ファッション
連載 コレクション日記

「キディル」や「ターク」などパリ公式初参加の日本勢が奮闘 先輩&後輩記者2人のミラノ・パリメンズ8選

大澤錬「WWD JAPAN.com」記者(以下、大澤):本日も2021-22年秋冬メンズ・コレクションレポート第2弾やっていきましょう。前回の「ドタバタ対談」では全ブランドをリアルタイムでリポートし、かなり苦戦を強いられましたが、今回はミラノ最終日、パリ初日で印象的だった8ブランドに厳選して振り返ります。大塚さん、よろしくお願いします。

大塚千践「WWDジャパン」デスク(以下、大塚):よろしく!リアルタイム縛りはなくしたものの、公開時間になるとなんだかんだとソワソワしない(笑)?真面目か!

急激なUターンにびっくり!

大塚:さて、まずは「ア コールド ウォール(A-COLD-WALL)」辺りからいきましょうか。ロンドンからミラノに発表の場を移した当時は意外だったけど、服もイタリアンモードみたいな装いにシフトしてきたね。クラシックかつスポーティーで、ミニマルな雰囲気。となると、「ここの個性や強みって何だっけ?」と動画見ながら考えちゃった。

大澤:当初のストリートスタイルから大きくシフトチェンジしてきましたね。最初は別のブランドを見ているかと思うぐらい、落ち着いていてびっくりしました。元々のファンにはパンチが少ないかもしれないですね。僕は「某ラグジュアリーブランドに似ている気がする」と思いながら見てしまいました(笑)。バケットハットやニットのチャームの付け方、洋服のシルエットなど……。

大塚:分かる!イタリアのあそことあそこが混ざった感じ。僕の経験上、急にクリーン路線やテーラリングを始めたデザイナーはラグジュアリーブランドへのアピールをしている説があるんだよね。サミュエル・ロス(Samuel Ross)も、もしかするとそういう座を狙っているのかも。個人的にはロンドンで発表していたころのインダストリアルなストリートウエアが好きだったので、もう少しその路線で振り切ってほしかった。

地上波完全アウトのハラハラドキドキムービー

大澤:「マリアーノ(MAGLIANO)」は、ルカ・マリアーノ(Luca Magliano)・デザイナーの25歳という若さ溢れるさまざまな要素が詰まったムービーでしたね。肝心の洋服が入ってこず、ドアップで股間を握るシーンや、白いブリーフをはいた謎の天使もツボでした。宮殿ではあまり見かけないようなメンツが勢揃いで、昭和の角刈りヤンキー風モデルがセンターを陣取り、タバコをふかしていましたね。

大塚:あの股間をまさぐる描写は地上波のテレビなら完全アウトだよ(笑)。最後は、ブリ天(ブリーフ天使)から「だめだこりゃ」って聞こえてきそうだった。1回目はコントを見ているようで服が全く入って来なかったけど、2回目を見ると服のクオリティーは着実に上がっているなと思った。一歩間違えるとコミカルに転びかねないテーラリングを、素材感やギリギリのシルエットでクラシックさを残しつつ、エロく仕立てている。コアな若いファン層がいるのも少し分かった気がする。

ミラノを走る!馬に乗った日本兵「ジエダ」見参

大澤:「ジエダ(JIEDA)」は、アメリカ人アーティストのリチャード・プリンス(Richard Prince)の写真集“カウボーイ(COWBOY)”がインスピレーション源でした。1970年代のアメリカで流行したブーツカットパンツやウエスタン調のテーラード、襟を大きめにしたシャツなどをタイトなシルエットにアップデート。若い世代に人気の同ブランドですが、今回の古着っぽいスタイルに新しさを加えて表現するセンスに、人気の要因がありそうです。

大塚:前シーズンのチンピラVシネマ風な映像からラグジュアリーブランドみたいな映像作品にガラリと変わっていて、一瞬ページを間違えたのかと思った(笑)。カウボーイのウエスタンの土っぽさを色や素材感でにじませつつ、きれいなジャケットやセットアップの提案も多くて、新しい方向にも目を向けていこうという感じ?こういう強いコンセプトの世界観が作れるのは意外だったから、日本代表としてもっともっと磨きをかけていってほしいよね。

