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コロナ禍の米ファッション小売業の生き残り策 鈴木敏仁のUSリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する。今回は新型コロナウイルスの危機に対する米ファッション小売業の対応をリポートする。

 アメリカが非常事態宣言を出したのが3月13日、最初にロックダウン(都市封鎖)を発令したのはカリフォルニア州の同19日。その後に続々と多くの州が追随し、これを執筆している4月24日の時点でロックダウンも1カ月を超えている。エッセンシャルな用事と健康のための散歩といった理由以外の外出禁止と、非エッセンシャルなビジネスは営業停止を求められている。法的拘束力を持っているので違反すると逮捕されることもある。

 エッセンシャルとは“必要最低限”や“必須”といった意味だ。食品や薬など生きていくために必要なモノを売るビジネスはエッセンシャルだが、それ以外は非エッセンシャルとなる。ただし人と人の距離を離すソーシャルディスタンスが目的なので、例えば外食ならばイートインは不可だが、持ち帰りや宅配は可能となっている。

 非エッセンシャルであるため、すぐに全店営業を中止し、その代わりにネット通販で注文を受け付けて、駐車場の車のトランクまで店員が運ぶ“カーブサイドピックアップ”のみで営業するのが家電量販店のベストバイ(BEST BUY)である。

 このエッセンシャルの線引きがけっこうあいまいなところもあり、州政府に強引に認可させる業界もあったりして面白いのだが、その話は本稿ではひとまずおいておく。ロックダウンの影響をもろに受けてしまったのはショッピングモールとそのテナントで、百貨店業界と衣料専門店業界は万事休すとなっている。

大手百貨店の破たん秒読み

 最初に破綻したのはローラ アシュレイ(LAURA ASHLEY)、次がトゥルー・レリジョン(TRUE RELIGION)だ。前者はもともと破綻が秒読み、後者は2度目。両社ともに財務が脆弱となっていたので、新型コロナウイルスだけを理由にするわけにはいかない。

 次に赤信号がともったのが百貨店業界である。真っ先に俎上に載ったのがニーマンマーカス(NEIMAN MARCUS )で、破綻は秒読みと報じられている。投資企業傘下にあり財務状況は分からないのだが、実はこの企業も以前から破綻のうわさがあるのでさほどの驚きはない。次が4月15日に社債利子の支払いでデフォルト(債務不履行)を起こしたJ.C.ペニー(J.C. PENNEY)で、破綻も視野に入れて債権者グループと協議中である。この企業も業績は長く不調なので来るときが来たといったところである。ロード&テイラー(LORD & TAYLOR)にも破綻が近いといううわさが出ている。

 私が軽い衝撃を覚えたのはギャップ(GAP)だ。4月上旬の時点で、夏物の仕入れはネット通販用のみで店舗用は出荷停止、秋物の仕入れはすべて延期としている。またアメリカの全店舗1億1500万ドルの家賃の支払いを停止して家主と契約について交渉を開始した。運転資金が枯渇しつつあり社債を発行しての資金調達を検討中としているのだが、ジャンク債となるようで調達コストはかなり高くつきそうだ。

 現在アメリカでは失業者数が人口の5分の1に達しており消費意欲は完全に減退している。ロックダウンが終わって営業を開始したとしても消費が戻るまでに時間を要することは確実で、状況は相当厳しいと言えるだろう。

ルルレモンやアバクロの取り組み

 一方コロナ渦以前の段階で、好業績で財務クッションを持っている企業はロックダウン解除後を見据えて少しでも売り上げを作って延命しようと努力しているのだが、そのカギは定番の強さと在庫マネジメントにある。

 高価格帯のスポーツウエアで知名度の高いカナダのルルレモン アスレティカ(LULULEMON ATHLETICA)は2015年に全商品にRFIDタグ(無線タグ)を付け、在庫管理の精度を上げている。そのため店頭在庫をほぼ100%把握できている。全店閉鎖の直後に一部の店舗をネット通販専用のフルフィルメントセンター化し、配送センターと組み合わせ、全商品を適正配分し、加えて店員も速やかに移動して可能な限り一時帰休を減らしたとしている。同時に100%可視化している現在庫を基本に予測を調整し、発注や仕入れ量を下げて適正化を図っている。取引ベンダーが多く介さない垂直統合型なので、在庫管理と予測技術による全体最適もスムーズに進んでいる。また、もともと季節性の少ないデザインコンセプトなので比較的ダメージが少ない。

 前述のようなカーブサイドピックアップをモールが主導して実施するという取り組みも始まっている。駐車場にピックアップ専用のスペースを用意し、客は各専門店のネット通販で買い、駐車場からパーキングスペースに割り振られている番号を連絡すると、店員が車のトランクまで持ってきてくれるという流れである。モールも専門店も表向きは営業していないのだが、店の中で店員がネット通販用の作業をしているのである。

 ユニークな取り組みをはじめたのがアバクロンビー&フィッチ(ABERCROMBIE & FITCH)だ。中古衣料ECのスレッドアップ(THREDUP)と提携し、ユーザーが中古衣料をスレッドアップに送って出品するとアバクロの商品券を提供する。金額は商品バリューによって決まるとしている。アバクロが今持っている在庫の処理とは無関係だが、失業者が急増して家庭内衣料在庫の現金化需要はこれから増えてくるものと予測でき、ロックダウン解除後を見据えた面白い戦略である。

 現在ほとんどの企業が在庫をさばくためにネット上で大幅な値下げ販促しているのだが、先行きの不透明感でほとんど動いていないという。となると、これから活躍するであろう業態が「TJマックス(TJ MAXX))」に代表されるオフプライスストアである。製造段階から店頭までの過剰在庫の受け皿となっている業態で、ロックダウン解除後には相当数のブランド商品が並ぶだろうと予測できる。先行き不透明なときに強いのはいつもディスカウント型リテーラーなのである。

 コロナショックを乗り切るために各社悪戦苦闘しているのだが、低迷していた企業には一気に引導が渡されてしまう、そんな状況となりつつある。

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鈴木敏仁(すずき・としひと):東京都北区生まれ、早大法学部卒、西武百貨店を経て渡米、在米年数は30年以上。業界メディアへの執筆、流通企業やメーカーによる米国視察の企画、セミナー講演が主要業務。年間のべ店舗訪問数は600店舗超、製配販にわたる幅広い業界知識と現場の事実に基づいた分析による情報提供がモットー