ファッション
連載 コレクション日記

「ディオール」や「エルメス」、「ロエベ」のビッグメゾンが登場 編集長&若手記者2人のパリメンズ10選

大澤錬「WWDJAPAN.com」記者(以下、大澤):今回はパリメンズ4、5日目の厳選10ブランドを振り返ります。前シーズンのドタバタ対談に続き、デジタル・ファッション・ウイークでの要さんとの対談は3回目になります。あっという間に半年が経ち、今シーズンもラストスパートに突入してきました。本日はよろしくお願いします。

村上要「WWDJAPAN.com」編集長(以下、村上):よろしくお願いします。今シーズンは“リアタイ縛り”が無くなっただけで、40過ぎのオジさんとしては心軽やかです(笑)。

大人な「サルバム」に様変わり

大澤:最初は「サルバム(SULVAM)」からいってみましょう。今回はモデルがウォーキングし、コレクションの全てをきちんと見せようとする意気込みが伝わるムービーでした。カメラロールもさまざまだった前回とは異なり、シンプルで見やすい印象です。びっくりしたのは、冒頭からほとんどが全身黒のスタイリング。以前よりも素材やシルエット、ディテールで勝負を挑んでいるのが伺えました。

村上:黒と白、それに赤(ちょ~っとだけネイビー)という潔いカラーパレットでしたね。今シーズンはパターンワークに注目です。洋服を構成する「身ごろ」をそのままジャケットに貼り付けたり、球体のように独創的なパターンをトリミングで際立たせたり。粗っぽいカンジは随分薄れ、本質で勝負し始めた印象を受けます。シフトチェンジすると「既存のファンは?」という心配が芽生えますが、今の「サルバム」には杞憂な気がする。潔さが前面に現れた分、既存のファンが欲する「強さ」は顕著になっている印象です。

日本代表ベテラン組「メゾン ミハラヤスヒロ」

村上:お次は「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」。ものすごい早さで三原康裕さんの思いが字幕になって流れていたみたいだけど、全く読めなかったね(笑)。映像の切り替えやエフェクトも強めで全貌をしっかり理解するのは難しいけれど、今季も自由なコトはとってもよく分かった(笑)。MA-1、背中に袖は何本あったんだろう?そんなカンジ。テーマの「ベーシック・アンチノミー!」は、「二律背反なベーシック」。多分、「ベーシックなのに、ベーシックじゃない」って意味だと思うけれど、ネルシャツからパーカ、ブルゾンに至るまで、「ミハラ」流のハイブリッドが凄まじいから、もはや全然フツーの範疇に収まっていない(笑)。デザインはフツーじゃないのに、アイテム名で語ると「ネルシャツ」とか「パーカ」だからベーシックなのかもしれない。なんて考えると、「ん!?ベーシックって、なんだっけ?」。そんな風に考えちゃいますね。少なくとも、「ユニクロ(UNIQLO)」のベーシックとは全然違う。それでも「ユニクロ」も「ミハラ」も、同じ「ベーシック」という言葉で語れないワケじゃない。ムムム~って考えて3分後、「ま、いっか。ビール飲も」ってカンジになりました。知的好奇心が喚起されて楽しかった。

大澤:字幕は早すぎて僕も全然わかりませんでした。洋服メインというよりかムービーを使って、どんな面白いことを伝えるかに特化していましたね。カメラマン役で三原さんもこっそり出演していて、蜷川実花さんになりきっているそうです(笑)。アイテムは同ブランドらしい生地を切り貼りしたウエアのほか、クリーニング後のタグが付いたままのジャケット、ビリヤードの玉をヒールにしたパンプスなど面白い。100足ほどのスニーカーを一面に並べた映像は圧巻でした。靴の並べ方に三原さんのこだわりが炸裂したため、撮影が深夜まで及んだそうです。「視聴者を楽しませよう」という心意気が素晴らしく、僕自身も楽しませていただきました!

歴史に名を刻む、キム・ジョーンズ登場!

