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イタリア発ジュエラー「ブチェラッティ」 新CEOが語るオールハンドメードで届ける唯一無二の価値と選択的ビジネス戦略

PROFILE: ニコラス・ルフジンガー / ブチェラッティCEO

 ニコラス・ルフジンガー / ブチェラッティCEO
PROFILE: スイス生まれ。大学で法律を学ぶ。オークションハウスのクリスティーズで10年間活躍。2006年、ヴァン クリーフ&アーペルに入社し。小売りやアーカイブのディレクターなどの要職を歴任後、18年にアジア太平洋地域の社長に就任。24年から現職

イタリア発ジュエラー「ブチェラッティ(BUCCELLATI)」が昨年イタリア・ベネチアで開催したエキシビション「ザ・プリンス・オブ・ゴールドスミス-クラシックの再発見」の巡回展が上海で2026年1月5日まで開催中だ。同メゾンは1919年、ミラノでマリオ・ブチェラッティが創業。エキシビション名は、 36年に作家のガブリエーレ・ダヌンツィオがマリオに贈った呼び名“彫金の王子”からきている。同ブランドのジュエリーは、ルネサンスやイタリア建築に着想を得た繊細な透かし彫り(オープンワーク)とシルクのようなしなやかな着用感で知られ、現在でも創業一族がマリオの美学と技術を受け継ぎ、全てハンドメードのジュエリーを提案。創業100年を迎えた2019年には、コンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)傘下に入り、伝統と革新を融合しながらグローバル展開している。巡回展の見どころをはじめ、「ブチェラッティ」の今後の戦略についてニコラス・ルフジンガー=ブチェラッティ最高経営責任者(CEO)に聞いた。

ジュエリーとシルバーウエアで表現するイタリア式ライフスタイル

ルフジンガーCEOは、「(昨年のエキシビション)は、メゾンのことを知る絶好の機会だった」と語る。オークションハウスやジュエリーメゾンで豊富な経験を持つ彼がCEOに就任したのは昨年4月。エキシビションを巡回するにあたり、まず最初に選んだ場所が上海だった。「上海は洗練され成熟した文化的都市。そして、展示会を開催するには大きなスペースが必要だから」と話す。上海展は、ベネチアよりさらにパワーアップ。アーカイブ作品と共にメゾンの歴史や一族のストーリー、そしてメゾンの核となるクラフツマンシップが美しいデジタルサイネージと見事に融合した没入感のある展示になっている。「ジュエリーだけでなくシルバーウエアもある『ブチェラッティ』はイタリア式ライフスタイルを体現するメゾンだ」と同CEO。会場には、ウサギや小鳥が遊ぶ森の風景や海洋生物の生き生きとした姿を彫金技術を駆使しポエティックに表現したシルバーウエアの展示も見られた。「ブチェラッティ」は、ジュエリーだけでなくテーブルウエアなどにも彫金を施し、芸術的な価値を加えている。

創業一族と共に守り続けるオールハンドメード

ブランドバリューについてルフジンガーCEOは、「一目見て『ブチェラッティ』と分かること。誰もが認識できる独特なスタイルがある。それを支えているのが職人たちだ。全てハンドメードでジュエリーを制作するのはとてもチャレンジングなこと」と話す。ビジネスを成長させるためには、生産量を増やさなければならない。多くのブランドが効率化を図る中で、「ブチェラッティ」は全ての工程で手仕事にこだわり続けている。 エキシビションでは、各工程で使われる工具が展示され、実際に職人が彫金を施す様子を見ることができる。

もう一つの価値は、一族の存在だ。「今回のエキシビションには一族6人が集まった。3世代にわたりメゾンを支えてきた歴史は掛け替えのないもので、4代目もビジネスに参画している。一族には数えきれないストーリーがある」。100年以上の歴史があり、今だに一族がビジネスに携わっているジュエラーはわずか。会社を売却したらビジネスから離れる創業一族がほとんどだ。「一族はマリオが始めたメゾンに誇りを持ち、それぞれが製品開発からコミュニケーションまで実務に携わっている」。現在では、3代目のアンドレアがクリエイティブ・ディレクター兼名誉会長、彼の妹であるマリア・クリスティーナがグローバル・コミュニケーション・ディレクター、弟のルカがVIP中心のセールスディレクターをしながらアーカイブの編纂を担当。4代目のルクレツィアやフィリッポもメゾンのビジネスに参加している。「一族はビジョンを持ったメゾンの守護者。リシュモンと一族をつなぐのが私の役割だ。ファミリーメンバーを正しい方向に導き、それぞれの立場で輝いてもらいたい」。

ニッチブランドとしてグローバルに選択的拡大を目指す

リシュモン傘下になってから投資も増え、年商は約5年で4倍に成長した。ルフジンガーCEOは、「ビジネスは成長しているが、需要と供給のバランスを考えながら、どのように”ニッチブランド”としてのポジションをキープするかが重要だ」と話す。現在14カ国50店舗で展開しているが、全てハンドメードのため大量生産はできない。人気商品は、納品まで数カ月、ハニカム構造の“チュール”や精緻な彫刻が施される“マクリ”は1年〜1年半かかることもある。「ウェイティングリストは長くなるばかり。今の一番の課題は、工房を大きくすることだ。品質を保つためには、それに適した職人を確保して育成する必要がある」。オープンワークやハニカムといった非常に細やかな金細工は長年の訓練を経た職人だけができる技だ。同ブランドでは、自社内の教育機関で職人の育成を行うだけでなく、ミラノの専門学校と提携し金細工のマスターコースを創設し、イタリア特有の技術の継承と職人の育成に注力している。

全てハンドメードにこだわるが故にグローバルの成長戦略は、規模よりも、選択的で意味のある拡大を目指すという。「非常にセレクティブで、状況を見ながらフレキシブルに対応する。出店に関しても、ロケーションはもちろんタイミングを見ながら慎重に行う。今まで培ってきた体験を生かして、ビジネス構造を見直してより効率的にしていく」。また、エキシビションでも展示したシルバーウエアの展開も強化していくようだ。「シルバーウエアはジュエリー以外にもメゾンを知ってもらえるきっかけになる。コラボレーションやデザインウイークへの参加などを通して、イタリア式ライフスタイルを提案したい」。

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