
今季の東京コレクションを特徴づけたのは、人間の体と感情に向き合う表現だった。ランジェリーやスポーツウエアから着想したディテールは、肌や骨格のラインを強調し、服と身体の親密な関係を描いた。解体や再構築の手法は、決まりきった型から抜け出し、自分らしさを探る試みにもつながった。流れるシルエットや鮮やかな赤は、身体の動きや鼓動をそのまま映し出し、服にエネルギーを宿す。思い通りにならない揺らぎや不安も受け入れ、体が放つ力をデザインに変えていく。今季の東京は、強さと弱さをあわせ持つ人間の姿を映し出し、その存在を肯定するファッションの可能性を示した。ここではデザインの幅をTYPE1〜3として解説する。(この記事は「WWDJAPAN」2025年9月15日号からの抜粋です)
type 1:
肌や骨格を描写する
ボディーライン
「フェティコ(FETICO)」はブランドの根幹である“女性の奥深さ”を再考し、身体性と感情を映すコレクションを披露した。滑らかなレースやダマスク柄をジャカード織りしたブルーデニムなどは、肌の透明感を際立たせながら、力強いシルエットとともに女性の鼓動を可視化する。「ヒュンメルオー(HUMMEL 00)」は、ひもで包まれたマネキンなどを展示したインスタレーション形式で発表。“Human Anatomy(人体解剖学)”をテーマに、骨格や関節の動きを思わせる切り替えやテーピング、シアーなスポーツ素材を用いて、人体構造そのものをデザインに昇華した。「セイヴソン(SEIVSON)」はニットや編み地を重ね、体の凹凸に沿って伸縮する素材を駆使。ドレスやトップスに走るカッティングは、骨格の立体感をあえて強調し、繊細さと力強さを同居させる。
Pick Up:「フェティコ」
DESIGNER/舟山瑛美

“美しいと信じるものを選べるように”
「かわいいだけでなく、ストイックで、ユニーク。それでいて美しい。そう誇れる仕上がりにした」と語るコレクションは、ブランド初期から一貫して掲げてきた「自分らしくあること」への問いかけをさらに深化させている。中でも、ワコール「ユエ(YUE)」と協業したランジェリールックは、その真骨頂だ。「世の中には依然として“女性はこうあるべき”という規範が強く残っている。そうした固定観念に縛られず、自分が美しいと信じるものを選び取る女性がもっと増えてほしい」。そんな思いを込めた服は、女性たちの自由と自信を力強く後押しする。
type 2:
型にハマらない
自分らしさを構築
東コレ初参加の「オリミ(ORIMI)」は、街が整備され変化していく東京の時代感を背景に“2025年の等身大”とする、ゆがみのあるデイリーウエアを提示。股上を極端に深くしたジーンズ、裾にワイヤーを仕込んでうねるフリルシャツ、肩に背負うバッグなど、不規則なスタイルで都市の若者像を描いた。「チカ キサダ(CHIKA KISADA)」は、筋肉や骨格をトレースする(写す)ような切り替えや脱構築的なシルエットを形成。ツギハギのシャツや肩パッドむき出しのジャケット、破れたストッキングといったクラシックな装いを解体し、可憐さとストイックさを共存させた。ネオンカラーやボタニカル柄を差し込んだ「サポートサーフェス(SUPPORT SURFACE)」は、涼しげな素材使いとコクーン型のボトムスで軽快な動きを演出。女性らしさを型にはめない、自由さを打ち出した。
type 3:
躍動する流線美、
刺激を与える色
「ヨシオクボ(YOSHIOKUBO)」はブレイキンとの共演を通じ、動きやスポーツウエアを起点に探求したシルエットやドレープを形成。静と動の切り替えを落とし込んだパターンに、エネルギッシュな色やグラフィックを差し込み、躍動感をもたらした。「ヴェイン(VEIN)」は榎本光希デザイナーのケガの経験から、体の痛みや癒やしに着想。包帯のアイデアも加えた。「エムエーエスユー(M A S U)」は手刺しゅうや結束バンドを用いたデタッチャブルな服で、作り手や着用者の解釈次第で姿を変える自由さを表現。“夢を旅する少年”を描いた「ミツル オカザキ(MITSURU OKAZAKI)」は、純粋な反抗心を大人の装いに投影。テーラードジャケットに走らせたファスナーの装飾が、身体の動きに沿って波打ち、無垢なエネルギーを形にした。