PROFILE:国際担当バイスプレジデントとして、米国とカナダを除く全ての国・地域のビジネスの成長と発展を指揮。「アメリカンイーグル」「エアリー」の実店舗、EC、卸売りの全チャネルを担当する。アメリカンイーグル入社前は、アディダスグループで20年間にわたり、アジアでのビジネス構築に従事 PHOTO:SHUHEI SHINE
米カジュアルブランド「アメリカンイーグル アウトフィッターズ(AMERICAN EAGLE OUTFITTERS以下、AEO)」が日本で再出店を進めている。10月7日に池袋店、14日に渋谷店をオープンし、19日には渋谷店でインフルエンサーらを招いたレセプションを開催した。2019年末に約30店を閉めて日本市場を撤退してから3年。当時は青山商事子会社のイーグルリテイリングがブランドを手掛けていたが、今回は本国100%子会社のジャパン社が運営する。本格再上陸に合わせて来日した、ヴィジャイ・チャウハーン(Vijay Chauhan)シニアバイスプレジデント インターナショナルに聞いた。
WWDJAPAN(以下、WWD):2019年に日本市場を撤退している。何に困難を感じていたのか。
ヴィジャイ・チャウハーン=アメリカンイーグル アウトフィッターズ シニアバイスプレジデント インターナショナル(以下、チャウハーン):19年の撤退は(青山商事との)契約終了に伴うものだ(編集部注:当初の契約期限22年2月を待たずに青山商事は事業撤退)。契約終了直後から、日本市場を今後どうしていくかは真剣に考えていた。しかし、コロナ禍によって全ての計画がなくなり、結局まずはECで再スタートすることになった。20年に「AEO」の日本向けECサイト、続いて21年にインナーやアクティブウエアの「エアリー(AERIE)」も日本向けECサイトを開始している。ECを運営する中で、日本には顧客がいると気付いた。それで、コロナの収束が見えたこのタイミングで実店舗出店を果たした。今回の出店はわれわれが日本市場に深く関わっていくという意志の象徴であり、同時にアジア市場への注力を表すものだ。
WWD:パートナー企業と組まず、ジャパン社でブランド運営することで何が変わるか。
チャウハーン:日本は最も大切な市場の一つだ。(「AEO」「エアリー」合計で)20店前後を持つ香港がアジアではブランド運営のハブになっているが、日本も米国、カナダ、香港と同様にパートナー企業とは組まず、直接コントロールする。オーストラリアや今後強化するインド、タイ、フィリピンなどではパートナー企業と組んでいる。重要な市場にはパートナー企業と組まず、自らのコストやリスクで出ていく。消費者の声を直接聞き、それを商品やブランド運営にしっかり生かしていきたい。商品は香港の物流倉庫から日本に出荷しているが、今後日本でも売り上げが伸びていけば、縫製工場から直接日本に出荷することになるだろう。
WWD:今後の出店戦略や売り上げ目標は。
チャウハーン:渋谷と池袋に出店した今は、計画としてまだファーストステップだ。具体的な出店や売り上げの計画は公表していない。(多店舗出店するというよりも)実店舗とECをうまく連動させていく。現在約40の国と地域でブランドを運営しており、直営が約1000店、パートナーと組んで出店しているのが約200店ある。各国ごとにEC比率なども異なり、一律でEC化率の目標なども言えない。
WWD:再進出にあたり、店舗面積は以前よりずいぶん小さくなっている印象だ。以前は原宿の旗艦店が売り場面積1100平方メートル超だったが、渋谷店は総面積720平方メートル、池袋店は450平方メートルだ。標準面積や出店立地の今後のイメージは。
チャウハーン:渋谷、池袋店は駅からすぐで非常に通行量が多い。こうした立地を今後も狙いたいが、ショッピングセンター内にも出していく。標準面積は公表していない。
主力のジーンズは1万1290円が中心価格
WWD:実店舗、ECでの販売に加え、大阪のインポーター企業、LTNを通して、セレクトショップなどへの卸販売も手掛けると聞いたが。
チャウハーン:卸販売をしないとは言わないが、われわれが重視しているのは、直接的なコミットメントである実店舗とECだと強調したい。
WWD:日本やアジア市場には「ユニクロ(UNIQLO)」「ジーユー(GU)」など、強力なライバルが多数ある。その中で「AEO」「エアリー」の強みは何か。
チャウハーン:(特に「エアリー」で)若い客層にボディー・ポジティブや女性のエンパワーメントのイメージが浸透している。これがブランド価値向上につながる。「エアリー」はインナーウエアをはじめ、アパレル、アクティブウエア、水着を展開しており、幅の広さがあって市場の中でもユニークな存在だろう。「AEO」は主力のジーンズ(税込1万1290円中心)のクオリティーにも自信があるし、デニムに限らないフルアイテムでの提案をしっかり行い、ライフスタイルとして訴求していけば、ビジネスチャンスはあると思っている。
WWD:日本市場向けに商品やMDのローカライズは行うのか。
チャウハーン:グローバル共通のMDをベースにしつつ、展開国のニーズに合わせてパズルのように商品をはめこんでいく。例えば、日本ではダメージ加工の少ないきれいめなジーンズが好まれるため、そういった商品を増やしているし、プレミアムデニムラインとしてセルビッジジーンズ(2万4990円)などもそろえる“AE77”のラインは、日本市場に好まれるのではないか。
WWD:渋谷、池袋両店のオープン以降の反応は。
チャウハーン:まだソフトオープニング期間だったので結論は出せないが、客数は想定よりも多い。主対象とする10〜20代だけでなく、撤退前からブランドを知っていた、より年齢の高い層も「なつかしい」として店に入ってきている。
WWD:2〜7月期決算は、売上高が前年同期比1.0%増の22億5316万ドル(約3334億円)だったものの、インフレで在庫が膨らみ、値引き販売が増えて営業利益が同81.4%減の5591万ドル(約82億円)となっている。
チャウハーン:当社だけでなく、米国の全ての小売業にとって、今は非常に厳しい環境だ。在庫水準は改善し経費削減も進めており、ここからは少しずつ上向いていくだろう。
日本市場で苦戦する「ギャップ」よりも高い
10月19日に行われた人気インフルエンサーらを招いたオープニングレセプションは、渋谷店前の道路に人が溢れて一時は店内に入れないほどの集客だった。しかし、その熱狂がどうにも腑に落ちないというのが正直なところ。今後の出店計画、売り上げ目標などは全て非公表で、日本市場での戦い方が全く見えない。中心価格1万1290円と、2012年の初上陸時の価格のほぼ倍になっているジーンズは、「ユニクロ」の3990円や「ジーユー」の2490円ジーンズを見慣れた消費者にしてみるとかなり高額だ。商品構成は日本市場で苦戦が続く「ギャップ」に重なり、価格は「ギャップ」よりも高い。アジアでは香港がブランド運営のハブになっているというが、中国本土では19年に実店舗を、22年夏にはTモール上のショップを閉鎖。中国国産ブランドの人気に押される形で、「オールドネイビー(OLD NAVY)」「ベルシュカ(BERSHKA)」などと同様に中国本土から撤退している。