ファッション
連載 鈴木敏仁のUSリポート

ファーフェッチの出資で分かった「バーグドルフ・グッドマン」の価値 鈴木敏仁USリポート

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。ラグジュアリーブランドのEC(ネット通販)を展開するファーフェッチが、米老舗百貨店ニーマン・マーカス グループと資本提携を結んだ。オンラインの急成長企業が、なぜオフラインの古い小売企業と組むのだろうか。

 ロンドンに本社を置くラグジュアリーブランドのマーケットプレイス、ファーフェッチ(FARFETCH)が米国のニーマン・マーカス グループ(NEIMAN MARCUS GROUP)に2億ドルを投資する資本関係を結ぶことが発表された。

 ニーマン・マーカスは全米に44店舗を展開する高級百貨店で、ニーマン マーカス37店舗、バーグドルフ・グッドマン(BERGDORF GOODMAN)2店舗、オフプライスストアのラストコール(LAST CALL)と3つの業態を傘下に持っている。競合するブルーミングデールズ(BLOOMINGDALE'S)が55店舗で、アメリカの高級百貨店はこの2社に収斂されている。

 今回の資本提携は投資だけではなく、ファーフェッチによるバーグドルフのECのオーバーホールが含まれており、さらにこれが一段落したらニーマンマーカス本体のECにも取り組むとしている。

 ニーマン・マーカスは1900年代初頭に創業した老舗で、長い歴史の中で資本が変遷した。現在のオーナーは複数の投資企業である。2020年にはパンデミックによる営業停止で運転資金が枯渇し、いったん破綻し、負債を整理して再スタートするというエピソードもあり、ここ数年は決して業績順調とはいえない状態が続いている。

 投資企業には出口が必要である。ファーフェッチによるデジタル技術で営業を立て直し、上場して投資を回収するという絵を描いていると推測することに無理はないだろう。またファーフェッチによるデジタルインフラの提供からは、ファーフェッチによる買収という可能性も感じる。つまり今後をいろいろ臆測できるディールなのである。

富裕層をがっちりつかむ百貨店

 この戦略的提携のブリーフィング資料を読んで私が気づいたのは、1899年の創業でニーマン・マーカスよりも歴史が長いバーグドルフの価値である。ニューヨークの店舗は私にとって、良くいえば古式ゆかしく、悪くいえば古くさく、昔の百貨店はこういうデザインだったんだなということを見ることができるレガシーのような存在である。

 ところがこれは単に店を歩いて見て回るだけの私のような庶民の視点に過ぎないようだ。超富裕層をクライアントとして持っていて、典型的な顧客は年間に1万ドル以上を買い、店員の3分の2は年間に100万ドル以上を売り上げるという。NYマンハッタンの五番街というプレミアムなロケーションに長く立地し、アッパーサイドに住む超富裕層との関係をしっかり維持しているというわけである。

 例えばマーク・ジェイコブス(MARC JACOBS)のランウェイはリアル店舗チャネルとしてバーグドルフでしか売っていないという。バーグドルフでしか販売していないラグジュアリーブランドはそれ以外にも多数存在するそうだ。バーグドルフでまず売って超富裕層の反応を見るといったラグジュアリーブランドの実験の場としても利用されているという。

 つまり高級ブランドにとってバーグドルフは依然価値のある存在で、ファーフェッチはここに目を付けたのだ。

 ファーフェッチは自ら開発したエンドツーエンドのECシステム、ファーフェッチ・プラットフォーム・システム(FPS)をSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)として販売しており、これをバーグドルフに導入しウェブサイトとアプリを刷新し、マーケットプレイスを通してグローバルへの露出を高めるとしている。米国内にとどまっているバーグドルフの価値を米国外に売り込もうというわけである。

 発表されているのはECのテコ入れだけだが、リアル店舗にも手を入れるのではないかと見られている。その参考になるのが、ファーフェッチが2015年に買収したイギリスのブラウンズである。バーチャルやリアルでのアポやウィッシュリストといった顧客向けシステム、在庫管理や特定顧客向けの推奨商品の提案といった店員向けシステム、また試着室には双方型のスマートミラーを設置といった最先端のデジタル技術が導入されていて、これをバーグドルフに適用する可能性は高いだろう。

リアルにはEC、ECにはリアルが必要

 ファーフェッチの流通総額は2018年の12億ドルから2021年の42億ドルへと急増し、昨年は黒字化も果たしている。資料によるとパーソナル・ラグジュアリーEC市場(680億ドル)の6%を占めているという。

 また21年のパーソナル・ラグジュアリー市場におけるEC比率は22%で、2025年には28~30%となって販売チャネルとして最大になると見込まれている。ラグジュアリー市場も順調にデジタル化していて、その先端を走っているのがファーフェッチである。

 D2Cにもリアル(店舗かホールセール)が必要で、リアルにもECが必要で、両者はいずれにしてもクロスオーバーすることが最近は分かってきている。今回のニーマン・マーカスとの提携によってラグジュアリーECのプラットフォーマーも同じ戦略を取り始めているということが明らかになった。

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