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ユニクロが「国民服」になった背景を読み解く 米澤泉著「おしゃれ嫌い」

 フリースブームから20年。いまや「ユニクロ(UNIQLO)」は日本人にとって国民服ともいえる存在だ。エアリズム、ヒートテック、ブラトップ、ジーンズ、感動パンツ、カシミヤセーター、ウルトラライトダウン――。子供からお年寄りまで、よほど意識的に遠ざけない限り、誰でも数点のユニクロ製品を持っているだろう。

 ユニクロは単にビジネスとして成功しただけではない。日本人の服に対する価値観まで変えた。消費生活全般まで与えた影響は計り知れない。

 甲南女子大学教授の米澤泉氏による「おしゃれ嫌い−私たちがユニクロを選ぶ本当の理由−」(幻冬舎新書)は、平成不況の真っ只中に価格破壊者として登場したユニクロが、どのように日本人の生活インフラとして浸透していったかを丹念に分析している。

 ただ安いだけの服、機能的なだけの服なら国民服にはならない。創業者の柳井正ファーストリテイリング会長兼社長には、一般消費者が本当に望む服の姿が見えていた。それはファッション性やステータスをひけらかす服ではない。着るもので個性や感性まで判断される風潮に疲れた人々に寄り添う服、誰もが気兼ねなくお金も時間もかけずに購入できる服である。

 柳井氏は「ライフウエア」と表現する。同社ウェブサイトのステートメントでは下記のように説明される。

 「服に個性があるのではなく、着る人に個性がある。そうユニクロは信じています。私たちの服は、作り手ではなく、着る人の価値観から作られる服です」

 「私たちの服は、シンプルで、上質で、長く使えるという日本の価値観をもとに、時代の新しい息吹を取り込んで作られています。だからこそ私たちの服は、あなたらしいスタイルを形作る部品になれる、と信じています」

 本書ではこの20年の間で、消費者の価値観が、ユニクロが提唱する価値観にシンクロしていく様子が丁寧に紹介されている。とりわけ印象的なのは、ファッション誌とユニクロとの距離感だ。

 まだ「ユニバレ(ユニクロを着ているのがバレるのが恥ずかしい)」「ユニクロは画一的」と言われていた2000年代は、女性向けファッション誌にはほぼ黙殺されるか、ごく小さな扱いだった。それが10年代半ばになると、主役級の扱いを受けるようになる。大人女子をターゲットにした「アンドガール(and GIRL)」(15年9月号)では、表紙に「ユニクロでよくない?」と大きな見出しを打ち、28ページのユニクロ特集を組んだ。同じくらいのタイミングで「クラッシー(CLASSY.)」「ノンノ(non-no)」「ウィズ(with)」「JJ」「ヴェリィ(VERY)」などもユニクロをクローズアップするようになる。ついにはセレブ御用達誌「ヴァンサンカン(25ans)」(18年9月号)で「目が離せない!ユニクロのホットなコラボレーション」と銘打ったページが組まれるに至る。

 米澤氏は「ユニクロを追うことは、この30年の間に服を着ることの意味がどのように変わったのかを考えることになる」と書く。服飾史の枠を超えて、日本人の価値観の変化が伝わる好著だ。