ファッション
連載 鈴木敏仁のUSリポート

アメリカンイーグルの物流会社買収が「アンチ・アマゾン」になる理由 鈴木敏仁USリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。アメリカン・イーグル・アウトフィッターズが昨年11月に物流会社を買収した。アパレル小売業が物流会社を取り込む狙いはどこにあるのか考察する。

 アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ(AMERICAN EAGLE OUTFITTERS、以下AEO)が3月に2021年度の決算を発表した。売上高が50億1079万ドル(前年比33.3%増)、最終損益が4億1963万ドルの黒字(20年度は2億ドル強の赤字)と絶好調だった。20年度はパンデミックによるリアル店舗営業停止といった不可抗力もあって業績が悪化したため、その反動もあって急回復したことになる。

 さて、この決算発表時のカンファレンスコール(電話会議)で、昨年11月に買収したフルフィルメントセンター運営企業クワイエット・ロジスティックス(QUIET LOGISTICS)に関し、CEOが面白いコメントを残している。

 「この買収はアンチ・アマゾンになることだろう、われわれとクワイエットの取引企業がアマゾン(AMAZON)、ターゲット(TARGET)、ウォルマート(WALMART)などと将来的に競合することを可能にしてくれる」

 「アンチ・アマゾン」とはクワイエットがアマゾンに対抗する武器になるだろうという意味であり、「取引先企業が~」とはクワイエットがクライアントとして持っているAEO以外の小売企業を意味している。つまりAEO自身と、クワイエットにフルフィルメントを委託している企業が、アマゾンやターゲットと競合するためにクワイエットが役に立つだろうと言っているのである。

 アメリカの大手小売企業は一定規模になると自社配送センターを持つ。アパレル専門店チェーンも例外ではなく大手はほぼセンターを持っている。ところがECの普及でラストマイルが急増し、配送センターの自前化と同じことがフルフィルメントセンター(以後FC)にも起こり、多くが既にFCの自前化を開始している。例えばギャップ(GAP)は昨年2月に1億4000万ドルの予算で新規のFC建設を発表、9月にはさらに2カ所追加する計画を明らかにしている。

 このトレンドにAEOも乗っているのだが、すでに他社の仕事を請け負い、ビジネスモデルを確立している企業を買収する点に、いまの時代を反映するような面白さを私は感じている。

アマゾンと戦うための2つの武器

 AEOの21年度の年商は50億ドルで、この年商規模に対してクワイエットの買収額は3億5000万ドルであった。さらに通常の設備投資に2億3400万ドルを投資しており、キャッシュフロー表上の投資セグメントはトータル6億ドル弱にもなっている。前年が7400万ドルなのでおよそ8倍も使っており、この買収が同社にとって小さいものではないことが分かる。自社の規模に比して大きな企業を傘下に収めたのである。

 クワイエットはFC用のロボットを自社開発している企業だ。一点から一点へとモノを自動で運ぶような、業界ではコラボレーティブロボットと呼ばれる人間の作業を支援するタイプである。オートメーション化されたコンベアベルトをセンター内に設置するといった大規模投資が不要となり低コストで運営できるとされていて、多くの企業が開発を競っている分野だ。

 FCは全米に8カ所を運営、マック・ウェルドン(MACK WELDON)、アウトドア・ボイシズ(OUTDOOR VOICES)、ボノボズ(BONOBOS)といった中堅レベルのアパレルブランドのみならず、ある情報によるとインディテックス(INDITEX)の「ザラ(ZARA)」の商品も取り扱っているらしい。

 AOEは昨年もう1社、シッピング(出荷や宅配)のマネジメントに特化した技術を開発しているエアーテラ(AIRTERRE)というスタートアップ企業を300万ドルで買収している。サードパーティーとしての宅配企業との契約管理、複数の宅配企業を管理して最適なラストマイルを組み立て効率化するといった技術だ。企業を立ち上げたのはウォルマートのSCMからノードストロム(NORDSTROM)のSCM担当役員となり、やめた後に独立した人物で、フルフィルメントに潜在しているニーズを自ら掘り起こして起業した成功例である。

 AEOはこの2つを組み合わせてラストマイルの全体効率化をはかるとしていて、そしてこれがアマゾンと戦う武器になると言っているのだ。

ラストワンマイルをめぐる攻防

 AEOはこの2社を独立起業として扱い、他社による委託を継続するとしている。

 例えばターゲットは短時間宅配企業のシップトを買収し傘下に収めているが、シップトは独立企業として他社の宅配を継続して請け負っている。コストコは大型商品の宅配に特化した企業を2020年に買収、同じように他の小売企業との取り引きを続けている。

 一方、アマゾンがフルフィルメントサービスをFBAという名称で他社に売っていることはご存知の通りだ。ウォルマートもフルフィルメントや短時間宅配を他社に売っていて、ホームデポ(HOME DEPO)がウォルマートの短時間宅配(名称はゴーローカル)と契約したときは業界の注目を浴びたものである。

 自社開発か買収かの違いはあるが、自らが所有する傘下企業が他の小売企業とシステムやサービスを共有していることにかわりはない。

 潜在的に競合する他社との取り引きを継続するのは、物流は規模の利益がものをいう典型的な分野で、競合よりも経済性を優先しているからである。アマゾンやウォルマートに勝つためには、競合関係を超えて一致団結し規模を大きくしなければならないというような意図を私は感じているのだが、どうだろう。

 またこういったEC関連機能の自製化は万が一の時のリスクヘッジが主目的である。サードパーティー運営者は当然最大顧客へのサービスを優先するので、万が一の時に自社が不利益を被る可能性がある。グローバルで発生しているサプライチェーンの混乱で自社の商品がスムーズに流れず痛い目にあっている経験が背景にあるのだろう。

 大手アパレル専門店チェーンのAEOによるラストマイルへの大型投資は、この分野の重要性を象徴するようなケースだと思っている。

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