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連載 エディターズレター:MARKET VIEW 第63回

昭和の「SEPTEMBER」、令和の「SEPTEMBER」

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昭和の「SEPTEMBER」、令和の「SEPTEMBER」

SEPTEMBER そして9月は
SEPTEMBER さよならの国
めぐる季節の彩りの中
一番さみしい月

来週はもう9月。というわけで、竹内まりや「SEPTEMBER」(1979年、作詞・松本隆、作曲・林哲司)の一節です。歌は「からし色のシャツ 追いながら」というフレーズで始まります。ファッション業界風にカタカナに置き換えると、マスタードカラーですね。

「松本隆 言葉の教室」(延江浩著、マガジンハウス)によると、松本さんは女子大生の主人公が恋人を年上の女性に奪われてしまった失恋と新しいスタートを描こうとしたそうです。「辛子色のシャツを着た彼のあとを追いかけて(渋谷で)山手線に飛び乗ると、原宿あたりで街がイチョウで色づいている。黄色い世界が広がるわけです。夏から秋に季節が変わって、恋人の心も変わってしまう」。

歌詞は「トリコロールの海辺の服も 二度と着ることはない」で終わります。野暮を承知で解説すれば、季節の移ろいと恋の終わりを服装と色の変化に重ねているわけです。

この歌のように、夏の恋が秋に終わる切なさを歌ったヒット曲は数え切れないほどあります。世代によって思い浮かぶ曲は様々でしょうが、日本の多くの人が共感できる詩情なのでしょう。ぎらぎらした太陽が照りつける夏、普段とは違った開放感のある夏は、短いからこそドラマチックだったと言えます。

こうした名曲の数々も令和の季節感とは必ずしも合致しなくなりました。9月はおろか10月に入っても真夏のような暑さがだらだら続きます。J-POPの歌詞の世界も、俳句の季語も温暖化時代に合わせて更新されていくのかもしれません。

アパレルの商品カレンダーも変わります。小欄でたびたび紹介してきた三陽商会が唱える「五季」は、1年間を春・夏・夏・秋・冬の5つに区切る考え方です。1年の半分くらいが夏だと捉えて服を提案しないと、気温の現実と消費者のニーズに合わない。「ファッションの秋」はグッと短くなりました。

1979年に発表された「SEPTEMBER」の辛子色のシャツを勝手に想像すると、コットンの長袖のボタンダウンシャツでしょうか。歌詞の中で英和辞書を貸し借りしているので、たぶん大学生ですよね。ブランドは時代的に「ブルックスブラザーズ」がシティポップの山の手っぽい若者に合う気がします。でも2025年の「SEPTEMBER」の辛子色のシャツは半袖で、吸汗速乾やUVカットなどの機能がついたものでしょう。秋色・夏素材は9月のシーズンMDの常識になりました。

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