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佐藤裕介 × 光本勇介 2人の起業家が語る「ネット時代の起業マインド」

 若くして2社を上場に導いた佐藤裕介氏と、質屋アプリ「CASH」など話題のサービスを次々と生み出す光本勇介氏らが率いるヘイ(hey)は、インターネット時代のスモールビジネスを支援するための企業と言える。同社は2018年2月に端末一つで簡単に決済できるキャッシュレス決済サービス「コイニー」と、最短2分で誰もがオンラインストアを開設できるサービス「STORES.jp」の2つの事業を傘下に収める形で誕生した。若きシリアルアントレプレナーである2人は、ネット時代の起業やその未来をどのように見えているのか。彼らの考えに迫った。

WWD:2人がヘイとして一緒に事業を行うことになった経緯は?

光本勇介ヘイ取締役ストアーズ・ドット・ジェイピー取締役(以下、光本):きっかけは佐藤(裕介)君の一言でしたね。もともと「STORES.jp」側としては、サービスを通じてスモールビジネスを手掛けている人がオンラインでモノを販売する機会をできるだけ多く作ってきたいと考えて経営してきました。一方で「コイニー」の(佐俣)奈緒子ちゃんも、同じ観点からオフラインの決済を提供してきた。そういった中で、佐藤君がツイッターか何かで「コイニーとストアーズの両方をまとめて展開できるようなビジネスができたら面白そう」と言っていて。もともと3人とも友人関係にあったこともあり、実現できたら面白いよね、と3人でカジュアルに話し合ううちにどんどんと進んでいきました。

WWD:もともとフリークアウトで広告系の事業を手掛けてきた佐藤社長にとって、スモールビジネスの支援は一見無縁のようにも思えるが?

佐藤:今まで手掛けてきた事業を見ると、あまり関係が無いように見えるかもしれませんが、僕の根底には個人をインターネットの力でエンパワメントしたいという感覚があります。そもそも、僕がインターネットの仕事をしようと決めたのは、僕みたいな何者でもない存在に力を与えてくれた経験があったからなんですよね。高校生の時はアプリケーションを自分で書いたり、ネット掲示板で知らない人とコミュニケーションを取ったりしていました。さらには、大学生の時には“ウェブ2.0”的なムーブメントがあり、インターネットが個人の力を強めるという言説も出てきた。ただ、結局は実現せず、グーグルなどの大きい企業がさらに大きくなるだけだった。「インターネットにそこまでの力はなかった」と当時は思ってしまって、僕自身違うことをするようになりました。それが徐々に変わり始めたなと気づいたのは2016年ごろ。光本君とかと比べるとかなり遅いけど、先日上場したBASEや「STORES.jp」の流通総額とかを見ていると、思っているよりもかなり大きく、昔自分が期待していた世界が実現しているなと。

佐藤裕介・社長の原点は「中二病」

WWD:それが今のヘイに至っている。

佐藤:そうですね。僕は完ぺきに中学生の時にこじらせていて、文化に対する過度な信望と、マイナーなことに対する過剰な評価という、ちょっと知恵を付けた中学生によくある病気、いわゆる中二病に陥っていました(笑)。今は割と“治療”が進んでいますが、個人が巨大なモノに勝つことがかっこいいと感じる根底は今も変わっていません。

WWD:光本取締役は12年に「STORES.jp」を立ち上げてから多くのスモールビジネスの立ち上がりを見てきたかと思うが、創業時と今では環境は変わってきている?

光本:かなり変わってきてますね。環境はもちろん、消費者の理解も価値観も全てが違います。「STORES.jp」の創業当時はツイッターやインスタ、フェイスブックなんかが生まれて、個が力を持ち始めていた。ただ、当時はお金という軸で力を持つことはあまりなかった。名刺に個人のツイッターアカウントとかを入れる人がちらほらと出てきていたんですけど、だったら名刺に自分のオンラインストアのURLを入れられるような世界を作れたら面白いな、と思ったのが「STORES.jp」の創業経緯です。そして、キャンプファイヤーだったり、クラウドワークスだったりの誕生で、今や実際にお金の軸で個が力を持つ時代になってきている。この世界はもっと広げていけると思っています。

WWD:2人はエンジェル投資家としても知られているが、出資先を見ていると単に資産を増やすのが目的ではないように見える。2人が投資を行う目的や意義は?

佐藤:投資を通じて起業においてハードルが下がることは、結果的にチャレンジ数も増えていくのでいいことだと思っています。ただ、慈善的に投資を行っているわけではないです。これは「STORES.jp」や「BASE」の出店者とも同じですが、何か大切にしたいものや芯のある人が生き残っている。

光本:新しいビジネスへのチャレンジを見たり聞いたりすることができるのも楽しいですよね。個人的にも新しい事業を考えるのがすごく好きなのですが、僕一人で何でもやることはもちろん不可能。出資をすることでそのチャレンジを覗かせてもらったり、一部に参加させてもらったりするのは勉強にもなります。

佐藤:一種のエンタメのようなものなのかも。人が真剣に取り組んでいるところを見せてもらえる機会ってそうそう無いですよ。映画よりも映画みたいなことがたくさん起きている。起業家たちがやりたいと思っていることが実現できれば社会はもちろん便利に、かつ楽しくなるし、それを見せてもらうこと自体に価値がある。出資を受けて企業を経営している僕にも、そういったオーディエンスが恐らくいると思います。

起業はほぼノーリスク
「挑戦しない方がもったいない」

WWD:「STORES.jp」と「BASE」が共同で立ち上げた資金調達サービス「NO CAPITAL」もスタートし、個人でビジネスを起こすことがより容易になっている。起業家として数々の事業を手掛けてきた2人から、起業を志す個人にアドバイスをするとしたら?

佐藤:自分が過去の常識に捉われていないか、考えた方がいいと思います。障壁は下がっていて「ビジネスのために命をかける」といった気持ちは不要になっているはずなのに、「失敗したら崖から落ちて死ぬ」みたいな10年、20年前の前提がまだ脳内にへばりついている人がけっこう多い。現実的には心意気と、ビジネスをする上での一定の領域があればほぼノーリスクでできるんですよ。

光本:本当に、めちゃくちゃいい時代だと思いますよ。僕が最初に起業した08年のころは、ベンチャーキャピタルや個人の投資家の数が少なかった。結果的に資金調達をせずに来たわけですが、それは単に“できなかった”から。今はリスクやコストをかけず何にでもチャレンジできるわけだから、挑戦しない方がもったいない。

佐藤:ファッション分野で言うと、従来のクリエイティブ重視の観点以外で考えた方がいいのかなと個人的には思っています。今の若いクリエイターの方で、「サカイ(SACAI)」のようなこれまでのファッション文脈で成功している事例に希望を持ってしまいがちな人も多いですが、クリエイティブの領域は主観に左右されやすく、打率や生存率は非常に低い。「STORES.jp」のようなプラットフォーム内には、ファッション業界のトラディショナルな文脈では評価されないけど、規模的に「サカイ」などを狙えるようなブランドがたくさんある。もう少し視座を変えることで、新しい成功事例を立ち上げることができるかもしれません。