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「ハイジュエリーは名画のようなもの」 ヴァン クリーフ&アーペルCEOが語る「レコール」とメゾンの価値観

 「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS以下、ヴァン クリーフ)」が支援する「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校 日本特別講座(以下、レコール)」が、2月23日に京都造形芸術大学外苑キャンパスでスタートした。日本での開講は2013年以来、2回目で3月8日まで。開校イベントで来日したニコラ・ボス(Nicolas Bos)=ヴァン クリーフ&アーペル・プレジデント兼最高経営責任者(CEO)に、レコール開校の目的およびメゾンの価値観について聞いた。

WWD:今回「レコール」を6年ぶりに日本で開催する経緯と目的は?

ニコラ・ボス=ヴァン クリーフ・プレジデント兼CEO(以下、ボス):「レコール」パリ校以外で初めて2013年に開講したのが東京だった。その際は成功したが、プログラムなど「レコール」の新たな可能性を模索しながら調整に思った以上に時間がかかった。昨年、京都国立近代美術館で開催した「技を極める-ヴァン クリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸」展も「レコール」と同じような取り組みだったと思う。

2回目開校の目的は初回と同じで、宝飾の世界について学ぶ場を提供することだ。ただ、長時間と時間の短いクラスをミックスするなど、プログラムを工夫させている。また、新たな内容のクラスやレクチャーなども加えた。「レコール」は単なる学校のような“学びの場”ではなく、サロンの内装や空間演出を通して、発見や対話を楽しんでもらう場だ。今回のサロンは建築家の藤本壮介が手掛けている。新たな試みとしては、宝飾の歴史を共有するという観点からアール・ヌーヴォー期のジュエリーの展示がある。世界的に有名なジュエリー蒐集家の有川一三氏に協力してもらった。また、現代からは、ジュエリーからオブジェ、家具まで幅広く手掛けるデザイナー、ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラ(Harumi Klossowska de Rola)の作品展「ハルミ・クロソフスカ・ド・ローラ 自然の痕跡」を行い、ジュエリーやオブジェに反映された彼女の個人的な世界観を紹介している。これらの展示はクラスを補完するものだ。

WWD:「レコール」の活動が「ヴァン クリーフ」に与えるメリットは?

ボス:いろいろある。われわれが持つジュエリーの専門知識を人に伝える役割がある。ヴァン クリーフはもちろん営利企業だが、「レコール」の活動を通して総合的なジュエリーの世界に触れてもらうことで、潜在的な顧客の獲得につながっている。スタッフの教育にも有益だ。 

また、「レコール」が「ヴァンクリーフ」独自のブランド文化を作っている。ジュエリーの過去と現在をつなぎ、原石からクラフツマンシップなどの専門知識まで網羅するため、美術館や学校、地質学者などジュエリー芸術の世界におけるネットワークを広げている。それが重要で、ビジネスの枠を超えたわれわれの役割を示している。

WWD:「レコール」の全クラス数と予想している参加者数は?

ボス:15種類、全47クラスだが、ほぼ予約で埋まっている。約1000人の参加になるはずだ。展示は一般に無料公開しているので、2週間で数千人の来場を見込んでいる。

WWD:「レコール」を開催する国の判断の基準は?開催国によってプログラムは変わるか?

ボス:美術館や専門機関、そして受講者のネットワークがある都市で開催する。今まで東京のほかにニューヨーク、香港、ドバイで開催してきたが、都市によってコラボレーションする機関が違うので、プログラムも変わる。

WWD:「ヴァン クリーフ」のブランド哲学は?何が「ヴァン クリーフ」をほかのメゾンと違うものにしているか?

ボス:専門性、品質、スタイル、そしてポジショニングが特異である点だ。石の選別から、「ヴァンクリーフ」とすぐ分かるスタイル、幾通りにも着用することを可能にする技術などが挙げられる。また、「レコール」はジュエリー業界全体を支援するイベントである。通常、競合ブランドは自社の作品に特化した展示しかしないが、われわれは、業界のあらゆる関係者とコラボレーションするのに慣れている。

WWD:ハイジュエリーに関して、クリエイションからウェブサイト、カタログなど全てにおいて一貫したイメージと細部にまでこだわった表現をしているが、その理由とメリットは?
 
ボス:ハイジュエリーは単なる装飾美術品ではなく、多くの人に見てもらうべきものだと考える。絵画に例えると、ピカソの絵が、それを購入しようとする人にしか見せられなかったら、美術館で今日あれだけ多くの人にピカソが見られることはなかっただろう。それと同じ考え方だ。ハイジュエリーも時間をかけて丁寧に作り上げるものだから、できるだけ多くの人に向けて紹介するべきだ。おとぎ話がインスピレーションだった場合は、ジュエリーそのものから展示空間、そしてそのコレクションの表現に関わる全ての体験はおとぎ話と同じでなくてはならない。それらは純粋な芸術作品であって顧客だけのものではない。芸術的な表現として一般に公開するべきだ。なぜなら、顧客以外も興味を持っているから。

WWD:ファッション業界でダイバーシティー(多様性)やインクルーシビティー(多様性の受容)が話題になっているが、ジュエリー業界の動きは?今後は?

ボス:企業を運営する上で、それらは社内で重要なことだと思う。ファッション業界で起こったことは決して意図されたものではないが、ある行動が周囲にどのようにとらえられるかについては、より慎重にならざるを得ない。ジュエリーの世界はファッションと異なり、特定の着用者が主役になることはなく、ジュエリー自体が主役だ。われわれの顧客は体形、年齢、国籍など特定の属性に限定されない。キャンペーンにモデルを使用しない理由はそこにある。着用モデルの年齢や国籍を消費者に押し付けたくないからだ。だから、ジュエリーのキャンペーンは物撮りが多い。ジュエリーのキャンペーンはモデルなしというのは、暗黙の了解。そういう意味では、ファッション業界よりダイバーシティーが進んでいると言えるかもしれない。