大澤:次の「ディオール(DIOR)」は、アーティストのピーター・ドイグ(Peter Doig)とのコラボレーションを発表しましたね。ドイグは今回のコレクションのために 2 つの動物をモチーフとしたエンブレムを特別に制作。クリスチャン・ディオール(Christian Dior)の愛犬のボビー、もうひとつはドイグの絵画のキャラクターと1949 年にピエール・カルダン(Pierre Cardin)がデザインした仮面舞踏会用コスチュームを彷彿とさせるライオン。フランス芸術アカデミーのコスチュームに着想を得た刺しゅうや装飾があしらわれたユニフォームは、「ディオール」のアーカイブの再解釈。くるみボタンはアイコニックな“「バー」ジャケット”から、金糸の刺しゅうは60年代のイブニングガウン“ロゼラ”から取り入れています。BGMはテクノポップの先駆者として知られるクラフトワーク(kraftwerk)やアン・クラーク(Anne Clark)の楽曲で構成。ジェンダーレスという言葉が世界に浸透しつつある今、ウィメンズのトレンドのロングブーツが男性の世界にもやってきました。「ディオール」ではクラシックな装いに、抜け感のある長靴のようなロングブーツを合わせていました。今シーズンのトレンドになりそうです。

村上:中世の貴族を思わせるスタイル、パープルやワインなどの高貴な色使い、ゴールドの装飾、そして映像でもわかる上質な生地使いと仕立ての良さ。なのに若々しい疾走感が漂う。今季もキム・ジョーンズ(Kim Jones)の「ディオール」らしさ、全開です。中盤、レモンイエローが出てくるパートに差し掛かると、ジャージーまで現れるんだけど、ちゃんと装飾付きのノーカラーコートとコーディネートして「優雅」っていうイメージに着地するんだから流石です。今シーズンは上からブルゾンやコートを羽織って、前立てだけがチラリと覗くノーカラーのジャケットやコートがキーアイテムの1つですね。そのほかはモコモコのモヘアニットと、やっぱり随所に勲章をあしらったナポレオンジャケットかな?1年前のロンググローブをワンポイントで取り入れたメンズフォーマルの時は、「ついに歴史上のフォーマルへの探求も始まるのね!」と思ったけれど、時代がさらに遡った(笑)。完全に中世のアイテムだけど、今っぽく見えるせいか、未来のバトルシップ(宇宙戦艦)の乗組員の制服みたいに見えてくる。カッコ良い。そしてフィナーレのキム!!ブロンドヘアに大変身でした。もうすぐ発表の「フェンディ(FENDI)」も楽しみだね。

レジェンドのもう一花に期待

村上:「ポール・スミス(PAUL SMITH)」もオリーブやワイン、ナスのような紺色など、秋冬らしい色使いで大人っぽかったね。そこにカラフルなボーダーやストライプ、花柄を差し込んでユーモアを忘れないのは、さすが。スタンドカラーのシャツブルゾンが、フォーマルウエアをちょっぴりカジュアルダウンさせてくれてイイカンジでしたね。今回のコレクションのようにジャストサイズのスーツとコーディネイトしてもカッコいいけれど、ちょっぴりオーバーサイズのジャケットとも合わせてみたい。タイダイなのかな?大きな花柄を描いたコートがとても素敵だった。あと、モデルがいちいちカメラ目線で微笑んでくれると、照れるね(笑)。

大澤:僕もまさにスタンドカラーのシャツブルゾンに見入ってしまいました。花柄やバンダナ柄、アロハ柄のようなもの、どれも気になりましたね。時計や財布、アクセサリー、バッグなどの小物類同様、コレクションラインも若者に浸透して欲しいです。レジェンドがもう一花咲かせるところ、見られるといいな。