ベテラン感漂う“さすが”の一言

大澤:続いての「ベルルッティ(BERLUTI)」は1分間のムービーで発表。前回の陶芸家のブライアン・ロシュフォール(Brian Rochefort)との対談形式も面白かったですが、今回は尺が短くシンプルで見やすかったです。モデルは3人でしたが、同ブランドらしい無骨さと、クリス・ヴァン・アッシュ(Kris Van Assche)の鮮やかな色使いのミックスで、良いところが凝縮していました。でもあまりにあっさりしすぎで、もしかしてこれはティーザー映像ですか?(笑)

大塚:正解。今回は3月の本発表に向けたティーザー映像なんだって。ビビッドカラーを差し込んだテーラリングと、染色技法“パティーヌ”を用いたアクセサリーという得意技のオンパレードだったね。前シーズンはアーティストとのコラボレーションでシーズン性を打ち出してきたけど、今季もアートのようなグラフィックが映ったよね?きれいな服とアートという好相性な組み合わせだから、どんな発表をしてくれるのか早くも楽しみになりました。

素材の魔術師「ターク」に驚愕

大塚:「ターク(TAAKK)」は今回からパリ・メンズの公式スケジュールに入ったんです。やはりデザイナーにとって公式に入るか否かはモチベーションが全然違うみたいで、本人もかなり気合いが入っていたよ。その証拠に、今回のキーファブリックの生地サンプルが入ったボックスが直前に届きました。今回もデザイナーからのメッセージ付きで、無機質なデジタルでいかにエモーショナルを届けるかで工夫しているのが分かるよね。

大澤:前回の東京で発表したコレクションも素晴らしかったですが、日本代表としてパリの舞台で戦うブランドが増えるのはうれしいですね。また手書きのメッセージや、生地サンプルを送る辺りも気合いの入り方が伝わってきますね!

大塚:その素材がヘンタイすぎて驚いた!ヘリンボーンがコットンのシャツ生地に変化したり、リップストップがナイロンツイルに変化したり、とにかく意味が分かんない。でも「ターク」は「素材で世界と戦うんだ」という明確な意志を最近は特に強く感じるし、正解だと思う。だからなおさらどんな映像か楽しみにしていて、日本時間0時スタートだったけど、リアルタイムで見ちゃったよ。

大澤:映像はバスに揺られて物件探しから始まり、学校や公園など、これまで当たり前に過ごしていた事柄が描かれたドラマ仕立てのストーリーでした。自分が名古屋から東京に出てきたときをなんとなく思い出した〜(涙)。個人的には背中にテーラードの型押しがされているグリーンのジャケットと、シースルーのアウターが気になりましたね。

大塚:その辺はキャッチーだったね。映像はムード重視で、スタッフも2021年春夏のムービー“UNPOSTED”とほぼ同じ。前シーズンはすれ違う男女の話だったから、もしかして続編?月9みたいにハッピーエンドくる?なんて期待してしまった。結局ストーリーはつながっていないように感じたけど、実は“UNPOSTED”の前の話だったということがデザイナー本人からの連絡により判明して、映像を見直したよね。服はこれまでの自慢の加工素材のオンパレードで、強いピースばかり。ただそれをきれいなスタイルで見せようとしているのが以前との違いで、世界を意識しているんだと思う。

メガシャキムービーに心はズタボロ

大塚:当初は参加予定だった「ファセッタズム(FACETASM)」が緊急事態宣言発令の影響で参加辞退になったので、別のブランドいきましょう。服はさておき、「ブルー マーブル(BLUE MARBLE)」のリアル&CG背景ミックスの映像はかなりキテたね。深夜に目が覚める感じで。背景の情報量多すぎて、服に全然目がいかなかった(笑)。ゴタ混ぜのストリートウエアということは理解したけど、一本調子でちょっとしんどかったなあ。

大澤:同ブランドは、デザイナーのアンソニー・アルバレス(Anthony Alvarez)が2017年に設立。18年に「ブルーマーブル」に改名し活動を続ける仏の気鋭ブランドだそうです。洋服をきちんと見せようしている点は自分の立場を理解してコレクション発表をしていて良かったと思います。単なるロゴ使いや奇抜な柄、オーバーサイズのシルエットというクリエイションだけではライバルが多すぎる。自分たちの強みを見つけ、そこを伸ばさないことにはパリの場では余計に悪目立ちしてしまいそうですよね。これからの活躍に期待したいです!

