ファッション

「マックイーン」幻の作品やビョークの白鳥ドレスなど ロンドンの若手デザイナー支援を振り返る展示の全貌

「ロンドン・ファッション・ウィーク(以下、LFW)」を運営する英国ファッション協議会(British Fashion Council以下、BFC)は、2024年春夏シーズンの「LFW」期間中に若手ファッションデザイナーの育成プログラム「ニュージェン(NEWGEN)」の設立30周年を記念した企画展「REBEL: 30 Years of London Fashion」を、デザイン・ミュージアム(Design Museum)との共催でスタートした。場所は同ミュージアムで、会期は24年2月11日まで。

ロンドンは数々の気鋭デザイナーを輩出してきた都市であり、その多くに共通するのが「ニュージェン」の選出歴があること。過去に選出されたのは、「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」創業者のリー・アレキサンダー・マックイーン(Lee Alexander McQueen)をはじめ、「ディオール(DIOR)」メンズや「フェンディ(FENDI)」ウィメンズを手掛けるキム・ジョーンズ (Kim Jones)、「コーチ(COACH)」のクリエイティブ・ディレクターであるスチュアート・ヴィヴァース(Stuart Vevers)、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)、シモーン・ロシャ(Simone Rocha)、グレース・ウェールズ・ボナー(Grace Wales Bonner)といった著名デザイナーたちが名を連ねる。

「ニュージェン」はBFCが1993年にスタートし、これまで300人を超えるデザイナーのショーの支援やメンターシップを続けてきた。同プログラムの30周年を記念した企画展は、アレキサンダー・マックイーン社が協賛し、ファッションジャーナリストで「ニュージェン」のトップであるサラ・ムーア(Sarah Mower)がゲストキュレーターを務めている。ここでは30年間の若手デザイナーの支援の歴史を振り返る同展の見どころを、展示ブース別に紹介する。

初期「マックイーン」の
幻のコレクションが目玉

展示の目玉の一つが、初代「ニュージェン」受賞者であるリー・アレキサンダー・マックイーンが1993 年 3 月に発表した、幻の“タクシー・ドライバー”コレクションだ。同展のスポンサーであるアレキサンダー・マックイーン社の協力により実現した。

同コレクションは、マックイーンがセント・マーチン美術大学での卒業コレクションを発表後に披露した2作目であり、ブランドとしてデビューした作品でもある。タイトルは、1976年公開のマーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)監督による同名の映画と、マックイーンの父がタクシー運転手だったことに由来する。ブランドのアイコンの一つである、ローウエストでヒップを露出する“バムスター(Bumster)”のパンツやスカートが生まれたのもこのシーズンだ。

このコレクションが“幻”と呼ばれるのは、オリジナルピースが一つも残っていないことが大きい。マックイーンはショー後に、ナイトクラブに行くために作品をゴミ袋に入れて店の外に隠したが、取りに戻ると全てが消えていたという。

同展では、マックイーンの親しい友人でブランドの黎明期から創作に携わってきたプリントデザイナーのサイモン・アングレス(Simon Ungless)が、同コレクションのテクニックを再現。ラテックスにスクリーンプリントを施したドレスや、ヘアサロンから回収した人毛を使ったドレスなどが並ぶ。

他にも当時のマックイーンの取材記事や動画、アングレスによるインタビュー音声も視聴できる。初期のコレクションピースは紛失しているものが多く、関係者の私物などが展示されており、95年春夏のジャケットは、ロンドンで長年取材を続けるファッションジャーナリストの若月美奈の私物だ。同氏が撮影した当時のマックイーンの取材写真も一緒に飾られている。

反骨精神を鮮やかに表現
テキスタイルで意思表示

“カラー エクスプロージョン(COLOR EXPLOSION)”の展示スペースでは、「ジョナサン サンダース(JONATHAN SAUNDERS)」や「リチャード クイン(RICHARD QUINN)」「アシッシュ(ASHISH)」「デュロ オロウ(DURO OLOWU)」など、色鮮やかなテキスタイルを得意とするデザイナーたちのアーカイブを披露する。ロンドンのファッションといえば、社会に対する反骨精神から生まれたクリエイションが多く、デザイナーたちは鮮やかなテキスタイルを通してアイデンティティーを表現してきた。

