの再生と新創業のキーポイントはどうあるべきだろうか。

まずは“清算”と“リセット”で原点回帰

 ロスとコストを積み上げた価格を無理押して過剰供給する業界論理が多産多死で行き詰まった以上、適時適量供給と適正価格で「大切に創って大切に売る」原点に回帰しないことには何も始まらない。「より多く売らねば」というプレッシャーでいびつに変形しロスとコストが膨れ上がった事業構造と業務プロセスを一度リセットし、顧客・自社・取引先の“三方よし”が成立する、新常態下で継続可能な事業構造を再構築するしかない。その要点は以下の7項目ではないか。

(1)コストを押し上げていた不採算の店舗や事業を“清算”して低コストの販路と事業に集約する。
(2)コストを押し上げていた業務手順や組織を見直して業務を再構築し不要な組織をリストラする。
(3)売り上げより消化歩留まりと在庫回転を優先して販売と仕込みの予算を平準化し、売り上げと在庫の月度偏差(山谷)を均してロスと運営コスト、賃料負担(最低保障家賃)を圧縮する
(4)企画・発注のサイクルとプロセスを現実の在庫回転と乖離しないよう再構築してロスの元を断ち、主軸サプライヤーとオンデマンドなVMIを組む
(5)初期配分・補給・再編集・店間移動・売価変更のプロセスと手法を再構築し、POS依存の値引き販売を脱却して最適供給・消化を図る
(6)店舗のレイアウトと商品配置、接客導線と品出し導線、陳列・補充・編集・在庫管理業務の手順を見直して運営人時量を圧縮する
(7)店舗とEC、サプライヤーをデジタルに繋いで業務プロセスを直結し、時間とコストとロスを圧縮する

 これらを実行して確実に成果を上げるには、(a)生産段階からのICタグ/インレイ※1導入、(b)店舗とECのリアルタイム在庫連携、(c)サプライヤーとのリアルタイム在庫連携と企画・生産のデジタル連携、(d)品番からSKU、SKUから絶対個品へ管理・運用単位の精密化、(e)店舗作業の分単位棚卸しと再構築、マニュアル化――以上の5点が欠かせない。

 アパレル業界、とりわけアパレルメーカーは商品開発に偏って店舗運営と在庫運用を軽視する風潮が根強く、組織として業務の詳細をつかんで改善しマニュアル化する習慣を欠き、店長や販売員の属人的な能力として入れ替えたり切り捨てたりして済ませてきた。そんな間接的運営・運用では効率化できず、新常態下のシリアスな環境では生き残れない。根底から発想を切り替え「大切に売る」べく、現場と顧客を起点に業務を再構築するべきだ。

夢を見る前に現実を見よ

 上記の7点は、売り上げの拡大という免罪符が許容してきた仕込みと在庫、販路と組織の無理と無駄をすべからく“清算”し、売り上げの水位が大きく下がった状況が続いても企業が存続できるよう身を縮めるリストラ策だ。結果として売り上げが伸びるかもしれないが、まずは逆風下でも収益を確保し、企業の存続を図らねばならない。そんなデフレ経営で地道に歩んできた西松屋チェーンやしまむらが本領を発揮している現実を直視するべきだろう。西松屋チェーンの売上対比販管費率は33.5%、人件費率は8.4%、賃借料率は10.9%、しまむらの売上対比販管費率は28.3%、人件費率は11.0%、賃借料率は6.5%と抑制されている(どちらも20年2月期)。

 少子高齢化で衰退する日本を無理押し活気づけようとしてきたインフレ政策がコロナ禍で決定的に行き詰まった以上、拡大の夢を追い続けては経営が破綻してしまう。最悪に最悪が重なる事態を覚悟し、まずは身を縮めるべきだ。陽はまた昇るが、破綻してはその日を待つこともできなくなる。

 “新常態”とは人口と経済、生計と消費の萎縮というシュリンク社会であり、成長より存続を優先せざるを得ない。少子高齢化による社会負担増(増税と社会保険料増)で国民の生計が疲弊し、無理押しするインフレ政策が労働価値を下落させ資本の増殖と生計の窮乏という二極化をあおり、日本社会の相互扶助余力を枯渇させ、コロナ禍で若者とりわけ非正規雇用の女性が追い詰められる中、ファッションビジネスが夢を追い夢を売れる状況ではない。