進化が止まらない「キディル」登場

大塚:次の「キディル(KIDILL)」の公開時間は、日本時間深夜3時30分。いったん休憩して、5分前にアラームかけたわ。起きるのがマジで辛かった。でも起きた価値はあって、めちゃかっこよかった。ムービーカメラを8台使って撮影しているからアングルがバンバン変わり、5分間があっという間。実は1月15日にリアルのショーを開催してそれを撮影・編集したものなのだけど、シンプルなショーをドラマティックに見せるテクニックには素直に感心した。

大澤:今、日本の中でもかなり勢いのあるブランドだと個人的に注目しているのですが、今回も攻め攻めのグラフィックやディテールが詰まっていてかっこよかったです!ドメスティックブランドは守りに入るブランドが多い中、「キディル」は良い意味で日本のブランドらしくないところが若い世代の人気を集めている要因かと思います。いわゆる見ていて楽しい洋服。「なんじゃこれ」「どこに着ていくんだ」と思わせてくれる。そこがオシャレさんたちに刺さり「なら着こなしてやろうじゃないか」と奮起させているのではないでしょうか。世の中の皆さん、ファッションはまだまだ生きていますよ〜。夜露死苦(笑)。

大塚:出たよ、元ヤンキー魂。でも「キディル」はパンク魂で、“Desire(欲望)”をテーマに強いクリエイションにこだわったらしく、柄もディテールもいつも以上に盛り盛り。時折テーラリングも挟むんだけど、それもストロングな総柄。勢いに乗っている気持ちがそのまま服に反映されたハイテンションなコレクションだった。世界で戦うにはまだまだ引き出しは必要だと思うけど、個人やブランドとのコラボレーションを上手く活用しながら成長しているよね。今後がますます楽しみになりました。

エンスト続きで発進はまだ?

大塚:さあ、本日最後は「ルード(RHUDE)」でございます。まず15分がマジで長い。♪ニュ〜ヒ〜マハハナ〜フヒ〜ていう呪文のようなBGMが延々と流れて辛かったわ。しかも出てくるのは終始普通の服ばかりで。あ、でも大澤さんは車好きだから、セットにあったレースカーは気になったんじゃない?

大澤:セットにあったのは「マクラーレン・メルセデス」のF1ですね!サーキットにF1のセットで「おっ!何か面白いことが起きるのかな?」と期待したのですが、フォーミュラーカーは最後まで動かず……。洋服は変わらず普通の服で、音楽も不気味なものではなくF1にまつわる音楽などにして欲しかったですね。「マクラーレン(MCLAREN)」とのコラボアイテムも発表していましたが、単にロゴをプリントしたアイテムのみ。洋服、車共に好きな僕ですら興奮できませんでした。どうせなら、レーシングスーツ・シューズなどをベースにアレンジした、バチバチにストリート色の強いアイテムを発表してほしかったです。

大塚:さすが車好き。期待を裏切られたときの厳しさ半端ない。品質は良さそうだったけど、会話するポイントがあまりないというのも致命的だね。そしてデジタルでのコレクション発表も2シーズン目となると全体的にクオリティーは上がってくるものの、単調すぎても、奇をてらいすぎてもダメで、バランスが難しい。ルックを見れば服は分かるんだけど、導入として動画は十分機能しているのだなと改めて実感した。パリはまだまだ始まったばかりだけど、あと5日間、楽しんで取材しましょう。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

2025年春夏ミラノコレ総括 「プラダ」のミックス&マッチにトレンドの兆し

「WWDJAPAN」10月7日号は、2025年春夏ミラノ・ファッション・ウイークを総括します。今季はデザイナーらが考える「生き方」が表出したシーズンでした。個々が抱える生きづらさを出発点に、批判の目を持って疑問を呈したり、ポジティブに現実を受け止め軽やかに生きるための術を提案したりといった表現が目立ちました。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。