ファッション

新型コロナで欧米にもマスク文化が根付く?

 欧米にはマスクを着用している人は病人と見られる文化があり、アジア諸国のように他者への配慮の意味も込めた日常的なマスクの着用という慣習が存在しない。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、西洋諸国にマスク着用が普及し始めている。

 アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)は4月3日、無症状の感染者によるウイルスの拡散を防止するため、すべてのアメリカ国民に対して外出時にマスクを着用するよう促した。アパレルブランドでは必要不可欠な業務の従事者に向けたマスクの製造をすでに開始していたが、その需要が一般の消費者にも拡大することになる。

 「アメリカン アパレル(AMERICAN APPAREL)」の創業者、ダヴ・チャーニー(Dov Charney)は、その後設立した自身のブランド「ロサンゼルス アパレル(LOS ANGELES APPAREL)」の工場で非医療用マスクを製造している。さまざまな色柄のマスクは3枚セットが30ドル(約3240円)でオンラインで販売されているが、チャーニーは「マスクを着用すれば安全、というわけではないことを周知するのが重要だ。友達同士で鼻と鼻をこすり合わせるエスキモーのようなキスをすることになるといけないからね。でも、顔をガードするアイテムは使うべきだ。Tシャツを使えば家で作れる。私はマスクをせずに公共の場には行かない。私は医者や科学者ではないが、マスクは重要なアイテムだ」と語った。

 新型コロナウイルスの危機に陥るすこし前からファッション界ではマスクが注目されていた。1月にはポップ歌手のビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)が「グラミー賞(Grammy Awards)」で「グッチ(GUCCI)」のアンサンブルにマスクを着けて登場したし、ラッパーのフューチャー(Future)とその娘やリアーナ(Rihanna)、カーディ・B(Cardi B)らもレッドカーペット上でマスク姿を披露している。彼らは日常的にマスクをしているわけではないが、埃が舞いやすい音楽フェスの常連だということも覚えておきたい。

 「ヒッキー フリーマン(HICKEY FREEMAN)」や「ハート シャフナー マルクス(HART SCHAFFNER MARX)」でも必要不可欠な業務に従事する労働者に向けた非医療用の個人向け防護具を製造している。両ブランドを擁するオーセンティック ブランズ グループ(AUTHENTHIC BRANDS GROUP以下、ABG)のナターシャ・フィッシュマン(Natasha Fishman)=マーケティング部長は、「私たちの文化では歴史的に見てもマスクの着用に抵抗感がある。なぜなら、これまでにパンデミックの対処法を考えた経験がないからだ。私たちは今、マスクの着用を徹底する上で極めて重要な局面にいる。もし国や州からマスクの製造を依頼された場合、ブランドのオーナーや小売業者はその政策に従うことをどう捉えるだろうか。マスクが生産されれば、それがアクセサリーとなりうる見込みがある。おそらくまずは無料サンプルとして配るが、労働者にとっては間違いなく必需品となるだろう。やがて、そのほかの人にとっても“賢い人は着用する”という流れになるのではないだろうか」とコメントした。

 ABGでは数週間のうちにいくつかのブランドで製品テストを行うことを検討しているといい、「利益優先ではないが、明らかな需要がある。その需要は医療従事者から始まり、必要不可欠な労働の従事者たちを経て、人びとの個性の一部につながる個人用防護具として流通するだろう」と語った。

 「マイケル スターズ(MICHAEL STARS)」の創立者スザンヌ・ラーナー(Suzanne Lerner)も米カリフォルニア州ホーソーンの工場で働く労働者たちのために500枚の非医療用マスクを製作した。ラーナーは「マスクはファッション性を持つようになると思う。Etsy(ハンドメード製品中心のショッピングサイト)やフェイスブック(Facebook)を見ればわかるわ。すでにデニムや花柄のものが登場しているの」とコメントしている。

 スザンヌはファッションマスクの製造やオンライン販売も考えているといい、商品購入者へのプレゼント形式、またはすでに「リフォメーション(REFORMATION)」「ヘドリー・アンド・ベネット(HEDLEY & BENNETT)」「ジョニー ワズ(JOHNNY WAS)」などのブランドが実施しているように売り上げの半分を寄付することを検討中だ。

 「ジョニー ワズ」のロバート・トラウバー(Robert Trauber)最高経営責任者は、同ブランドの海外工場で端切れを使用して製造した1万枚の非医療用マスクを地元医療機関に寄付した。「他人との距離を取るソーシャル・ディスタンシングや、握手やハグの代わりに腕を使って挨拶するのと同様に、マスクの着用も習慣化していくと思う。もし私が病気になったら『バーバリー(BURBERRY)』や『ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)』『ジョニー ワズ』のかわいいマスクを着ける」と語った。トラウバーCEOは将来的にマスクの小売り販売も計画している。

 市場にはあまり出回っていないものの、新型コロナウイルスの危機に直面する以前から、環境危機に対応した消費者向けの高機能マスクや衣類を製造しているブランドもある。

 高機能マスクを製造するヴォグマスク(VOGMASK)共同創始者のウェンドーバー・ブラウン(Wendover Brown)は、「有効なマスクを作るためには、マスクに使用するフィルターの性能テストを十分に行わなければならないが、それはすでに難しい状況だ。手作りマスクは液体の飛び散りを防ぐことはできても、ウイルスなどの小さな粒子を防ぐことはできない」と語った。

 同社が韓国ソウルで製造するマイクロファイバーとオーガニックコットンを使用した4層構造の排気バルブ付きマスクは、埃やアレルゲン物質、カビやその胞子をブロックすることが可能だが、流通に至るまでの検査項目が多岐にわたるため、製造を自動化することは困難だという。

 また同社のマスクには、アメリカ国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health)のN95規格が適用されている。ブラウンは「この状況下で人びとは市場に出回っているマスクに飛びついているが、自分がどのような機能を持つ製品を購入しているかを知ることがとても重要だ」と話している。健康とスタイルは複雑に結び付いているといい、同社はライセンスに合意した「マニッシュ アローラ(MANISH ARORA)」などのブランドのためにマスクを製造している。

 伊ブランドの「C.P. カンパニー(C.P. COMPANY)」は19年11月、“アーバンプロテクション(Urban Protection)”シリーズをリバイバルさせて、フードにN95マスクが装着されたジャケット“メトロポリス(Metropolis)”を再導入した。同ブランドのロレンツォ・オスティ(Lorenzo Osti)社長は「公害から身を守ることを目的として同シリーズを復活させた。もちろん当時は新型コロナウイルスのパンデミックなんて想像もしていなかった」と語った。なお、現在はデザイナーとサプライヤーが個人用防護具として同シリーズの製品を製造している。

 また同ブランドでは再利用可能なマスクの製造にも着手している。「マスクは今後私たちの日常生活の一部となるだろう。いまは試作品の段階だが、やがて製品の販売が決定するだろう。再利用可能なマスクは環境保護の観点からも非常に重要だ。中国では毎日1億1000万枚の使い捨てマスクが製造されているが、サステイナブルとは言えないから」と語った。

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