ファッション
特集 26年ファッション&ビューティ業界大展望 第16回 / 全18回

ヘラルボニーとやまなみ工房が紡いだ“障害者“が”作家“になる瞬間

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PROFILE: 吉田陸人/作家

吉田陸人/作家
PROFILE: (よしだ・りくと)1998年生まれ、滋賀県在住。2017年からやまなみ工房に在籍。ファッション誌の写真に落書きを始めたことが現在の作品性につながる。昨年は写真家・松岡一哲とヘラルボニーによる展覧会「遠い近さ 松岡一哲とやまなみ工房の宇宙」に参加した PHOTOS:YURIE FUNAI(TAKASE OFFICE)

表紙を制作した吉田陸人さんが在籍するやまなみ工房は、今年で40周年を迎える。1986年、滋賀県甲賀市に開設した当初は3人だったという利用者は、現在94人。それぞれ、自分だけの文字を描いたり、粘土で何十体もの偶像を作ったり、ひたすら糸を巻きつけたりなど、自分が見つけた“好き”に熱中している。87年から施設の運営に携わり、現在施設長を務める山下完和さんがこの場所で目にしたのは、障害がある人とその家族、社会の認識の変化だった。(この記事は「WWDJAPAN」2026年1月5日&12日合併号からの抜粋で、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)

山下完和/やまなみ工房施設長

PROFILE:(やました・まさと)1967年生まれ。やまなみ工房の前身であるやまなみ共同作業所に支援員として勤務後、2008年5月やまなみ工房の施設長となる

山下完和/やまなみ工房施設長

PROFILE:(やました・まさと)1967年生まれ。やまなみ工房の前身であるやまなみ共同作業所に支援員として勤務後、2008年5月やまなみ工房の施設長となる

WWD:開設当時のやまなみ工房はどんな施設だったのか?

山下完和やまなみ工房施設長(以下、山下):僕が働き始めたころのやまなみ工房は、周囲の人からは「特別な人やかわいそうな人が行く場所」「悪いことをしたらやまなみに入れるよ」と言われるような場所。その頃は「いかに就労に結びつくか」という視点から、利用者には内職作業をしてもらっていて、慣れない作業のストレスから精神的に不安定になる人も多かった。そんな中、1人の利用者が落ちていた紙に落書きをしていたーこれまでに見たことがない、楽しそうな表情だった。それを見て、まずは「ここにいる人たちが笑顔になる場所にしたい」と思い、試行錯誤しながら今に至る。

当時の僕たちスタッフは、そういった彼らの“好き”なものを作品だとは思っていなかった。ここでは今でも、誰もアートや障害の話をしないし、作品を生み出そうともしていないかもしれない。そんな空気感に、彼らは“否定も肯定もしない心地よさ”を感じているのだろう。そんな信頼関係の上で生まれた彼らの“好き”にたまたま企業が注目し「これはアートだ」と言ってくれたことは、僕たちにとって、社会の中で初めて居場所ができたような感覚だった。

WWD:作家たちの作品が商業利用されることに、抵抗感はあるか?

山下:ない。僕たちがいちばん怖いのは、“無視され続ける”ということ。「障害がある人たちが消費されているのでは」「利用されているだけだ」と、いろいろな意見を耳にする。でも僕たちは長い間、誰も振り向かない、見向きもしてくれない時代を経験してきた。企業がここにいる人たちの作品を利用することは決してネガティブなことではなく、それだけの価値があると認めてくれている証拠だと受け止めている。「消費されている」というのなら、消費してもらえるうちにいろいろな形を通じて、多くの人に僕たちの存在を知ってもらい、その思いを残していきたい。

企業と何かを作るということは、僕たちにとって一つの扉。たとえそれが「私たちは世の中に対して良いことをしている」という企業のアピールだったとしても、われわれにとっては社会への大事な入り口だ。そして、そこにさらなる安心感と希望を与えてくれたのがヘラルボニー(HERALBONY)だった。これまで僕たちが協業してきた会社にとって、やまなみ工房との取り組みはあくまで“福祉の世界の一部”。でもヘラルボニーとの取り組みでその世界の外にいる人たちともつながり、初めて“障害者”ではなく“作家”として評価を受けることができた。その結果、利用者も家族も、とても幸せで誇らしい顔をしている。怖さがあっても、ヘラルボニーとならまた新たな一歩を踏み出すことができる。

WWD:作品を作り続けることにより、作家に負荷がかかるという懸念がある。

山下:負荷ではなく、期待だと思う。彼らにとって、「これまでにないような経験を乗り越えたその先に楽しみが生まれる」ということは幸せなことなんじゃないだろうかー企業との協業によって、やまなみ工房と作家たちの日常だけでは見ることができなかった景色にたどり着くことができる。それは利用者の家族たちの人生観を変えることにもつながっていく。障害があることは、変なことでも、駄目なことでも、不幸でも、かわいそうでもないという、新たな価値観だ。

作ったものは全て「今日の大成功!」
作家たちが持つ“自分らしくいられる強さ”

WWD:やまなみ工房は今後、どのような施設でありたいか?

山下:「福祉施設はこうであるべき」というこだわりを持たないのが、僕のいちばんのこだわりなのかもしれない。やまなみ工房は、福祉業界の中では異端かもしれないけれど、一般社会ではそうではないはずだ。併設する「カフェ デベッソ(CAFE DE BESSO)」だって、多分他のカフェとほとんど変わらない。

僕ができることは、ここにいる人たちみんなが今日1日を穏やかに過ごすためにどうすればいいかを日々考えること。そして彼らの日常の潤いをなくさないためには、社会にもっと見てもらえるような環境づくりを続けていかなければならない。外の世界とのつながりは間違いなく、彼らにとってのモチベーションになっているはずだから。

WWD:山下さんが思う、作家たちの魅力とは?

山下:彼らは、“健常者”と呼ばれる人たちに追いつくために生まれてきたわけでもなければ、 追いつくために頑張っているわけでもない。自分を良く見せようともせず、周りに左右されずにただ大好きなことに打ち込んでいる。僕はそれがかっこいいと思っていて、どこか憧れているところがあるのかもしれない。だからこそそんなかっこいい彼らに好かれたいし、彼らのためにやっていることのほとんどは自分のためにやっていることなのだと思う。

僕は誰かに褒められたり、必要とされたりすることで100%の満足に辿り着くけど、陸人は他者の評価を抜きにして、自分自身の力だけで100%に達することができる。だからこそ、自分らしく在り続けられるのだろう。落ち込む根拠も、失敗もない。彼らにとって、作ったものは全て「今日の大成功!」。そして、昨日の成功には一切執着しない。そんな彼らの人間性に魅せられながら学ぶ日々だ。彼らと30年以上一緒にいることで、僕も自分自身が鍛えられ、成長していると思いたい。

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