ファッション

ミラノコレ現地取材で明るい未来を見た 「プラダ」「トッズ」などリアル&デジタル融合の成果は上々

 9月22〜28日に開催された2021年春夏シーズンのミラノ・ファッション・ウイーク(以下、MFW)に参加してきました。私が暮らすフランスでは、新型コロナウイルスの1日の新規感染者数が過去最多の1万人を記録するなど、9月以降再び感染が拡大しており、イタリア政府はフランスからの渡航者に陰性診断書の提示を求める入国制限措置を23日に行いました。私は22日に到着したためスムーズに入国できましたが、渡伊予定だったフランスのプレスやバイヤーの多くはキャンセルしたそうです。街が正常通りに動き、バカンスを過ごし、気が緩んだところでの第二波……。なんだか先行きが不安なスタートとなりました。

 リアルとデジタルの両軸で開催された今季は、全てのショー開催ブランドは公的機関の勧告を順守していました。各ブランドから事前に健康状態の確認やマスク着用義務などの注意事項が伝えられ、ショー会場の入り口では申告書への署名や体温計測の徹底や、マスクが配布されていました。会場内の座席は1mの間隔を開けたソーシャル・ディスタンスを確保した配置で、来場者数は通常の3分の1かそれ以下という少なさでした。「フェンディ(FENDI)」に至っては招待客を通常の1割にまで制限したのだとか。アジアとアメリカからの渡航者は14日間の隔離期間が義務付けられていたため、私の知る限りそれら地域からMFWに参加した方はいません。ヨーロッパの隣国からでさえも、企業が国外渡航を禁止していたり、自己判断で不参加だったりという人も多かった印象です。日本のメディアは、ロンドン在住者と現地ミラノ在住のジャーナリスト合計5人と、ミラノにオフィスを持つ百貨店のバイヤー1人だけでした。会場外でスナップ撮影を行うストリート・フォトグラファーは意外に多く、例年の半分程度の人数といったところ。フォトグラファーはヨーロッパ在住者が多いことと、フリーランスのため自己判断で渡航できたことが大きいのではないでしょうか。ミラノのストリートでの様子については、下の関連記事で詳しくお伝えしています。

ミラノ時間9月23日
10:00 「サントーニ」

 私のミラノコレは、シューズブランド「サントーニ(SANTONI)」のプレゼンテーションからスタートしました。通常のプレゼンテーションは開催時間帯であればいつ訪れてもよいのですが、今季は会場内への入場に人数制限を設けており、どのブランドも事前のアポイントメントが必ず必要でした。日本人らしく時間ぴったりに到着すると、今季から数シーズンにわたって同ブランドのカプセルコレクションを手掛けるイタリア人シューデザイナー、アンドレア・レニエリ(Andrea Renieri)が迎えてくれました。「バリー(BALLY)」「コスチューム ナショナル(COSTUME NATIONAL)」「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」「フェンディ」「マルコ デ ヴィンチェンツオ(MARCO DE VICENZO)」で経験を積んだ彼は、「アートや建築からインスピレーションを得たんだ」と語ります。結び目を多用した彫刻的なデザインのドラッポ(Drappo)シリーズが彼の一番のお気に入りで、結び目が最も多いデザインにはナッパレザーを30mも使用しているのだとか!クラシックなイメージの強い同ブランドにコンテンポラリーなニュアンスが加味され、新鮮さを兼ね備えていました。

16:00 「ヌメロ ヴェントゥーノ」

 「ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)」が私にとってのMFW初のショーです。フェザーやシルク、シフォン、エナメルなどの多彩な素材感を生かし、さまざまなテクスチャーをレイヤリングで遊ぶアイデアに心が弾みました。コレクションを擬音語で表現するなら、キラキラ、ピカピカ、フワフワ、ツルツルとたくさん出てきます。それにしても、フェザーがランウェイに登場すると必ずスローモーションで動画を撮りたくなるのは私だけ(笑)?

16:30 「トッズ」

 「トッズ(TOD’S)」がデジタル発表前日に開いたプレス向けプレビューに参加しました。クリエイティブ・ディレクター、ヴァルター・キアッポーニ(Walter Chiapponi)がコレクションについて詳しく説明し、「今季は全ての女性に向けたラブレター」と素敵なひと言。さらに「マスキュランとフェミニンを共存させ、女性が自信を持てるような服を作りたかった。自信と知性を兼ね備え、内側からにじみ出るセンシュアリティ(官能的魅力)を表現した」と続けます。セクシュアリティ(性的魅力)ではなく、センシュアリティというのが重要で、優しい色彩を豊富に使って、若々しくも上品で麗しげな「トッズ」らしさを感じました。スポーツウエアやワークウエアの機能性も加えて、ミリタリーのペンシルスカートやカーゴパンツ、トラッキングシューズやバレエシューズなどが登場。ショートフィルムの制作に取り組んだキアッポーニは「最高に楽しかった」そうで、デジタル化されるショーについて「若手の小規模なブランドにとって、デジタルは現実的なコストで世界中とコミュニケーションをとれる素晴らしい機会」とポジティブに語っていました。

