ファッション

クラウドファンディングで1億円調達し吸水ショーツを開発した「ベア ジャパン」の山本未奈子CEO  ランジェリー業界の開拓者vol.4

 新型コロナウイルスの感染拡大は、従来の商品やサービスの在り方に変化をもたらしている。対面のフィッティング接客や機能ありきの商品を重視してきた下着業界にも影響を及ぼしているのは言うまでもない。ライフスタイルが大きく変わり、既成概念に縛られない新たな価値観が下着にも求められている。この連載では、コロナ禍に先んじて新領域の商品やサービスを生み出してきた下着業界の開拓者を紹介する。

 第4回に登場するのは、吸水ショーツ“ベア シグネチャー ショーツ(以下、ベア)”を販売する「ベア ジャパン(BE-A JAPAN)」の山本未奈子・最高経営責任者(CEO)だ。2020年6月1日に始めたクラウドファンディングでは45日間で9062人から1億円以上の支援金を集めて話題になった。20年から国内で吸水ショーツの発売が相次ぐ中、“ベア”は、多い日の平均経血量の約3倍(約120m)と圧倒的な吸水量を誇る。20年7月末に自社ECで発売し、21年3月初旬までに4万枚を販売。また、新型コロナウイルスの医療従事者などに約3000枚寄付した。2月には多くの要望に応え、ジュニアライン“ベア ペティート シグニチャー ショーツ(以下、ペティート)”を発売した。
 

――美容家として知名度も実績もある中、吸水ショーツという異業種の商材を開発した理由は?

山本未奈子ベア ジャパンCEO(以下、山本):10年以上美容家として活動し、ビューティブランド「シンプリス(SIMPLISSE)」も展開しているが、最近は起業家として話す機会やフェムテック事業に関する活動が増えてその割合は半々になっている。09年にエムエヌシー ニューヨークを設立した当時から“女性特有の悩みを商品や情報で解決し、女性が自分らしく活躍する社会を作る”という目的を掲げており、「シンプリス」でもデリケートゾーン専用のソープや美容液、セクシャルヘルスのインナーケアアイテムなどを販売している。女性は生理の悩みを無意識に諦めていることも多いと思うが、吸収型サニタリーショーツをはくことで生理の煩わしさから解放され、女性がより活躍できる社会をつくれると思い“ベア”を開発した。近年フェムテック分野が注目され、25年までにその市場は5兆円になるといわれている。現在はジェンダーの平等や女性のエンパワーメントなどが社会課題で、私たちもこの分野にさらに力を注いでいきたい。

――クラウドファンディディングで1億円を集めたが、それは予測できたか?

山本:正直、そこまで反響があると思わなかった。達成したいとの思いから、目標金額は100万円と低めに設定したが、多くても1千万円達成できればうれしいと思っていた。1億円を超える結果を見て、多くの女性が“生理は辛い”という同じ悩みを抱え、新しい選択肢を探しているのだと実感した。

――スタートにクラウドファンディディングを選んだ理由は?

山本:そもそも資金調達を目的にクラウドファンディングを行ったのではない。吸水ショーツという新しい選択肢を多くの人に知って欲しいと思い、啓蒙活動の一環としてスタートした。昨年6月に始めたが、医療に従事する女性に寄贈すると発表したため、コロナ禍で社会貢献をしたいと思う人々やクラウドファンディング自体に興味を持つ人々の支援を得られた。支援金で15カ所の医療機関に“ベア”を寄贈しており、今後は、被災者の支援や養護学校、貧困に悩む子どもらへの支援も行う予定だ。

不安や苦痛から解放されたという声

――印象に残った声は?

山本:防護服の着用や激務でなかなかトイレに行くことができない医療従事者のから多くの感謝の声があり、うれしく思う。また、発達障害のある子どもを持ち悩んでいた母親から、「生理を理解できないためナプキンを替えることも難しかったが、これで安心できる」という手紙をもらったときは心から“ベア”を作って良かったと思った。女性として出生し性自認が男性であるトランスジェンダーに悩む人から「ナプキンを買うのも交換するのも苦痛だったが、解放された」という声もあった。生理用ショーツはリボンが付いたフェミニンなものが多く「“ベア”のシンプルなデザインがいい」という声もある。

――商品開発でもっとも苦労した点は?

山本:工場探しだ。海外の吸水ショーツをはいて満足できなかったこともあり、ナプキンやタンポンと併用しなくても漏れないショーツを作りたかった。10社以上の下着メーカーを回っても、「吸水量がそこまで高いものは作れない」「日本人は清潔好きだから、そんなものを作っても売れない」「通常のショーツ製造の5倍手間がかかる」と相手にされなかった。途方に暮れたが、尿漏れショーツを製造している工場との出合いがあり形にすることができた。その工場は尿漏れショーツ製造の高い技術を持っていた。担当の男性が海外の吸水ショーツが人気という記事を読んで、自社で作った試作品を妻にモニターしてもらっていたそうだ。“製造する技術はあるが、売る技術がない”同工場と、“製造する技術はないけれど、売る技術はある”というわれわれが協力体制を取ることで、お互いを補い会えると思った。“人々の生活を豊かにする”というゴールも共通だ。だから、運命共同体のような体制で新商品の開発に取り組んでいる。吸水ショーツは、1年前は当たり前ではなかったが、今は選択肢の一つになった。それが、私たちが一番挑戦したい革新を体現していると思う。

ドラッグストアやコンビニでも買えるように

――販路や新商品など今後の戦略は?

山本:オンラインを中心に考えていたが、伊勢丹新宿本店のイセタンシードや阪急うめだ本店のメゾン・ド・ランジェリーで販売が始まり、売り上げが大幅に伸びた。実際、手に取れる場が大切だと感じたので販路を増やし、多くの人に知ってもらいたい。価格は6900円、ペティートが6500円と安くはない。一方で、女性が1年間にナプキンなどの生理用品に使用する金額が6500円と言われているので、1年以上使用すればコスパは良いということになる。ゆくゆくはドラッグストアやコンビニ、キオスクなど手軽に買えるようになったらいいと思う。日本の高い技術を海外で広めたいので、アジアへ販路を広げ、グローバルなブランドにできればと思う。

――今後のフェムテック市場をどう見るか?

山本:吸水ショーツを展開するブランドは今後も増えていくと思うが、それにより、吸水ショーツが選択肢として確立されればいい。現在はデイリーモデル、尿漏れ用と新しいラインの開発を行っているが、私たちがそのマーケットリーダーになるためにはここ1年が勝負だ。生理や更年期、セクシャルヘルスなどが一般的なトピックスになり、女性の生活が豊かになるような商品がたくさん生まれればいいと思う。フェムテック市場には、20代、30代の事業者がいる中で、40代である私たちだからこそ発信できることもある。これから先の発展が楽しみだし、自社ビューティーブランド「シンプリス」ともシナジーを図りながら第一線で取り組んでいきたい。

川原好恵:ビブレで販売促進、広報、店舗開発などを経て現在フリーランスのエディター・ライター。ランジェリー分野では、海外のランジェリー市場について15年以上定期的に取材を行っており、最新情報をファッション誌や専門誌などに寄稿。ビューティ&ヘルス分野ではアロマテラピーなどの自然療法やネイルファッションに関する実用書をライターとして数多く担当。日本アロマ環境協会認定アロマテラピーアドバイザー。文化服装学院ファッションマーチャンダイジング科出身