
ラグジュアリーブランドのPRや顧客エンゲージメントの領域でキャリアを重ねてきた篠田陽子が、次に向き合ったのは自分自身の体だった。審美感と数値管理という、ブランディングの本質をそのまま投影したボディーメイクは、単なるトレーニングではなく自己を再構築するためのプロジェクトでもある。裏方として現場を支えてきた彼女が、あえてステージに立つ理由とは何か。体を通して立ち上がる、新しい自己表現のかたちを追った。(この記事は「WWDJAPAN」2026年3月23日号からの抜粋で、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)
──ラグジュアリー業界でのキャリアを経て、現在の仕事に至るまでの経緯を教えてください。
篠田陽子Pastel社長(以下、篠田):もともとPRとして「ランバン(LANVIN)」「ディオール(DIOR)」「グッチ(GUCCI)」「マックスマーラ(MAX MARA)」などで、マーケティングやコミュニケーションの領域を中心にキャリアを積んできました。後半はよりお客さまと直接向き合う仕事にシフトして、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」ではクライアントリレーションズの立ち上げから関わっています。有形文化財を借りてお客さまを招いたり、大規模なトランクショーやディナーを設計したりと、どうすれば体験として価値を提供できるかをずっと考えてきました。ラグジュアリーの仕事って、結局はお客さまと対面しないとリアルなマーケティングにはならないと思っていて。独立後は「ラグジュアリーエクスペリエンスコーディネーター」として、ホスピタリティ設計やブランディング、イベントディレクションなどを行っています。起業して1年半ほどですが、ラグジュアリーメゾンからお仕事をいただけるようになり、少しずつ形になってきているところです。
Don't Limit!
美意識の可視化
──そんな中で、なぜボディメイクを始めたのでしょうか。
篠田:2024年1月に会社を辞めた時、半年ほど時間があったんです。その時間をどう使うか考えた時に、何か一つ、自分のこれからの仕事を体現するような“パイロット版”をやりたいと思いました。ブランディングの仕事をするなら、フェイクの企画ではなく、自分自身で実験した方がいい。そう考えた時に、個人に一番近くて、可視化できるものが「体」だったんです。私にとってブランディングは、審美感と数字の管理の両輪が上手くかみ合って成立するもの。その二つをどう表現するかを考えた時、体を使って造形するのが一番分かりやすいと思いました。もう一つは、自分のジャーナリングのためでもあります。長く働いていた企業では、自分は脇役として、誰かをハイライトする側に回り続けてきました。でも自分の会社で仕事をするなら、「自分は何を美しいと思うのか」を言語化できないといけない。そのためには、自分と向き合う時間が必要だと思って。ボディーメイクは、そのための手段でもありました。
──篠田さんにとって、ボディーメイクとはどのようなものですか。
篠田:ただ痩せることではないです。自分がどういうシルエットを美しいと思うのかを定めて、それに向かって体をつくっていくことだと思っています。筋肉のつけ方一つで見え方は全然変わるし、どこに脂肪がつきやすいかも人によって違う。だから、自分の体を観察して、どこを削って、どこをつくるかを考えながら進めていきました。人に言われた通りにやるというより、自分で考えて試すことに意味があったと思います。これは私にとってジャーナリングであり、ブランディングの実験だったので。例えば、自分がなりたい体をスケッチしてみる。もちろん上手じゃないんですけど(笑)、そうやって考えていくプロセス自体が、ブランディングの第一歩だった気がしています。
──その取り組みを、大会出場にまで持っていったのはなぜですか。
篠田:半年やってみて、ある程度自分の中で変化が見えたので、このまま終わらせるのではなく、第三者に評価される場に出た方がプロジェクトとして完結すると思ったんです。それで大会に出ました。体づくり自体ももちろん大きかったんですが、それ以上に大きかったのはステージに立つ経験でした。私はずっと裏方だったので、人前に立つこと自体が本当に苦手で。ステージに立つと思うと、もう1人の自分がずっとディスるんですよ。「何やってるの?」って。でも結果を出しに来ている以上、それも乗り越えないといけない。一時期は、電車の中で、マスクの下でずっと口角を上げる練習をしていました。そういうことを積み重ねていく中で、イベントの現場でも自然に笑顔でお客さまと向き合えるようになった。最初はステージで震えていましたけど、自意識みたいなものから解放されて、自分が変わった感覚の方が大きいです。
やった分だけ、
カラダは裏切らない
──年齢や周囲の視線との向き合い方についても印象的でした。
篠田:今年55歳なので、始めたのは53歳ですね。もちろん若いころより時間もかかるし、無理がきかないことも多い。でもその中でどう付き合うかも含めて、自分との対話だと思っています。一度、食事制限しすぎてホルモンバランスを崩したこともありました。やっぱり不健康になったら意味がないので、そのバランスはすごく大事にしています。ただ一方で、体はやればやっただけ裏切らないとも思うんです。メンテナンスしていけばちゃんと応えてくれる。そこにはすごく希望があると思っています。それ以上に大きかったのは、自分の中の“呪い”に気づいたことでした。「この歳だから」「こう見られるから」といった制限って、実は自分で作っていることが多い。大会に出た時に、その恥ずかしさや不安が一度リセットされて、すごく楽になりました。大会にずっと出るかは分からないですけれど、私にとってボディーメイクは、もう完全にジャーナリングなんですよね。仕事ではずっとブランドやお客さまのことを考えていますが、その反対側で、自分の体や心と向き合う時間がある。そのサイクルがすごく大事なんです。だから、今後も表現方法の一つとして続けていけたらいいですね。タフさがないと、美しくはなれない。そう思っているので。
SHINODA’S BODY-MAKING METHOD
1.太らないぎりぎりのカロリーまで摂取し、内容のみを見直す(量は変えない)。同時に筋力トレーニングを行う。
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