PROFILE: 有賀誠(ありが・まこと)/Hajimari執行役員人事統括(HRC)

フリーランスと企業のマッチングサービス「ITプロパートナーズ」や“上司代行”のメンタープロパートナーズなどを運営するHajimariが1月に発表した20~50代の会社員700名(管理職150人、非管理職550人)対象の「管理職に関する意識調査」によると、半数以上が管理職になることを拒否し、世代問わず管理職離れが明らかになった。管理職に就くことは、昇給し、責任も権限も増すが、仕事量の増加やハラスメント不安、部下のメンタルケアなど負担も大きいため、“管理職=罰ゲーム”とも言われ、忌避される傾向にある。人事エキスパートである、有賀誠Hajimari執行役員人事統括(HRC)に、今、求められる管理職像について聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2025年7月14日号「令和のプレイングマネジャー」特集からの先行公開で、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)
管理職の今と昔 “管理職=罰ゲーム”?
WWD:管理職に求められる役割は近年変わったと考えますか?
有賀:昔は年功序列があったので、「次は俺だな」という感覚で、自然に管理職になれましたが、今は「自分がマネジャーになるためにはどうすればいいか」と考えることが必要です。マネジャーになるためには準備が必要だし、そのスキルがちゃんと求められる時代になったと感じます。
WWD:昔は考える必要がなかった?
有賀:私が働き始めた1981年、つまり昭和は、日本企業は年功序列の終身雇用が前提。人が大勢いて、縦も横も密度が濃い組織でした。どこの職場にも必ず1年上に先輩がいて、2年上に先輩がいて、3年上に先輩がいて、1年経つと自分の1年下が入ってくるという感じ。1年後やその先の仕事のイメージもしやすかったですし、管理職もその流れで、たとえば5年経ったから課長というようなレールがありました。でも令和は年功序列や終身雇用はかなり薄くなっていて、来年自分の後輩が入ってくるとは限らない。成果を上げる優秀な人が先輩を追い越してしまうかもしれない。そうした環境の中で、企業もマネジャーになるための準備教育や研修機会を設けています。
WWD:海外企業や外資系の日本法人での経験も豊富だが?
有賀:日本企業では、スキルや経験がなくても年功序列の流れで管理職に昇進できる仕組みがありました。しかし、アメリカのような実力主義の企業では、もっとフラットな組織で個々の能力が重要視されます。人種のルツボで、いろいろな価値観あるいは宗教の集まりで、日本のように“阿吽の呼吸”でコミュニケーションができる世界ではありません。そんな多様な人で構成するチームをどうまとめていくかというところが、マネジャーの腕やスキルが問われるところでした。私自身は、20代にアメリカの子会社に出向するなかで、日米の企業で最も違うのは、人と組織だと考えるようになりました。昼間働きながら、夜ミシガン大学のビジネスクールに通ったのですが、戦略論と合わせて組織論やリーダーシップ論、労使関係も勉強しました。学んだことを仕事で使いたいと思い、38歳で米国企業に転職した時、初めての人事業務で、「部下が上司に逆らっていいんだ」を体験しました(笑)。
WWD:かつてと今のマネジメントスタイルの違いについてどう感じますか?
有賀:昔は本当に「監督」という感じで、結果を最優先にするスタイルが多かったですね。でも今は「キャプテン」タイプのリーダーが増えてきているんじゃないかなと思います。監督タイプは結果がすべてだけど、キャプテンタイプはチームワークや信頼関係を築くことが大事。それは今の若い人たちが求めているリーダー像に合っているのかもしれないです。キャプテンは、目の前の一点取るために仲間のハシゴ外したり裏切ったりは絶対にしないですよね。監督は勝つためには非情な判断もします。どっちがいい悪いではなく、強いチームには必ず、名監督、鬼監督と言われる人と、リスペクトされているキャプテンと両方がいますから。そして、1人のリーダーの中で、それが時間軸や必要に応じて変わっていくこともありますし、率いるチームのメンバーによっても求められるタイプが変わります。例えば、チームのメンバー5人が全員新入社員で、まだこれから仕事を覚える人たちだったとしたら、指示型のリーダーシップを発揮します。監督的かもしれません。一方で、同じ5人の部下だけれど、全員ベテランの部長で、自分が役員だったとすると、目標だけ決めたら、あとはやり方を任せる。その組織や人材のポートフォリオを見て、アプローチを変えなければいけないと思います。1人の中に「監督」と「キャプテン」の両方がちゃんとあり、使い分けられるのが理想ですね。
チームが力を合わせることで、大きな成果を生み出せる
WWD:マネジメントの魅力と難しさはどこにありますか?
有賀:自分がどんなに頑張っても100が150にしかならなりません。でも、チームとして協力すれば、1+1が3になったり、1000になったりする。そこにマネジメントの魅力があります。特に強いチームを作ることが一番の鍵になるので、そのシナジーを生み出すためにはどうするかが一番難しい。でもそこがやりがいでもあります。また、自分はできて当たり前のことが、部下はできなくて当たり前。でも、やらせてみないと部下は成長しません。マネジャーは任せてみて、あとは我慢。いい意味での失敗も部下にとっては大事です。我慢して、我慢して、我慢して、でも最悪の事態になる前に手を差し伸べる、みたいな。そこがマネジャーの肝だと思います。
WWD:どんな資質の人が向いていると考えますか?
有賀:優秀だといわれている人間が、どんなに頑張ったって、せいぜい100が150になるくらいです。でも、素晴らしいリーダーがいいチームを作ると、100+100+100が1000になったりするわけです。数字を達成した人がリーダーやマネジャーになっていることが多いと思いますが、自分1人で数字を叩き出すのではなくて、メンバーを育て、あるいはチームで1+1を3にできることこそ、マネジャーの実力です。メンバーに触発されて新しいアイデアが生まれたり、シナジー効果があったりすると、企業としての成長につながります。企業は、足し算を掛け算にできる人をマネジャーに登用するべきで、プレーヤーとして数字は出せるけれど、人に関心が持てないというようなタイプには、インセンティブで報いるという組織や評価の設計が必要だと考えています。
WWD:確かに「プレーヤーとしての実力=マネジャーとしての資質」ではないですね。
有賀:もちろんプロはいて然るべきだと思います。弁護士や医者をはじめ、専門職としてスキルを磨いていく。しかし、そのスキルの高さとマネジメント能力を混同してしまうと、「給料ばっかり高いけれど、マネジメントしていない」というような管理職がいる状況を生み出してしまったりします。専門職を極める人には、その専門性や実績に対しての報酬体系を作れば良いのです。プロエキスパートか、チーム作りができるゼネラルマネジャーか、どちらかになるべきです。中途半端ではなく。Hajimariでも業務上の成果を上げた社員がやマネジャーの候補にあがることになりますが、数字を達成するしたからだけでなく、人を育てたり、チームを作れたりする人であることも極めて重要大事です。
WWD:国内外のさまざまな企業を経て、社員の平均年齢が28歳のベンチャー企業への参加を決めました。マネジメントの難しさを感じた場面はありますか?
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