 消費が萎縮する中で資本が増殖すれば、企業は生き残るべく労働で稼ぐより資本で稼ぐようになる。店舗販売からECへの急速な移行、百貨店の自前商売から定借賃貸への不動産業化は必然だったが、どちらも労働生産性が10倍になるから9割の従業者を振り落とすことになる。労働集約型事業から資本集約型事業への転換が様々な分野で進めば、資本がさらに増殖する一方で勤労者の生計は窮乏し、一握りの資本家とその取り巻きが豪勢な消費を謳歌する一方で勤労者の消費はますます萎縮していく。

 そんな現実を否定できない以上、売り上げの拡大を免罪符に許容してきた仕込みと在庫の無理と無駄、ロスとコストを徹底して潰し、これまでとは次元を画したお値打ち価格で顧客に応え、企業と雇用の存続を守ると決意するしかない。サステナビリティとはきれいごとではなくギリギリの決意なのだ。

新創業の4条件

 リストラを徹底できずロスとコストと組織の自重に押し潰されて破綻する企業が続出する一方、しがらみのない新たな事業者が焦土から台頭するに違いない。そんな創業ベンチャーが順調に離陸し成長していくにはいくつも条件があるが、必須は以下の4点と思われる。

(1)商品に機能と価格の革新性がある
イメージやデザインだけでなく、市場を開く新たな役割(機能)、競争力ある価格が問われる。カッコよければ使い勝手や価格に魅力がなくてもイケると思い込むのは無理があるし、デザイナーのクリエイションやインフルエンサーのキャラクターで引っ張る売り上げ規模には限界がある。

(2)在庫負担をミニマムに抑えるサプライの革新性がある
C2M※2なりVMI※3なり短サイクル調達なり、在庫負担をミニマムに抑えるオンデマンド・サプライの仕組みが必要で、生産段階とのデジタル連携、サプライヤーとの在庫連携が問われる。水平分業で繋がりを分断したら負けで、チームワークが成長力を決めると言ってもよいだろう。

(3)固定費と流通コストを抑えて損益分岐点が低い
固定費も流通コストも低く抑えれば、売上の拡大による収益改善が加速度的になる。クラウドファンディングとSNSから自社ECを拡大し、ドロップシッピング※4で複数ECモール出品に引き当てるなど、流通コストと在庫効率の両立を図れば黒字化も早い。

(4)市場規模の限界を見切って採算売上規模を低く抑える
過大投資で損益分岐点を上げてはファイナンス依存の罠に落ちるし、販路を広げる毎に固定投資を要しては黒字化が遠くなる。カテゴリーにもよるがC2MやD2C※5は市場規模にガラスの天井があり、採算ラインを上げてしまうと収益化が遠のき投資回収が困難になる。ブームに乗って林立した米国D2Cベンチャーのファイナンス依存と挫折に学ぶべきだろう。

※1インレイ…ICチップとアンテナというICタグの中身で、生産段階で製品にインレイを封入する方式もある
※2.C2M(Customer to Manufactory)…ネットやショールームで受注してからデジタル生産や3Dプリンタで素早く生産して“個客”に届けるパーソナル対応の無在庫販売手法
※3.VMI(Vendor Managed Inventory)…あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給(補充生産も含む)を委任する取引形態
※4.ドロップ・シッピング…在庫を抱えず(預からず)受注してベンダー(出品者)が顧客に直送するEC事業形態。
※5.D2C(Direct to Consumer)…ブランドメーカーが店舗やネットの小売業者を通さず、自社のサイトやショールーム、ポップアップストアで直販する販売形態

小島健輔(こじま・けんすけ):慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、小島ファッションマーケティングを設立。マーケティング&マーチャンダイジングからサプライチェーン&ロジスティクスまで店舗とネットを一体にC&Cやウェブルーミングストアを提唱。著書に店舗販売とECの明日を検証した「店は生き残れるか」(商業界)、12月11日に出版した「アパレルの終焉と再生」(朝日新書)

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1月18日号は「バーチャル空間」特集です。世界最大級のストリートの祭典「コンプレックスコン」のデジタル版「コンプレックスランド」と世界最大級のバーチャルイベント「バーチャルマーケット5」を徹底取材。出展者や参加者が “体験”したことで分かった可能性や課題をまとめました。大型連載、サステナブル特集はステップ5として「認証」がテーマ。国際的な認証機関のお墨付きを得ることの重要性を説きます。ミニ特集では…

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