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なぜ「アメリカンイーグル」を手放すのか 青山商事、スーツとアメカジの誤算

 紳士服の青山商事は、「アメリカンイーグル アウトフィッターズ(AMERICAN EAGLE OUTFITTERS)」の国内事業の譲渡を検討中であることを明らかにした。連結子会社イーグルリテイリング(東京、奥島賢二社長)を米アメリカンイーグル アウトフィッターズ(以下、米AEO)に譲渡する方向で、話し合いを進めているという。

 青山商事は米AEOと日本におけるフランチャイズ(FC)契約を2010年に結んだ。青山商事が90%、住金物産(現・日鉄物産)が10%出資して設立したイーグルリテイリングは、12年に日本1号店となる大型店を原宿に出店。以後、出店を重ねて現在は約30店舗を運営する。

 最大手の紳士服専門店とアメカジブランドの組み合わせは意外な感じもするが、これはビジネススーツの市場縮小を見込んだ同社の多角化戦略の一環だった。スーツ販売に頼らない収益基盤の確立という方向性は間違っていない。ただ、いくつかの誤算で同社のシナリオに狂いが生じた。

アメカジが若者トレンドから外れる

 一つは「カジュアルウエアの王道」と思われたアメカジが市場で下火になってしまったことだ。

 「アメリカンイーグル」による本場のアメカジは当初は順調で、米国と同じく、主に大学生など若者の支持を集めた。だが、この数年は低迷に転じた。日本企画を投入したり、値下げに踏み切ったりテコ入れしたものの、上向くことはなかった。イーグルリテイリングの19年3月期は、売上高が前期比約10%減の123億円、営業損益は13億円の赤字(前期は8億円の赤字)。既存店売上高は10.2%減と落ち込んでいる。

 近年、オーソドックスなアメカジブランドは総じて苦戦している。米ギャップ(GAP)傘下の「オールドネイビー(OLD NAVY)」は、17年1月期に日本の75店舗を閉めて国内事業から撤退した。「ギャップ」でも昨年の渋谷店に続き、5月には原宿旗艦店の営業を終了した。米アバクロンビー&フィッチ(ABERCROMBIE & FITCH)は今月、全世界の大型店整理の一環として福岡店を20年に閉じると発表した。これで「アバクロ」の国内プロパー店舗は、銀座店とEXPOCITY店(大阪)のみになる。日本企業でもジーンズカジュアル専門店のライトオンが19年8月期の業績予想を53億円の最終赤字になるとの下方修正を出したばかりだ。「アメリカンイーグル」もこの逆風に抗することはできなかった。

本業のビジネススーツも苦戦

 二つ目は本業の苦戦である。

 米AEOとの22年2月のFC契約満了を前倒ししてまで「アメリカンイーグル」を手放す検討に入ったのは、事業単体の採算だけでなく、同社を取り巻く環境も影響していると思われる。自前で新市場を開拓するブランドを育てるよりも、実績のある「アメリカンイーグル」を持ってくるのは合理的な経営判断だった。しばらくの試行錯誤は織り込み済みであっただろう。しかし本業のビジネススーツの落ち込みが予想以上に激しく、支える余裕が次第になくなっていた。

 青山商事の19年3月期の連結営業利益は、前期比29.0%減の146億円だった。屋台骨である「洋服の青山」「ザ・スーツカンパニー(THE SUIT COMPANY)」などのビジネスウエア事業は、売上高が同2.3%減の1844億円、営業利益が同29.1%減の135億円。利益率の高いスーツの不振が痛手になった。イーグルリテイリングを設立した11年3月期に252万着だったメンズスーツの販売実績は204万着にまで減った。スーツの不振は他の紳士服専門店も変わらない。直近の決算では、青山商事とともに紳士服専門店の大手4社と呼ばれるAOKIホールディングス、コナカ、はるやまホールディングスもそろって最終損益を悪化させた。

