ファッション

ノードストロムのNY新店が示すリアル店舗のあり方(後編) 鈴木敏仁のUSリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が現地のファッション&ビューティの最新ニュースを解説する。米大手百貨店ノードストロム(NORDSTROM)がニューヨークに出店した新タイプの店舗を前編・後編の2回にわたってリポートする後編。この店の最大の面白さは飲食などのホスピタリティーにあるという。(前編はこちら

 ノードストロムのフラッグシップ店舗で飲食できるレストランやバーは全部で7つ。日本でいうレストラン街のようなフロアを作らず、各階に分散させている。最も目立つのは地下1階の靴フロアのど真ん中に置かれた「シューバー」と名付けられた本格的なバーだ。私は2度訪れたがいずれも酒を飲んでいるお客がいて人気のほどがうかがえた。

 これがなかなか格好よいのである。商品をブラブラと選びながら、飽きたのでバーで一休みし、売り場の環境でお酒を1杯飲みながらバーテンダーと世間話をして、またブラブラと買い物に出る−−といったなかなか楽しそうな経験ができるのだ。

 さらに面白いのは、売り場のどこでも飲み食いしていいというルールと、お客の希望により売り場に出前するというサービスだ。私が訪れたときは、バーで買ったワインを売り場に置かれたテーブルにボトルごと置いてグラス片手に話し込んでいる女性2人組がいたり、ソファで談笑しているグループにハンバーガーが出前されたりと、そんな光景を目のあたりにした。

 デパートメントストアによる“店内どこでも飲食可”は業界初の試みである。

 同社の飲食に対する考え方は、もうけを前提とせず滞在時間を長くすることにあり、値段も高く設定していない。全店舗で飲食を強化しており、全トランザクション(取り扱い)の25%が飲食となっているそうだ。

 オープニング時のメディアの取材に対して幹部が、“帰りたくならない、一日中でも滞在したくなる店舗”を目指しているという趣旨の発言をしていた。店舗の隅々までをホスピタリティー化することで、これを実現しようとしているのである。

 ついでながらもう一つ、同社はこのフラッグシップ店舗に先立ってECで注文した商品の受け取りや返品が行える「ノードストロム ローカル(NORDSTROM LOCAL)」という超小型店舗をマンハッタンに2店舗オープンさせている。ネット販売のピックアップ、お直し、靴の修理、ギフトラッピング、衣料の寄付、返品、そしてスタイリストによるアドバイス、といったサービスのみというユニークな業態である。ニューヨークの2店舗の他には、実験を開始したロサンゼルスに3店舗あるのみ。

 「面で考えており、もうけは度外視で、コミュニティーのサービスハブとする」と幹部がコメントしていて、モール内の大型店舗ではできない顧客との新たな接点を作ることを目的にしている。大型店舗が入り込めないような商圏に出店してサポートする役割である。メンズ、ウィメンズ、ローカルと立て続けに作ったことからもNYマンハッタンへの本気度がうかがえるのである。

業績好転への起爆剤になるか

 NYマンハッタンからは、百貨店のロード&テイラー(LORD & TAYLOR)、ヘンリ・ベンデル(HENRI BENDEL)、セレクトショップのバーニーズ(BARNEYS)といった古い企業の撤退や破綻が続いている。今回のノードストロムによる進出はNY小売市場の入れ替わりの象徴と言えそうだ。

 同社は2017年に、22年までの目標として売上高を毎年3~4%伸ばす計画を発表しているのだが、昨年度は目標未達に終わり、今年は2%減になるという予測数値を明らかにしている。17年に設定した計画は2年連続で達成できないようだ。

 一方、数年にわたってノードストロム一族はバイアウトを企画してきたのだが、資金が集まらず昨年断念している。非上場となって機関投資家の監視下から逃れて長期的な視点で自由にやりたいということなのだろうが、資金が集まらないということが意味する事態は容易に想像がつく。

 こういった環境下でのNY新店への大きな投資に対しては、ギャンブルだという批判的な意見が金融メディアや証券アナリストからは出ている。この全く新しいコンセプトを持った店舗が業績好転への起爆剤になるのかどうかが今後の焦点だ。

鈴木敏仁(すずき・としひと):東京都北区生まれ、早大法学部卒、西武百貨店を経て渡米、在米年数は30年以上。業界メディアへの執筆、流通企業やメーカーによる米国視察の企画、セミナー講演が主要業務。年間のべ店舗訪問数は600店舗超、製配販にわたる幅広い業界知識と現場の事実に基づいた分析による情報提供がモットー

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