スポーティになりすぎ危険⁉︎

村上:「イザベル マラン(ISABEL MARANT)」は、随分スポーティになりましたね。「ラコステ(LACOSTE)」みたいだった。このブランドはやっぱり民族調のムードを出さないと、「イザベルマラン」で買う理由にならないんじゃないかな?レトロなスポーツテイストはとっても可愛らしいけれど、もっともっと手頃なブランドがたくさんあるから。もう一つリクエストすれば、モデルじゃなくて、洋服が主役のムービーにして欲しいです。

大澤:かなりスポーティにしてきましたね。明るくアクティブなムービー、モデルも含めて、若い層をターゲットにしてきているのでしょうか。もしくはおうち時間が増える中で、動きやすくて着やすい洋服をテーマにしているのでしょうか。かなりキャッチーでカジュアルなアイテムが多いけれど、ライバルもたくさんですね。

面白い!楽しい!変わらない「ヴェトモン」

村上:写真で発表の「ヴェトモン(VETEMENTS)」、カオスすぎて面白かった。映像で見たかったなぁ。でもTシャツのモチーフになっていたみたいに「R指定」なスタイルも多いから、映像は難しいかな?ヌードカラーでビミョーに透けているボディコンスーツとかね(笑)。いつも通りのストリートあり、ゴスあり、電脳系テクノあり、なぜかプロレスラーみたいなコスチュームありで、カオスな「人類大図鑑」みたいなコレクション。でもそれが「ヴェトモン」だし、多様性がますます重要視されている今っぽくもありますね。

大澤:ムービーに慣れすぎていたところだったので、僕も思わず、「えっ!」ってなりました(笑)。おもしろ楽しいルックが勢ぞろいでしたね。コレクションはいつもと変わらぬラインアップ。上から吊るし上げられたような肩パッド入りアイテムの数々、大胆なロゴ使いに、過去の名作のアップデートなど。前任のデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)が去って以降も、ブランドの方針はさほど変わっていかない模様ですね。街中で着ている人はかなり減ったように思います。踏ん張りどころ、もしくは正念場といったところでしょうか。

どう着るの⁉︎教えて!ジョナサン先生

村上:「ロエベ(LOEWE)」の“着るアート”や“まとうカルチャー”感が加速しているね。「反復」というキーワードから着想した、背中にポロシャツを2、3枚重ねたポロシャツとかは「ジョナサン、マジですか!?」って思うけれど、それがウエアとして成立するのはラグジュアリーブランドのクラフツマンシップのおかげですね。巨大なパンジーモチーフのニットカーディガンや、バッグをキャンバスに見立てたアートなトートなど、素敵なアイテムはいっぱいあったけれど、一番気になったのはコラージュかな。世界が強制的に分断されている今、それでも「つながっていたい」とか「途切れるべきではない」と考えるデザイナーが積極的に挑戦しているアイデアですね。ジョナサンの場合は、ジョー・ブレイナード(Joe Brainard)のさまざまな時代のアートを1つに融合しているけれど、1枚のキャンバスと見立てて作風さえ違うアートを敷き詰めたコートは、「着る人が自由に解釈して良い洋服として素敵だな」と思いました。個々の絵画を好きになる人もいるだろうし、その集合体を好きになる人もいる。そしてもちろん、キャンバスとなった洋服の仕立てや素材で気にいる人もいるハズ。それで良いよね?

大澤:前コレクションのアートピースより日常的で着やすそうですね。ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が丁寧に説明してくれて、さらに日本語の字幕付きという有難すぎる映像でした。正直、三角形のテント型のトラウザーパンツは日本の某ブランドっぽさが否めない(笑)。背中にポロシャツを2、3枚重ねたシャツは「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」が行ってきた手法に似ています。ボンテージパンツはかなりハードですが、海外のロック・アーティストに人気が出そう。本人にZoomインタビューを行った川井さんはいかがでしたか?

