WWDJAPAN.comは4月までマンガ版「ザ・ゴールシリーズ 在庫管理の魔術」を連載していました。在庫過剰に陥ると、つい値下げセールに頼ってしまう――。しかし、本当にそれしか方法はないのか? 利益を高め、最大化するための解決策を、アパレル在庫最適化コンサルで「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」「図解アパレルゲームチェンジャー」等の著者である齊藤孝浩ディマンドワークス代表が、同マンガを読みながら、解説して行きます。今回は、第12話を取り上げます。
本部のバイヤーと店舗 どちらが正確に需要を予測できるのか
今回のテーマは、「統計の集約効果」です。
マンガ「在庫管理の魔術」の第12話は コチラ 。
アパレル業界では、古くから「本部のバイヤーと店舗のどちらが、より正確に需要を予測できるのか」という議論があります。多くの経営者は「お客さまに近いところにいる店舗の方が、お客さまのことをバイヤーよりずっと分かっているから、店舗に発注させた方が良い」と語ります。
これはもっともらしく聞こえますが、実は、この考え方は統計学的には間違っているのです。
その理由は、店舗ごとに見ると売れる商品もあれば、売れないものもある、また、売れる日もあれば、売れない日もある。つまり、店舗ごと、商品、日によって売り上げにはかなりのバラつきがあるからで、そのバラつきを個店ごとに予測するのは極めて難しいものです。
今回のストーリーでも「ある店舗のある品番の需要を予測するのは、ひと月先の天気を的中させるくらい難しい」と説明されています。
これに対して、店舗の需要をグロス、つまり、地域や全店など、まとまった店舗数の合計で考えると、個店ごとのバラつき、つまりプラス分、マイナス分が相殺され、一定のビジネストレンドに収れんされ、全体の傾向がつかみやすくなります。これが、統計の集約効果です。
統計学では、9店舗の売り上げデータを集約すると店舗ごとに需要予測をするよりも精度が3倍に、16店舗ならば4倍に、25店舗なら5倍に、100店舗なら10倍に向上することが立証されています。店舗数が多い大手チェーンストアが、本部で一括して仕入れる「セントラルバイイング」を導入しているのは、このためです。
欠品品番の在庫の68%はどこか他のお店でダブついている?
また、このストーリーに出てくる「ハンナズ」のように、ある店舗で売り切れた商品の68%は他の多くのお店に在庫があるという状態はよくある話で、在庫を必要以上に持っている別の店舗から、欠品しているあるいは欠品しそうなお店に在庫を回すような体制をつくれば、機会損失が劇的に減って定価販売率が上がり、最終消化率も上がることになります。
主人公の徹が言うように、平均3割の商品が欠品しているという状態の中で、他店から在庫を回してもらえれば、欠品は1割程度に抑えられ、つまり、20%の機会損失が解消され、売り上げが20%増えるということも夢ではありません。
店舗ごとの予測よりも本部でまとめて予測した方が、精度が上がる「統計の集約効果」、あるお店で欠品している商品の在庫の68%はどこか他のお店でダブついている可能性があるという統計はマーチャンダイザーやバイヤーなど仕入れ担当の方や、ディストリビューターや在庫コントローラーのような在庫運用担当者の方々は、ぜひ覚えておいてください。