
夏ごろ、日本のメディア業界にある種の衝撃が走った。生成AIによる検索という行為の普及、そしてサーチエンジンにおけるAIの実装が始まったせいで、ニュースサイトを中心に多くのウェブメディアにおける検索流入が減少したのだ。同様の現象が先行して起こったアメリカでは、サイトへのアクセスが半減というメディアが現れたり、メディアとテック企業の訴訟合戦に発展したりと、この世界におけるAIの影響力が増している。一方で法整備に課題こそあれど、多くのメディアは文字起こしや翻訳、ビジュアルやムービー制作に際してのレファレンスや絵コンテ作りなどに生成AIを活用し始めた。果たしてメディアは今後、AIをどう活用しながら、AIに対抗していくのだろう?双方は、互いにどんな影響を与えながら、進化していくのだろう?毎年恒例の特集は今回、AI時代のメディアについて考える。(この記事は「WWDJAPAN」2025年11月24日号からの抜粋です)
アメリカでは、OpenAIなどはニュースメディアとコンテンツ利用に関する契約を結んでAIの学習やサービス提供における連携を進めている一方、記事を無断で収集・利用しているとして日本を含む諸外国のメディアから提訴されているテクノロジー企業もある。メディアも、昨年には全てをAIで作成したファッション誌「COPY」がスウェーデンで誕生した一方、クリエイターへの敬意を評して活用を限定的にとどめている会社も多い。こうしたさまざまな姿は、日本の遠くない将来と言えるだろう。ただ雑誌からウェブサイト、SNS、動画、そしてAIと、ユーザーのコンテンツとの接点が拡大する流れは不可逆的であり、日本でも多くのウェブメディアは今夏、上述の通り検索ツールがサーチエンジンから生成AIに変わりつつあることの影響を受け、検索流入が減少した。とはいえ生成AIによる検索は、日本では現在数%(こちらの記事参照)と言われるが、検索流入の天井は既に見えてしまった。各ウェブメディアのSEO対策は、戦略はもちろんスタンスさえ見直す時が迫っている。日本のメディアも、いよいよAIと向き合う時が来たのだ。
AI検索に対する防御策が
外資系メディアを中心に始まる
サーチエンジンによる従来型の検索からAI検索への移行が始まり、特に外資系メディアは、ある種の防御策とも呼べるようなコンテンツ戦略を開始している。大前提は、定性的な価値を模索したコンテンツのエバーグリーン化(コンテンツにいつまでも変わらない、古くならない、普遍的な価値を付すこと)と、一方でターゲットメディアらしい特定のユーザーに強く響くコンテンツのニッチ化(例えば「ベストホラー映画」ではなく、「低予算のインディーズなベストホラー映画」という記事にすること)。加えてポッドキャスト(PODCAST)や動画、リアルイベントなど、特にAIが現段階では簡単にラーニングできないコンテンツの生成によるオーディエンスとの関係性の深化に挑戦しながら、ニュースレターやアンケートなどでエンゲージメントを拡大し、サイトの構造においては読みやすさへの工夫や回遊性向上のためにハッシュタグを有効活用することなどを実践している。ウェブメディアへの検索流入減を覚悟し、SNSにこれまで以上に傾倒することで雑誌からウェブ、SNSまでを含めた総オーディエンス数というコミュニティーの規模感で勝負しようという流れも顕著だ。こうした戦略や取り組みは、すでにユーザーとのタッチポイントの拡大や収益源の多角化などを目指して多くのメディアが近年注力しているが、AIの普及により、総力戦によるブランディングはますます強まるのだろう。
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