川井康平「WWDJAPAN.com」記者:横から失礼します(笑)。今回協業したブレイナードの作品に見出した花やアートの“脆さ”について、ジョナサンは「確かに半年周期でコレクションを発表することに“脆さ”や“儚さ”を感じる。しかし服を作るという行為は未来を想像することだと思う。今回のコレクションで発表したパンジーなどの花のグラフィックは性別の垣根の曖昧さを表現している。これからの若い世代の為にもファッションを通してより良い世界を作りたい」と語りました。画面越しではありますが、学生時代からの憧れであったジョナサンに話を伺えたのは貴重な体験でした!

おうち時間にぴったりな洋服!とは「エルメス」のこと

村上:「オンライン会議でサイコーの洋服って何?」と聞かれたら、「『エルメス(HERMES)』の2021-22年秋冬だよ!!」と答えたいと思います。表に出ている洋服は、ジャケットのポケットが二つ重なっていたり、その様子を模したステッチワークが施されていたり。ラベンダーや淡い黄緑、スカイブルーなど、春夏っぽい色使いのインナーも素敵だし、大勢のモデルが身につけていたネックレスも「もっとアップで見せて!」とリクエストしたくなっちゃいそう(笑)。マドラスチェックのブルゾンを筆頭にゆとりあるシルエットで、ストレスフリーで一日過ごせそうだね。パンツはもちろん、ドローコードやキャロットシルエット。ランチを食べ過ぎても心配ご無用です(笑)。オンライン会議ではチェックされないだろうけど、インナーと同じパステルカラーを使ったスニーカーも目を引きました。前日の「ポール・スミス」もそうだったけど、今シーズンはシャツブルゾンをチェックしたいね。「エルメス」では、ブルゾンの下に着てタートルネックとの色合わせを楽しんだり、もちろんスカーフとコーディネイトしたりとバリエーション豊かでした。

大澤:「エルメス」と言えば?と問われると、答えは人それぞれ違うと思います。「レザーの質感」、「素材の良さ」、「ジュエリー」、「バッグ」など、そのほかも多数。それが世界最高峰のビッグメゾンたる所以だと僕は思っています。若者には手の届かない代物ばかりですが、ムービーを通してコレクションを見ることができるのもデジタルならではですね。個人的には、多くのモデルが着用していたシルバーのトグルネックレスが気になりました。ギリギリ買える値段だとうれしいなあ(笑)。

ポジティブさを追求するあまりToo Muchに…。

村上:それが真骨頂なのはわかっているけれど、今季の「カサブランカ(CASABLANCA)」はちょっとToo Much レトロだったかな。極彩色のボウタイ付きシルクブラウス、全面ダイヤモンド柄のニット、70’Sなロゴモチーフのバッグなど、ちょっとコスプレ感が強かったかも。でも今の時代に必要なポジティブさをギュギュっと詰め込んだのかな?「うわぁ」と歓声を上げてしまうようなムービーに仕上がっているのは確かです。

大澤:ブランドの強みが存分に味わえるムービーでしたね。上質な素材に鮮やかな色。昔の「マルボロ」のパッケージを模したプリントなどはとても美しく、世間にも浸透しつつあると思います。今回は全体的にバブリー感が強すぎるあまり、コスプレっぽく見えてしまうのは同意です(笑)。今の時代感に、あの洋服をマッチさせるから良さが引き立つのに、「勿体ないな」と思ってしまいました。個人的に注目しているブランドなので、今後も楽しみにしています。

素敵なオジさんに、美しい雪景色

村上:「ホワイトマウンテニアリング(WHITE MOUNTAINEERING)」は素敵なオジさんが勢ぞろいでしたね。それぞれの雪山の楽しみ方がカッコいい。ムービーで、「あぁ、相澤さんはこういう人たちの、こんなライフスタイルに取り入れて欲しいんだ」っていう想いも見えたし、コロナ時代のメッセージのようにも感じました。

大澤:都内では今年、雪を見る事ができませんでしたが、またスノーボードやスキーを楽しめる日常が戻ってきてほしいです。「ミズノ(MIZUNO)」とのコラボスニーカーも発表していました。モデルは“ウエーブ プロフェシー(WAVE PROPHECY)”シリーズですね。

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