18:00 「エトロ」

 ”イタリアの夏”がテーマの「エトロ(ETRO))」は、会場内にレモンの実がなる木を飾って南国ムード満載でした。1992年に制作された旗がモチーフのプリントを復刻させ、レトロで華やかさがあり、陽気なルックがランウエイを彩りました。リゾート感たっぷりなコレクションのフィナーレは、ビキニトップの上にシャツを羽織り、アイコンのペイズリー柄のショートパンツで統一されていました。ステイホームしている間に過ぎ去ってしまった夏ですが、「エトロ」のショーで少しだけ取り戻せた気分になりました。

ミラノ時間9月25日
街散策

 

 私は7月上旬「ジル サンダー(JIL SANDER)」のショールームに訪れるためミラノへ来ました。その時はロックダウン(都市封鎖)が明けてから1カ月ほど経過したころで、現地の人々は外出を控えていたため街は静かで寂しかったです。それから2カ月経過した今回は、旅行者こそ少ないものの、街は活気を取り戻しつつあります。私のお気に入りレストラン5つのうち2つは営業を再開していませんでしたが、食事時になるとどのレストランも人でいっぱいでした。ランチからワイン片手にパスタをほおばるイタリアの人々を見られて、なんだか嬉しかったです。

 ショップのリサーチのためディエチ コルソ コモ(10 CORSO COMO)やアントニオーリ(ANTONIOLI)、スラムジャム(SLAM JAM)を周りました。んん……アントニオーリとスラムジャムに関しては特筆することがありません。ブランドリストも店内の雰囲気も、いつ来ても大きく変わることはあまりなく、今回も相変わらず。ディエチコルソコモは商品数が半分程度にカットされていたのが大きな変化です。特にシューズコーナーとその奥のスペースは、展示品を並べるギャラリースペースとなっていました。デジタルとリアルなショーと同じように、ECと実店舗のあり方は今後ますます変わっていきそうです。

ミラノ時間9月26日
14:30 「プラダ」

 今季のMFWの目玉といえば、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とラフ・シモンズ(Raf Simons)が共同で手掛けた「プラダ(PRADA)」のファーストコレクションでしょう。デジタルでのショー終了後にミウッチャとラフが対談していたのも同じ会場内で、2人が座っていた席に着席するとなんだかソワソワしてミーハー心がうずきます!会場内はマネキンを使ったルックが並べられており、ショーには登場しなかったアクセサリーも見ることができました。詳しくは、下の関連記事でチェックしてみてください。

 コレクションは、ラフ好きの人には刺さるものだったのではないでしょうか。唯一気になるのは既存顧客の反応です。熱しやすく冷めやすいのもファッションがもつ側面なので、いい温度で成長していくことを期待しています。ホテルに戻る途中、大好物のジェラートをまだ食べていなかったことに気付いてプラダ傘下の老舗洋菓子店「パスティッチェリア・マルケージ(Pasticceria Marchesi)」へ。おいしくてニヤニヤしていたので、怪しい人に見えたかも(笑)。

9月27日 14:00 「ヴァレンティノ」

 MFW最後のショーは「ヴァレンティノ(VALENTINO)」でした。インビテーションとともにミラノの老舗バー「ジンローザ(Ginrosa)」のリキュールが2本が届きました。日本でもカクテルによく使われるリキュールでチンザノとよく似た味ですが、アルコール度数25%とかなり高め!

 セレブリティの来場が多いこともあって、会場外に集まったフォトグラファーの数は今季のMFWで一番多かったです。会場の廃工場の建物の中には自然に生えたかのように植物が飾られていました。無機質な廃工場と緑鮮やかな植物のコントラストが素敵でした。困難な環境下で生きる強くたくましい生命を感じるようで、ショーが始まる前からうっとり。ショーとコレクション内容については、下の関連記事をご覧ください。

苦しみの先に希望はあった

 MFWは無事に終了。連日雷雨に見舞われた5日間でしたが、今私の心はとても晴れやかです。飛行機に乗り、出張に出かけ、取材をし、ファッションを通してメッセージを受け取る――そして記事を通して読者と体験や感情を共有できること。これら全てが自分の幸せであり、情熱をかたむけられることなのだ改めて実感できたから。なによりいつもファッション・ウイーク中に顔を合わす友人や仕事関係者、ブランドなどファッション業界に携わる人々が明るい未来を見据えてポジティブで、この業界に身を置いていることに誇りを感じました。ロックダウン中は、気持ちが沈んだときに「大丈夫。苦しみの先には必ず希望がある」と自分自身に言い聞かせていた言葉は、ただのなぐさめではなかったのだと実感しました。ウイルス感染の脅威はまだまだ消えませんが、苦しみも喜びも分け合い、ファッションを通してつながれるこの世界は捨てたものではありません。改めて気を引き締め、パリのファッション・ウイークの取材も続けます!

ELIE INOUE:パリ在住ジャーナリスト。大学卒業後、ニューヨークに渡りファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。2016年からパリに拠点を移し、各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビュー、ファッションやライフスタイルの取材、執筆を手掛ける

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