 スーツ市場の縮小は今に始まったことではない。メンズスーツの市場規模はピーク時の1992年の8000億円から四半世紀後の2017年には2000億円台に下がったといわれている。バブル崩壊、団塊世代の大量退職、クールビズなど時代の変化にさらされる中、紳士服専門店の大手4社はシェア確保を主眼に戦ってきた。百貨店が売り上げを落とし続け、ダイエーやイオンなどの量販店が取り扱いを減らしたため、スーツ市場は紳士服専門店が残存者利益を得る構図になったのだ。

 残存者利益とは、たくさんの競争相手の撤退によって生き残った企業が利益を得ることである。寡占に近い状況になったのは、縮小市場とはいえスーツは依然としてホワイトカラーの必需品だったこと、そして複雑な工程を必要とするスーツは製造技術やコスト競争力の面で新規の参入障壁が高かったからである。青山商事は約3割のシェアを握っていた。

残存者利益の均衡が崩れる

 しかし市場環境はこの数年で加速度的に変わった。青山商事は「カジュアル化・カスタマイズ化などで紳⼠服業界の参⼊障壁が低くなり、他業界からの参⼊が増えている」(19年3月期決算説明資料)と分析している。残存者利益の均衡が崩れてきたのだ。

 IT系やクリエイティブ系などの企業から始まった男性社員のカジュアル化は、これまでスーツ着用が常識だった企業にも広まった。政府もクールビズに続き、スニーカーでの通勤を推奨するキャンペーンを始めた。従来のウール生地で作った伝統的なテーラードスーツとは異なり、ストレッチ性のある合繊素材で芯地や裏地、肩パッドなどを省略したカジュアルジャケットをアパレル各社が次々に発売した。伝統的なテーラードスーツのような窮屈さがなく、値段も手頃でケアも簡単。なのに、ビジネスの場でもきちんとして見える。若い世代に支持されるのは必然といえた。「ユニクロ(UNIQLO)」のスラックス“感動パンツ”もこの流れに乗ってヒットした。

 デジタルを駆使したオーダースーツ業態の存在も小さくない。昨年、世間の話題をさらったZOZOのプライベートブランドもビジネススーツを目玉商品として売り出した。「ゾゾスーツ」を使った採寸の煩わしさや納期遅れもあって業績は振るわなかったが、「どうせ数万円払ってスーツを買うなら、自分の体に合ったものをカスタマイズしよう」という選択肢を広める流れを作った。実利として最も成功したのは、オンワードホールディングスによる「カシヤマ ザ・スマートテーラー(KASHIYAMA THE SMART TAILOR)」である。デジタルによって効率化した生産システムによって、採寸から最短1週間で客の手元に届ける。場合によっては納品が既製スーツのお直しよりも早いほどだ。実質初年度の19年2月期で売上高37億円を達成し、事業拡大のために今春、中国・大連に第2工場を新設した。アパレル以外にもFABRIC TOKYOなどのスタートアップ企業も含め、この分野への参入が相次いでいる。

 青山商事をはじめとした紳士服専門店も機能的なカジュアルジャケットを拡充しているし、デジタルを用いたオーダースーツ業態の出店を増やしている。だが、消費者の選択肢は他社にも広がった。競合の増加もあって、主力の既製スーツの落ち込みをカバーするには至っていない。

 青山商事の前期の連結営業利益に占めるビジネスウエア事業の割合は9割以上だった。ビジネスウエア事業に頼らない収益基盤の確立に取り組んできたが、現状はうまくいっていない。「アメリカンイーグル」だけでなく、2000年代には全国に100店舗以上を運営していた低価格カジュアル「キャラジャ」も前期で清算した。15年に買収した靴修理・合鍵作りの「ミスターミニット(MISTER MINIT)」は、パンプスやハイヒールの修理需要の減少などが響き、前期も営業赤字だった。

 屋台骨であるビジネスウエア市場のかつてないほどの変化に対応しつつ、それに依存しない新規事業をスピーディーに確立できるか。青山商事は難しい舵取りを迫られている。