デザイナーたちの成長物語
創造性とビジネスの両立

“スタートアップカルチャー(START-UP CULTURE)”と題したコーナーでは、デザイナーたちが「ニュージェン」の支援を得てから現在に至るまでの成長ストーリーを紹介している。「ロクサンダ(ROKSANDA)」や「シモーン ロシャ(SIMONE ROCHA)」「マティ・ボヴァン(MATTY BOVAN)」「アルワリア(AHLUWALIA)」などの代表的な作品とともに、それぞれのブランドがどのようにビジネスとクリエイションを発展させてきたのかをつづっている。

数々のスターを輩出する
アートスクールの教育

“アートスクール(ART SCHOOL)”の部屋では、英国のファッション教育について掘り下げている。ロンドンの名門セント・マーチン美術大学をはじめとするアートスクールには、ウィメンズウエアやメンズウエア、ニットウエア、プリント、アクセサリーなどさまざまなデザインコースが存在している。教育方針で最も重視されているのは、クリエイションの源泉となるルーツを探り、アイデンティティーを確立し、個性を育てること。

展示では「モリー ゴダード(MOLLY GODDARD)」や「マルタ ジャクボウスキー(MARTA JAKUBOWSKI)」「パオロ カルザナ(PAOLO CARZANA)」などのコレクションとデザイン画、インスピレーション、ポートフォリオなどを通して、それぞれのブランドのルーツを垣間見ることができる。

ビョークの白鳥ドレスも
音楽とファッションの関係

“クラブシーン(CLUB SCENE)”のコーナーでは、ファッションと音楽の密接な関係性にフォーカス。ドレスアップを楽しむナイトクラブは、ロンドンのデザイナーたちに大きな刺激を与えてきた。ここでは音楽にインスピレーションを受けたデザインや、ミュージシャンへ提供した衣装などを展示。ビョーク(Bjork)が2001年に第73回アカデミー賞授賞式で着用した「マラヤン ペジョスキー(MARJAN PEJOSKI)」による白鳥ドレスや、サム・スミス(Sam Smith)が23年のブリット・アワード(The BRIT Awards)でまとった「ハリ(HARRI)」の風船スーツなど、キャッチーなピースがそろう。

「JWアンダーソン」など
スターブランドの出世作

“ザ ショー(THE SHOW)”のスペースでは、ロンドンから飛躍した6ブランドのブレイクスルーとなったショーを振り返る。気鋭ブランドにとってファッションショーは、スターダムを駆け上がるための最も大事なイベントの一つ。会場やモデル選び、ヘア、メイク、スタイリング、演出、音楽などの全てを通して、ベストなかたちでブランドの世界観やコレクションを見せることができるからだ。

ここでは「クリストファー ケイン(CHRISTOPHER KANE)」07年春夏、「ミーダム カーチョフ(MEADHAM KIRCHHOFF)」11年春夏、「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」13-14年秋冬、「クレイグ グリーン(CRAIG GREEN)」15年春夏、「ウェールズ ボナー」17年春夏、「シネイド オドワイヤー(SINEAD O'DWYER)」23年春夏を展示する。

多様性や環境問題を発信
“チェンジメーカー”たち

最後の“チェンジメーカー(CHANGE-MAKER)”の部屋では、時代の変革者としてファッションでポジティブなメッセージを発信してきたブランドを集めている。特に2010年代に登場したデザイナーたちは、人種やジェンダー、体形、階級などの多様性、環境問題などに向き合ったクリエイションが多くの人の心を動かしてきた。

多様性をテーマにしてきたサミュエル・ロス(Samuel Ross)による「ア コールド ウォール(A-COLD-WALL)」や「ビアンカ サンダース(BIANCA SAUNDERS)」「サウル ナッシュ(SAUL NASH)」「ステファン クック(STEFAN COOKE)」、サステナビリティを意識したデザインに取り組んできた「フィービー イングリッシュ(PHOEBE ENGLISH)」「コナー アイブス(CONNER IVES)」「アルワリア」、ボディーポジティブを発信してきた「マーク ファスト(MARK FAST)」などのアーカイブを通して、ファッションデザインと社会問題について学ぶことができるだろう。

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