これまで“強さ”や技を武器にしていたブランドは、柔らかさや温かみを手に入れたり、強さをより鋭く進化させたりした。デザイナーは、ブランドのアイデンティティーに立ち返りながら、今の気分をコレクションに反映し、“らしさ”を拡張している。(この記事は「WWDJAPAN」2024年9月16日号からの抜粋です)
「フェティコ(FETICO)」
“強さ”の先で獲得した愛らしさ
今季はこれまでの強いスタイルから一転し、曖昧さや愛らしさが浮かび上がった。テーマは“The Secrets”で、秘密を持つ女性のミステリアスな雰囲気を落とし込んだ。細かくギャザーを寄せたライラックカラーのボディースーツや、パステルグリーンのニットドレスなど、ニュアンスカラーが印象的。1980年代に活躍したモデルのヴェロニカ・ウェブ(Veronica Webb)をミューズにしており、肌見せが控えめで、淑女のムード。舟山瑛美デザイナーは自身の変化にについて「何でも白黒はっきりつけるのではなく、曖昧であることを許容できるようになったのかも」と語った。
「チカ キサダ(CHIKA KISADA)」
差し色は情熱の赤、
バレエへの情熱はさらに鮮明に
陶酔を意味する“intoxication”をテーマに、根幹にあるバレエとパンクへの情熱を強めた。アイコンのビスチエやクリノリンに加え、デニムやナイロンなどのカジュアル素材で、エレガンスと日常感を融合。幾左田千佳デザイナーは「感情を揺さぶる色」の赤をアクセントとし、赤い口紅を塗ったモデルに赤色のチュールドレスをまとわせ、官能的なムードも演出した。デニムのレオタードにチュールパンツやバムフラップを合わせるなど、レイヤードスタイルから生じる服の動きは、気迫溢れるバレエダンサーの残像をほうふつとさせた。
「サルバム(SULVAM)」
学生と協業して母校でショー、
若者ならではの自由を発信
「楽天 ファッション ウィーク東京」における日本のファッションシーンを支援するプロジェクト「バイアール(by R)」として、母校の文化服装学院でランウエイショーを開催した。学生と共に作り上げたコレクションから感じるのは自由さ。正直意外に思えるアロハシャツ、無数のカットアウトで肌をあらわにするボーダーのカットソー、透け感のあるファインゲージのニット、そして、得意とするドレープを効かせたフォーマルはいずれもエフォートレスだからこそ、“色香”がにじみ出たり、染み出たりするようだ。楽天の支援で、パリではイベントを開催予定。
「テルマ(TELMA)」
軽やかで華のある
スタイルに込めた日本の技
「JFW ネクスト ブランド アワード」グランプリを獲得し、2022年春夏のブランド始動後、初のショー形式で発表した。和紙を使ったオックス生地のジャケットや、ギマ加工を施したガーメントケース風コートは、和の技術と洋の雰囲気を融合させた「テルマ」らしいピース。その“らしさ”を拡張させたのは、流線型のシルエットや箔プリント、アイコンのフラワーモチーフなどの軽やかさ。「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」でのキャリアが良くも悪くも注目されがちだったが、ショーではそんな比較さえ意味をなさないと証明する、端正な美意識を発揮した。